⑦ 真相解明
神谷は、ゆっくりと全員を見渡した。
誰もが言葉を失い、先ほどまでの“証言”を頭の中で反芻している。
神谷は静かに口を開いた。
「結論から言います」
一瞬の間。
「犯人は一人です」
ざわめきが走る。
「な……!」
「だが、証言が――」
神谷は手を軽く上げ、制した。
「証言は関係ありません」
その言葉に、空気が止まる。
神谷は続ける。
「この事件は、単純です」
一歩、踏み出す。
「犯人は、この廊下で待ち伏せした」
視線が現場へ向く。
「灯りの届かない、この暗がりで」
神谷の足が、実際にその位置へ移動する。
「被害者が通りかかった瞬間、接近し――」
わずかに手を動かす。
「一撃で仕留めた」
静かな説明。
だが、無駄がない。
「そして、そのまま離脱した」
騎士団長が低く問う。
「だが、目撃者がいる」
神谷は頷く。
「はい。見ています」
一拍置く。
「ただし、“全部は見ていない”」
沈黙。
神谷は順に視線を向ける。
「若い騎士」
その名を呼ばれ、騎士が身を固くする。
「お前は、“動き”を見た」
「暗闇の中で、何かが素早く動いた」
「だから、“黒い影が走った”と認識した」
騎士は息を呑む。
否定できない。
神谷は次に侍女を見る。
「お前は、“印象”を見た」
「灯りの当たる角度で、服の一部が明るく見えた」
「だから、“白い服の人”と認識した」
侍女が小さく頷く。
「……はい」
神谷は騎士団長へ。
「あなたは、“見ていない”」
「視界に入らなかった」
「だから、“存在しなかった”と認識した」
騎士団長は何も言わない。
だが、その沈黙が答えだった。
最後に、音だけの騎士へ。
「お前は、“音だけを拾った”」
「だから、人の姿は補完されなかった」
騎士は俯く。
神谷は静かに言い切る。
「全て、正しい」
一瞬、間を置く。
「そして――全て、間違っている」
その言葉が、重く落ちる。
「誰も全体を見ていない」
「断片だけを見て、それを“全体”だと思い込んだ」
神谷はゆっくりと周囲を見渡す。
「だから証言は食い違う」
静かに、だが確実に。
「だが、現実は一つです」
視線が、倒れた騎士へ向く。
「犯人は一人」
「暗がりを利用し、最小限の動きで殺害し、離脱した」
「それだけです」
沈黙。
複雑に見えていたものが、一気に単純になる。
神谷は最後に言った。
「証言が多いほど、真実は見えにくくなる」
その一言が、静かに場に残った。




