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第31話 佐藤拓磨との決着と大国照子とのデート

 こいつコーナー攻めすぎだろ。後ろに人乗っけてるの考えろよな。

 俺もバイク転がしたことあるから解ったつもりでいたけど、後ろって怖いわ、全然違う。でも二人乗りのコーナーで普通こんなに倒すか? 掴まる物がテルの身体しかない。そのテルに合わせて重心移動させながら身体起こさなければ倒れちまう。テルのどっかを掴んでなければ身体が起きない。最初のコーナーの時なんてオッパイ掴んじゃったじゃねぇかよ。やばいと思って手を下の方にズラしたら、次のコーナーじゃマズイとこ掴んじまって感触まで覚えてる。黒いジャージ生地のツナギ着てるけど、まさかノーパンじゃないよな。しかし普通はなんか言わないか。女なのにそんなとこ掴まれても全然関係ないみたいにアクセルふかしてる。


「テルーーーーー! コーナー入る前にーーーーー! ちょっとスピード落とせーーーーー!」

「あああああああああああ??」


 二人ともフルフェイスのメット被ってるせいか、全然通じない。

 暫くしてようやっと停まってくれた。


「アタシがしょっちゅう触ってるから、お返しか?」

「……ちっ、違うって……わざとじゃ…」

「でもいいよ。けっこう面白いな、触られるってのも。それより、あら、あれ見えるか?」



 テルが指をさした方を見ると、家と家の間から俺の家が見えた。そして家の前には何台もの車が停まっていて、カメラやマイクを持ってウロウロしている輩が大勢いた。昨日の今日だからまだマスコミがいるだろうと思ってはいたが、改めてそれを見ると、うんざりした。俺はいつまでテルの所に厄介になっていなければならないんだ。ガックリと力が抜けて腹も立たない。それにしても近所迷惑なんてお構いなしか。どんな神経してんだ?


「学校の方も行ってみるか」


 学校の周りは物々しく異様な雰囲気だった。夏休み中も先生たちはやる事があるらしく出勤しているようだが、校門は完全に閉ざされ、その前にはホースを持った何人もの男の人が立っていた。そしてそれを遠巻きにしたマスコミがいて、数台のパトカーも見えた。誰が警察呼んだんだろう? 

 そのパトカーに連絡が入ったようで、全部のパトカーが回転灯を回しサイレンを鳴らしながら急発進して行った。


「なんかあったみたいだな。面白そうだから付いてくぞ」

「いいけど、俺達2人とも免許なんて持ってないんだからな」

「堂々としてりゃいいんだって。ほら行くゾ」

「ところでよ……まさか下着付けてるよな?」

「そんなの着てない。なんでよ?」


 勘弁してくれ。それでなくても昨日から妙に美人で困ってんだから。


「ハル! なにやってんだ! そんなんじゃ振り落とされるぞ! 身体のどっか掴め!」



 大通で赤の会の車2台を大勢の自警団が取り囲んでいた。全員が武器のような物を持っている。


「おい、あれってナニ持ってんだ?」

「剣先スコップが多いな。あれ振り回したら人間の首だって飛ぶぞ」

「剣先か……そう言えばアレ研いでる年寄りっているよな。なにするつもりで研いでんだろ?」

「ヒマなんだろう」


 警察がハンドマイクで解散するよう呼び掛けている中、1人の自警団が赤の会の車に近づき剣先スコップを振りかぶった。そしてなんの躊躇いもなくフロントガラスに振り下ろし、それを合図に大勢の自警団が襲い掛かった。こいつら正気か?


