⑪ だが違和感(超重要)
連行されていく魔導士の背中が、扉の向こうに消えた。
重い音を立てて閉まる。
それで――
すべてが終わった、はずだった。
誰かが、安堵の息を漏らす。
「……解決、か」
その言葉に、何人かが小さく頷いた。
理屈は通っている。
犯人も捕まった。
もう、考える必要はない。
――普通なら。
(……違う)
神谷は、一人だけ動かなかった。
視線は、閉じられた扉に向いたまま。
(成立しすぎている)
頭の中で、もう一度、事件をなぞる。
転移魔法。
条件発動。
座標固定。
理屈としては、完璧だ。
(完璧すぎる)
わずかに、眉が寄る。
あの精度。
あのタイミング。
「偶然」で片付けるには、整いすぎている。
(ピンポイントで成功している)
被害者が入室した瞬間。
誤差なく、急所へ。
(そんなに都合よく決まるか?)
ほんのわずかなズレで、失敗するはずだ。
それなのに――
(成功している前提で、話が進んでいる)
違和感。
さらに。
(証言も、綺麗すぎる)
「誰も入っていない」
「一人だった」
「結界は正常」
すべてが、噛み合っている。
まるで――
(“そう見えるように”揃っている)
神谷の思考が、ゆっくりと沈む。
(タイミングも完璧だ)
目撃。
入室。
発動。
発見。
どこにも、ズレがない。
(こんなに“綺麗に決まる事件”があるか?)
現実は、もっと雑だ。
もっと曖昧で、もっと崩れる。
なのに、これは――
(出来すぎている)
ふと。
第2話の光景が、頭をよぎる。
食い違う証言。
そして――
“全員が本気で間違っている”という事実。
(もし)
そこまで考えて、止まる。
(……いや)
首を振る。
まだ、繋げるには早い。
証拠がない。
だが。
(何かが、整えられている)
静かに、確信だけが残る。
解決したはずの事件。
その裏側に――
“完成度の異常さ”だけが、取り残されていた。




