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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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16/63

③ 証言ラッシュ(ミスリード構築)

「順番に聞く」


神谷は短く言った。


ざわついていた場が、わずかに静まる。


「見た者から話せ」


最初に名乗り出たのは、若い騎士だった。


まだ息が荒い。顔色も青い。


「俺が……最初に気づきました」


「何を見た」


神谷の問いに、騎士は即座に答えた。


「黒い影です!」


強く言い切る。


「フードを被っていて、顔は見えませんでした。細身で……すぐに走り去っていったんです」


「方向は」


「右です。あっちへ!」


廊下の奥を指差す。


迷いはない。


はっきりと“見た”者の言い方だった。


神谷は頷く。


「分かった」


メモを取る仕草だけして、次に視線を移す。


「次」


今度は、少し離れた位置にいた侍女が、おずおずと手を挙げた。


「……私も、見ました」


声は控えめだが、確信はある。


神谷は同じ問いを投げる。


「何を見た」


侍女は一瞬だけ考え、答えた。


「白い服の方でした」


沈黙。


若い騎士が思わず振り向く。


「は?」


侍女は続ける。


「フードはありませんでした。ゆっくりと歩いていて……」


指先が、反対側を示す。


「左の方へ行かれました」


完全に逆だ。


色も、動きも、方向も。


神谷は表情を変えない。


「顔は見たか」


「いえ……はっきりとは」


「だが、人だったと?」


「はい」


迷いなく頷く。


その様子は、嘘をついているようには見えない。


空気がざわつき始める。


神谷はそれを制した。


「次」


今度は、騎士団長が腕を組んだまま口を開いた。


「そのような者は見ていない」


低い声だった。


断定。


「私は巡回に出ていた。この廊下も通っている」


視線が現場を一瞥する。


「だが、異常はなかった」


神谷は問い返す。


「時間は」


「事件の直前だ」


「人影は?」


「ない」


即答。


一切の揺らぎがない。


若い騎士が反論しかける。


「ですが、俺は――」


「見間違いだ」


騎士団長は切り捨てた。


空気がさらに重くなる。


「最後に」


神谷は別の騎士に視線を向けた。


「お前は」


指された騎士は一瞬たじろぎながらも答えた。


「俺は……見ていません」


神谷は静かに促す。


「何を聞いた」


騎士は唾を飲み込む。


「音だけです」


「音?」


「争うような……何かぶつかる音と、それから……」


言葉を探す。


「短い声が」


「誰の姿も見ていないのか」


「はい。駆けつけたときには、もう……」


視線が床の遺体へ落ちる。


沈黙。


四つの証言が出揃った。


黒い影が、走って右へ。


白い服が、歩いて左へ。


誰も見ていないという断言。


音だけを聞いたという証言。


神谷はゆっくりと息を吐いた。


(……バラバラだ)


一致している部分が、一つもない。


色も、動きも、方向も、存在そのものも。


全てが食い違っている。


だが。


神谷は一人ずつの顔を見る。


若い騎士は必死に思い出そうとしている。


侍女は不安そうにしながらも、言葉を選んでいる。


騎士団長は揺るがず、確信している。


別の騎士は、戸惑いながらも正直に答えている。


(……嘘をついている顔じゃない)


誰もが、自分の見たものをそのまま話している。


少なくとも、そう“信じている”。


それでも、これだけズレる。


神谷は静かに目を細めた。


(なら)


答えは一つしかない。


(全員、間違っている)


その結論だけが、静かに浮かび上がった。

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