「こりゃ~機動隊でも呼ばなきゃ手に負えないな。もういいや、ハル行くぞ、ちゃんと掴まれよ。へんにモジョモジョやられたら気になる。オッパイだろうが股間だろうがカッチリ掴め」



 最近建てられたマンションの前に来た。7階建て。こんな街に、こんなマンション建てて誰が住むんだ、って思ってたけど、佐藤拓磨が母親と2人で7階に住んでいると言う。

 佐藤拓磨の母親は、この地域で有名なガス会社の社長の娘らしく、そのガス会社は幾つものグループ企業を傘下に持っいて、佐藤拓磨の母方の爺さんは、いわば地域経済界の盟主だそうだ。っで佐藤拓磨の父親はというと、テルに言わせるとマスオさんらしい。義理の父親が持つ子会社の社長に納まってはいるが、たんなる雇われ社長だというし、家の中でも実権は嫁ーー佐藤拓磨の母親が握っているという。


 そのマンションにトラックが横付けされていた。引っ越しのようだ。だが家財を運び入れてるのではなく、運び出していた。


「あれ? へんだな……このマンションそんなに埋まってないはず」


 見ていると、マンションから出来た人がそのトラックの荷台を覗き込んでいる。顔が見えた。するとテルが、


「佐藤拓磨だ」


 アイツがそうなんだ。そう言えば、カラオケ屋の隣の路地で高校生と揉めた時、アイツいた。


「ハル、どうする? 放っておいてもこの街からいなくなるみたいだな」

「いや、あのツラ見ちゃったら……ダメだな。テル、俺が酷いことしそうになったら止めに入ってくれ」

「了解」


 俺は近づいて行って声を掛けた。


「俺のこと分かるよな?」


 振り返ったソイツは俺の顔を見た途端、目に怯えの色が浮かんだ。


「ふ~ん……覚えてるみたいだな。なら面倒な説明いらないな。ちょっと話あるから来てくれ」


 だがソイツは後ずさって俺の話など聞きたくないようだ。

 改めてソイツの顔を見ると、色が白くて唇が薄くて赤いのが目をひいた。そしてちょっと吊り目の大きな二重瞼で髪の毛をフワっと横から分け、見るからに金持ちのお坊ちゃんって感じで、背も165くらいで、女の子から親しみを覚えられるタイプかもしれない。風紀委員長の栄前田さんが、佐藤拓磨はイケメンで女子にモテてる、って言っていたが妙に納得した。男の俺が見ても爽やかだ。俺なんかバスケをやってるせいもあって髪の毛は面倒だから短めで前髪などアップにして固めてるから、人に言わせるとリーゼントみたいらしく、練習では外を走る事も多くて、そのせいでガッツリ日焼けして、いつのまにやら頬もこけていて、普段はいっつも皮ジャケット着てて、背が178と、どこを取っても中学生らしからぬ風貌で、おまけに社交的じゃないからあまり喋らないときたもんだ。村上さんに、ハッキリ言って春山君って怖いよ、って言われ、しまいには大国照子にまで、小学生の頃とは別人だ、と言われたのが俺だ。佐藤さんってほんとに俺が好きなんだろうか? そう言えばアヤとウミも俺の事が好きらしいが、あの2人がゲテモノ好きだとしても驚かない。

 そんなどうでもいいことが頭をよぎったが、やっぱりコイツには腹立つ。


「おい、知らないようだから教えてやるわ。俺って超しつこいから。どこに行こうが会いに行くぞ」


 そう言って歩き出すと、ついて来た。

 近くの公園で振り返ると、そいつも止まった。ちょっと距離があるが、まぁいい。


「お前、俺が誰と付き合ってるか知らんかったなんて言わせねぇぞ」

「ちっ……ちがう……俺は……従兄妹なんだって……静香と…」


 まだ何かを言いかけていたがソイツは勢いよく左に飛んで倒れた。マズイ、コイツが静香のこと呼び捨てにしただけで気づいたらぶっ叩いていた。それも一歩踏み込んで。落ち着け、従兄弟なんだから呼び捨てぐらいするだろ。

