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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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⑥ 記録④:完全崩壊

神谷は、次のページをめくった。


――瞬間、空気が変わる。


文字が、崩れていた。


それまで辛うじて保たれていた形が、完全に壊れている。


線は歪み、筆圧は乱れ、同じ大きさを保てていない。


まるで、書きながら手が震えていたかのように。


神谷は無言で目を走らせる。


『いるいるいるいるいるいる』


一行、すべて同じ言葉。


隙間もない。


詰め込まれている。


『おう おう おう おう』


今度は間隔がバラバラだ。


意味を持っていない。


いや、持たせる余裕がない。


『ちがう』


『ちがう』


『ちがう ちがう』


『かおが』


『かおがちがう』


文章になっていない。


断片。


叫び。


思考の残骸。


神谷の指が、わずかに止まる。


(完全に壊れている)


理性はもうない。


分析も、観察も、消えている。


残っているのは、“認識できない何か”への反応だけだ。


『みている』


『みているみているみている』


『どこから』


『ちがう ちがう ちがう』


同じ言葉が、形を変えて繰り返される。


訂正の跡すらない。


もはや、“整える”という意識が存在していない。


神谷は、静かにページの端を押さえた。


紙が、わずかに軋む。


(ここまで、来たか)


段階ははっきりしている。


正常。


違和感。


崩壊の兆候。


そして――完全な破綻。


そこに、例外はない。


神谷は、最後のページへと手を伸ばした。


(終わりだ)


ゆっくりと、めくる。


そこには、たった一行だけが書かれていた。


他のページと違い、


不気味なほど整った文字で。


『魔王はこの中にいる』


神谷の思考が、一瞬止まる。


乱れていない。


震えていない。


まるで、最初の頃と同じような、冷静な筆跡。


それが逆に、異様だった。


(なぜ、ここだけ……)


完全に壊れていたはずだ。


言葉も、思考も、形を保てていなかった。


なのに――


(これは、“伝えるための文”だ)


最後に残された、明確な意思。


神谷はその一文を見つめたまま、動かなかった。


(誰が書いた)


疑問が浮かぶ。


勇者か。


それとも――


神谷はゆっくりと目を細めた。


(書かされたのか)


その可能性が、静かに浮かび上がる。


“理解させられた”結果として。


“伝えさせられた”言葉として。


神谷は本を閉じた。


乾いた音が、室内に響く。


(……これは記録じゃない)


そこにあるのは、


ただの過去ではない。


何かに触れた人間が、


壊れていく過程そのものだった。


そして、その最後に残るのは――


一つの結論だけ。


神谷の中で、その言葉が静かに反復される。


(魔王は、この中にいる)

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