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魔王はこの中にいる  作者: 南蛇井


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第2話「証言の崩壊」 ① 導入:余波と不穏

城の空気は、明らかに変わっていた。


廊下を行き交う者たちは皆、どこか落ち着かない。視線は無意識に周囲を警戒し、言葉は必要以上に小さい。


笑い声は消え、代わりに囁きが増えた。


「本当に……あの魔導士が……?」


「だが、あの勇者が……」


「いや、それよりも……“あの話”だ」


声は途中で途切れる。


誰もが、その先を口にするのを避けていた。


――魔王は、この中にいる。


その言葉は、まだ公にされたわけではない。


だが、確実に広がっていた。


形を持たない疑念として。


神谷は廊下を歩きながら、その空気を感じていた。


(広がっている)


誰かが意図して流したわけではない。


だが、あの場にいた人間がいる限り、止めようがない。


(疑いは、消えない)


一度生まれたものは、必ず増幅する。


それが人間だ。


神谷は足を止め、窓の外を見る。


夜の闇が、城を包んでいる。


(……内部)


その言葉が、頭の中で静かに反復される。


外ではない。


中だ。


だが、それが“誰”なのかは、まだ分からない。


あるいは――


(本当に“誰か”なのか?)


そこまで思考が進みかけた、そのときだった。


――悲鳴。


今度は、短くはない。


引き裂くような、はっきりとした叫び声。


神谷はすぐに振り向いた。


廊下の向こう、角の先。


複数の足音が一斉に動き出す。


「何だ!」


「向こうだ!」


騎士たちの声。


緊張が、一気に張り詰める。


神谷も駆け出した。


現場は、すぐに分かった。


廊下の中程。


灯りの届きにくい、やや暗い場所。


すでに数人の騎士が集まり、周囲を取り囲んでいる。


「どけ!」


騎士団長の声が響く。


人垣が割れる。


神谷はその隙間から中を覗き込んだ。


床に、一人の男が倒れている。


若い騎士だ。


鎧の隙間から血が滲んでいる。


胸部。


刺し傷。


呼吸は――ない。


「……やられたか」


誰かが低く呟く。


神谷は一歩近づき、状況を確認する。


傷は一つ。


深い。


一撃で仕留められている。


(物理的な殺害)


第1話とは違う。


魔法でも、密室でもない。


もっと直接的な、暴力。


神谷は周囲を見渡した。


廊下は一直線。


隠れる場所はない。


だが――


「見た者はいるか!」


騎士団長の声が響く。


すぐに、数人が手を挙げた。


「俺は見ました!」


「私も……!」


「人影が……!」


次々と声が上がる。


神谷の目が細くなる。


(……複数)


しかも、即座に。


つまり。


(今回は、“誰かが見ている”)


密室ではない。


目撃者がいる。


犯人は、どこかにいるはずだ。


神谷は静かに息を吐いた。


(なら、簡単だ)


そう思いかけて――


わずかに、違和感が走る。


騎士たちの表情。


焦り。


そして、微妙な“食い違い”。


「黒い影でした!」


「違う、白い服の……!」


「いや、そもそも見ていない!」


声が、ぶつかり始める。


神谷はその様子を見ながら、ゆっくりと目を細めた。


(……もう、崩れている)


証言が、一致していない。


しかも、最初から。


神谷は視線を落とし、倒れた騎士を見た。


(今回は密室じゃない)


(だが――)


静かに思考を続ける。


(別の意味で、“閉じている”)


真実に辿り着く道が。


すでに歪み始めている。


神谷は顔を上げた。


(証言がある事件ほど、厄介だ)


そう確信しながら。

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