⑩ だが違和感
騎士たちの足音が、遠ざかっていく。
連行されていく犯人の姿は、やがて廊下の奥へ消えた。
残されたのは、静けさ。
そして、わずかに残る血の匂い。
「……終わったな」
誰かが小さく呟く。
否定する者はいない。
事件は解決した。
犯人も、動機も、方法も明らかになった。
全てが、理屈の上では綺麗に収まっている。
だが――
神谷は動かなかった。
視線は、先ほどまで騎士が倒れていた場所に向いている。
(……終わっている、はずだ)
思考の中で、もう一度整理する。
犯人は一人。
暗がりで待ち伏せ。
一撃で殺害。
証言は全て“断片”。
論理は破綻していない。
(なら、何だ)
違和感の正体が、掴めない。
神谷はゆっくりと息を吐いた。
(証言がバラけすぎている)
ここまで極端にズレることがあるのか。
色が違う。
動きが違う。
方向が違う。
存在すら違う。
(偶然にしては、やりすぎだ)
もちろん、理屈は説明できる。
光。
角度。
距離。
恐怖。
それらが重なれば、認識は歪む。
だが――
(ここまで“綺麗に”崩れるか?)
まるで、最初から“揃わない”ように配置されたかのように。
神谷はわずかに目を細めた。
(誰かが歪めた?)
その考えが一瞬浮かび、すぐに消える。
証言そのものを操作する方法は、現時点ではない。
少なくとも、証拠はない。
(なら……)
答えは出ない。
だが、違和感だけが残る。
神谷は廊下の奥を見つめた。
暗闇は、何も語らない。
だが、その沈黙が妙に重い。
(まだ、何かある)
確信ではない。
だが、無視できない感覚。
神谷はゆっくりと踵を返した。
この事件は終わった。
だが、“問題”は終わっていない。
その予感だけが、静かに残っていた。




