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⑧ 神谷の核心セリフ
沈黙が、場を支配していた。
先ほどまでのざわめきは消え、誰もが言葉を失っている。
自分の証言が否定されたからではない。
――“自分の認識”そのものが揺らいだからだ。
神谷は、その空気の中でゆっくりと口を開いた。
「人は、見たものをそのまま覚えない」
誰に向けたわけでもない。
だが、全員に届く声だった。
「目に映った情報を、そのまま保存することはできない」
一歩、静かに歩く。
「必ず、意味を与える」
「理解しようとする」
視線が、証言した者たちを順に通り過ぎる。
「そして、“理解した形”で記憶する」
若い騎士がわずかに顔を伏せる。
侍女は唇を噛む。
騎士団長でさえ、わずかに視線を逸らした。
神谷は続ける。
「だから、同じものを見ても」
一拍。
「同じ記憶にはならない」
静寂。
その事実は、否定できないほど自然だった。
神谷はわずかに息を吐く。
そして、最後の一言を落とした。
「だから証言は――」
ほんのわずかな間。
誰もが、その続きを待つ。
神谷は静かに言い切った。
「簡単に歪む」
言葉が、重く沈んだ。
それは説明ではなく、宣告に近かった。
この世界では、“見た”という事実すら信用できない。
その現実が、静かに全員の中へ染み込んでいく。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。




