④ 神谷の調査
神谷は三日を使った。
王を問い詰めるためではない。
王の“答え方”を調べるために。
まず向かったのは記録庫だった。
石造りの地下室に、王宮の文書が年代ごとに積み上げられている。
謁見記録。
政務要旨。
側近の日報。
書記官の速記。
埃と乾いた紙の匂いの中で、神谷は古い帳面を次々と開いた。
「先王崩御後の混乱期、陛下はこう仰せです」
書記官が横で読み上げる。
――我が国は剣で守る。弱腰は滅びを呼ぶ。
数頁後。
――民を飢えさせぬことこそ王道。戦は最後の手段だ。
また別の日。
――信仰なくして国家は成り立たぬ。
さらに別の日。
――迷信に頼る国は滅びる。
神谷は無言で頁をめくる。
内容だけ見れば、珍しくもない。
王が場に応じて発言を変えることなど、政治そのものだ。
だが違和感は、そこではない。
次に神谷は、王の側近たちへ個別に話を聞いた。
老騎士には、軍議での王について。
若い司祭には、礼拝での王について。
財務官には、税制会議での王について。
返ってくる言葉は、どれも一致していた。
「陛下は勇ましいお方です」
と老騎士は胸を張る。
「戦場の歴史にもお詳しい。若き日に剣を取られたと」
司祭は穏やかに微笑む。
「いいえ、敬虔なお方です」
「幼い頃から神殿に通われ、毎朝祈りを欠かされぬとか」
財務官は眼鏡を押し上げる。
「理知的ですな」
「感情論を嫌い、数字で物を見られる」
三人とも本気でそう信じていた。
三人とも、それぞれ別の王を語っているのに。
神谷は最後に、自分自身の記憶を引き出した。
召喚された初日の謁見。
王は落ち着いていた。
恐怖を煽らず、論理的に状況を説明し、勇者としての役割を淡々と語った。
感情より理屈。
まるで、自分に最適な姿で現れたかのように。
(……そういうことか)
神谷は中庭の回廊を歩きながら、ようやく形になった考えを追う。
王の発言はランダムではない。
気分でも、老いでもない。
矛盾しているのに、常に自然。
軍人の前では、強気な過去を語る。
聖職者の前では、信仰深い少年時代を語る。
財務官の前では、冷徹な合理主義者になる。
神谷の前では、理知的な統治者になる。
その場その場で、最も納得される王。
最も望まれる王。
最も自然な王。




