表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/167

⑪ だが違和感(重要)

医師が連行された後、部屋には重い静けさだけが残った。


 


騎士たちは遺体の搬送準備を始め、侍女たちは目を伏せて後片付けに入る。


誰もが事件は終わったと思っていた。


 


神谷以外は。


 


彼は窓際に立ち、薄曇りの空を見ていた。


 


(まただ)


 


心の奥で、その言葉が沈む。


 


事件は解けた。


手口も、犯人も、動機も揃っている。


論理として破綻はない。


 


それなのに――


 


胸の底に、わずかな引っかかりが残る。


 


神谷は振り返り、遺体のあった床を見る。


そこにはまだ、かすかな痕跡だけが残っていた。


 


毒の量。


 


多すぎれば即死し、回復の前に騒ぎになる。


少なすぎれば助かる。


 


ちょうどよく苦しみ、ちょうどよく死ぬ量。


 


回復のタイミング。


 


早すぎれば助命になる。


遅すぎれば毒が検出される。


 


症状が進み、なおかつ証拠だけ消える瞬間。


 


そして、ダメージの残り方。


 


毒だけ消え、身体機能の損傷だけが残る。


 


都合よく。


綺麗に。


完璧に。


 


(こんなに綺麗に決まるか?)


 


神谷は目を細めた。


 


毒殺は計算が狂いやすい。


体格、体調、食事、吸収速度。


人間の身体は単純な器ではない。


 


まして回復魔法など、不確定要素の塊だ。


術者の精度。

術式の癖。

対象の抵抗。


 


それらすべてが噛み合って、初めてこの結果になる。


 


成功率が、異様に高すぎる。


 


「勇者殿?」


 


振り向くと、若い魔導士が立っていた。


 


「何か……まだ問題が?」


 


神谷は少し考え、首を横に振った。


 


「いや」


 


答えながらも、思考は止まらない。


 


第1話の密室。

第2話の証言の乱れ。

第3話の変化する記録。

第4話の揺らぐ空間。


 


そして今回。


 


人間の犯行として説明はつく。


だが、どれもどこか“出来すぎている”。


 


まるで――


 


誰かが、人間の悪意を最も成立する形に整えているように。


 


(……考えすぎか)


 


そう切り捨てようとした瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 


部屋の隅。


薬棚のガラス扉に、自分の姿が映っている。


 


その顔が、一瞬だけ見知らぬものに見えた。


 


瞬きをすると、元に戻る。


 


ただの疲労か、光の加減か。


 


だが神谷の胸中に、嫌な確信だけが残った。


 


(人間の事件は解ける)


 


(だが、その“起こり方”が不自然だ)


 


視線を窓の外へ戻す。


曇天は、なお低い。


 


(この城には、まだ別の何かがいる)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