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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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15/56

② 事件の概要

人垣がわずかに開き、空間が確保される。


神谷は無言のまま前に出た。


足元には、倒れた騎士。


まだ若い。顔立ちに幼さが残っている。鎧も新しく、使い込まれた傷が少ない。


(新人に近い)


視線を落とす。


胸部。


鎧の継ぎ目を正確に突かれている。


無駄のない一撃。


神谷は膝をつき、傷口を確認した。


血は広がっているが、量は限定的だ。


急所を一突き。


(即死に近い)


抵抗した形跡はほとんどない。


床にも争った跡は見当たらない。


(気づく前にやられている)


神谷はゆっくりと周囲を見渡した。


廊下は一直線に伸びている。


左右に扉はいくつかあるが、どれも閉まっている。隠れる場所はない。


天井は高く、灯りは間隔を空けて設置されている。


そのせいで、この場所だけわずかに暗い。


(視界が悪い)


神谷は立ち上がった。


「凶器は」


騎士団長に短く問う。


「見つかっていない」


即答だった。


「周囲はすでに調べさせている。だが、それらしいものは――」


言葉を切る。


つまり、まだ出ていない。


神谷は小さく頷いた。


(持ち去られたか)


あるいは――


(最初からここにない)


どちらにせよ、犯人は現場に留まっていない。


視線が、自然と集まっている騎士たちへ向く。


数人が明らかに動揺している。


そして、その中の何人かは、はっきりと“見ている顔”をしていた。


神谷は一歩近づく。


「誰が最初に見つけた」


一人の騎士が手を挙げた。


「俺です。巡回中に……」


声がわずかに震えている。


「そのとき、誰かを見たか」


その問いに、間を置かずに答えが返ってきた。


「見ました」


別の騎士も口を開く。


「私も……」


さらにもう一人。


「人影が走って……」


声が重なる。


神谷は目を細めた。


(複数)


しかも、独立した証言。


一人ではない。


二人でもない。


三人以上。


(全員が、“何かを見ている”)


これは、第1話とは決定的に違う。


あのときは、誰も見ていなかった。


だが今回は違う。


目撃者がいる。


それも、複数。


神谷はゆっくりと息を吐いた。


(条件は揃っている)


目撃者がいる。


現場は開けている。


物理的な殺害。


普通なら、解決は難しくない。


だが――


神谷の視線が、再び騎士たちへ向く。


彼らの表情。


そして、先ほどから微妙に噛み合わない言葉。


(問題は、“何を見たか”だ)


同じものを見たはずの人間が、


同じことを言っていない。


神谷は静かに確信した。


(この事件は、“証言”が鍵になる)


そして同時に。


(その証言が、一番信用できない)

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