⑬ ラスト
聖堂は、静まり返っていた。
誰もが言葉を失い、それぞれの思考に沈んでいる。
床に残された文字。
侍女の証言。
そして、解決したはずの事件。
全てが、奇妙に噛み合い始めていた。
神谷は目を閉じる。
一つずつ、要素を並べる。
密室。
外部からの侵入はない。
殺害は成立している。
ならば、原因は内部。
それは、この事件に限らない。
(最初から、そうだった)
魔王。
目撃者はいない。
居場所も分からない。
だが被害だけがある。
(外にいない)
ならば。
(中にいる)
神谷はゆっくりと目を開けた。
視線が、場にいる人間たちをなぞる。
王。
宰相。
騎士団長。
侍女長。
騎士たち。
誰もが、それぞれの顔で立っている。
だがその全員が、今や“外側”ではない。
(聖女は言おうとした)
“いる”と。
そして、残された断片。
“おう”。
未完成の言葉。
(繋がる)
断片と証言が、一本の線になる。
(魔王は、外にいるんじゃない)
静かに、確信が形を取る。
(この城の中にいる)
その結論は、あまりにも自然で。
そして、あまりにも異様だった。
神谷は、わずかに息を吐く。
胸の奥に、冷たいものが落ちる。
(だとすれば――)
一瞬の間。
思考が、さらに奥へ踏み込む。
(“誰か”じゃない可能性もある)
だが、それを言葉にするには、まだ足りない。
神谷は口を開きかけて――止めた。
視線だけが、静かに場を見渡す。
そして、誰にも聞こえない声で、続けた。
「――そして」
その先は、まだ言わない。
言えない。
理解した瞬間に、何かが変わる気がした。
聖堂の空気は、もう元には戻らない。
疑念ではない。
もっと曖昧で、もっと根深い何かが、
この場に、確かに“いる”。
神谷はただ、それを見つめていた。




