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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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③ 記録②:違和感の発生

神谷は、次のページをめくった。


文章の調子は、まだ保たれている。


だが――どこか、わずかに引っかかる。


違和感と呼ぶには小さい。


だが、確かに“変わっている”。


『魔王に関する調査を継続中』


『しかし、依然として正体は不明』


『被害は確認されているが、決定的な証拠がない』


ここまではいい。


むしろ当然だ。


だが、その次の一文で、神谷の指が止まった。


『誰も見ていない』


短い。


それまでの文体と、明らかに違う。


神谷はゆっくりと読み進める。


『目撃者が存在しない』


『いや、いるはずだ』


『だが、一致しない』


神谷の目が、わずかに細くなる。


(証言が一致しない)


第2話と同じ構図。


だが、それが記録として残っている。


しかも――


『同じ出来事のはずなのに、内容が違う』


『報告が噛み合わない』


『誰が正しいのか分からない』


“分からない”という言葉が増えている。


断定が減り、迷いが混じる。


(揺らいでいる)


まだ崩れてはいない。


だが、確実に“ズレ始めている”。


神谷は無言でページをめくる。


『本日、同一人物を二度見た』


その一文で、空気が変わった。


神谷の指が止まる。


『いや、同一人物のはずだ』


『顔も、声も一致している』


『だが、何かが違う』


言葉が、わずかに乱れる。


『記録と現実が一致しない』


『昨日の報告と、今日の状況が噛み合わない』


『私の認識が間違っているのか』


神谷は静かに息を吐いた。


(……始まっている)


これは単なる混乱ではない。


認識の揺らぎ。


観測と記録のズレ。


つまり――


(現実の固定が崩れている)


神谷はゆっくりとページを撫でた。


紙は変わらない。


文字も消えていない。


だが、その中に書かれている“世界”が、


少しずつ歪んでいく。


『同じ人物のはずなのに、違う』


『何が違うのか、説明できない』


『だが、違う』


その繰り返し。


理屈ではなく、“感覚”が侵食している。


神谷は目を細めた。


(ここまでは、まだ耐えている)


理性で押さえ込んでいる。


分析しようとしている。


だが――


(長くは持たない)


このまま進めば、必ず壊れる。


その確信があった。


神谷は、次のページへと手を伸ばした。


(どこで崩れる)

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