 ソイツもいきなり叩かれるなんて思っていなかったのだろう。地面に倒れ、叩かれた頬を押さえながら呆然と俺を見上げている。


「あ………ハエだ……ハエがいて、それ追っ払おうとしたら当たった。悪い、悪い」


 我ながらバカみたいな言い訳だと思ったが、それしか思いつかなかった。倒れてるソイツに手を差し伸べると、その手を掴んできた。もしかしたら俺のバカみたいな言い訳を信じたのかもしれない。


「悪い、もういっぺん言ってくれ」

「え………だから……その……静香は……」


 また俺にぶっ叩かれて倒れた。ダメだ、どう考えたって、コイツが静香を呼び捨てにするのは我慢ならねぇ。俺は嫌だって事が自分でもハッキリと分った。静香が男から呼び捨てにされるのが。静香さまって呼びやがれ。


「テメーみたいなクズ野郎が、なんで静香のこと呼び捨てにしてんだ? 舐めてんじゃねぇぞ、クソ野郎が! 従兄弟だ? それがなんだ、笑わせんじゃねぞ! 先祖ずーーっと辿っていきゃあ誰だって親戚になるわ! そったらクソみたいな理由で静香のこと呼び捨てにするってか! だったら言えよ、もういっぺん呼び捨てにしてみろよ、いいから言ってみろ、ほら、どーーした、言えねぇのか、くそヤローー!」


 倒れてるソイツにストンピングを繰り返しながら怒鳴っていた。すると後ろからテルに羽交い絞めにされた。それでも俺は足をバタつかせ騒いでいた。


「……謝る………ゴメン………ごめんなさい………もう……静香……さんに………近づいたりしないから………ごめんなさい」


 そいつは蹲って頭を抱え、そして泣きながらそう言った。それを見たら一気に冷めた。ダメだ、自己嫌悪だけが残った。でもコイツ、静香の父親使ってカラオケに呼び出したはずだ。そして静香が気の弱いの知ってて……やっぱり腹立つ。冷静に腹が立つ。


「お前、半殺しにしてもいいか?」


 俺はテルに押さえられながら静かにそう言った。


「え?………やっやめて……もうやめて……お願い……なんでもするから……」


「ハル、もういい。こんなクズ相手にするだけ損だ。………そんなことより、お前、なにがあった? なんで急に引っ越す? ネットに書き込んだのお前なんだろ? それに関係してんじゃないのか?」


 するとソイツは声を上げて泣き始めた。そしてネットに書き込んだのは自分だと泣きながら認めた。

 突然電話が掛かってきたという。それは俺の名前を2度目に書き込んだ途端だったらしい。自分の携帯、母親の携帯、それと家の固定電話全部が一斉に鳴り、そして電話の相手が言ったそうだ。


 ーーお前は2度と書き込めない。


 そして家の全ての電気が消え、家電製品も全部止まった。なのになぜかパソコンだけが動いていて、だけどどんなに頑張っても指が動かなくなり、キーボードを叩けなかった。母親は窓から外を見たが周りは停電ではなく、ブレーカーが落ちたのかと思い、携帯の明かり頼りに玄関に行ったが、そこで悲鳴を上げた。見に行くと、玄関の壁一面に何やら文字が書かれた札が張られていた。そして今もパソコンや携帯を触ろうとすると指が動かなくなるという。


 アヤだ。権藤彩音だ。


「誰が………なんであんなのできる?……鍵だって掛かってた………俺の指……どうなった? ネットに書いたから? だから動かなくなった? ……バレてるの? 誰にバレたの? あんたたちなの? そうなの? 助けて……お願い……助けて……ママに言った……書き込んだって……そしたら呪いだとか……祟りとか……狂ったみたいになって………引っ越したら治るの? この街から出てけば治るよね……もう絶対書かないから……許して……お願いだから…」


 ソイツはしゃくり上げながらそう言った。こんなヤツにだって母親がいる。きっと心配してる。俺はなんだか気の毒になった。


「きっと忘れた頃に治る。ハル、行くぞ」


 ソイツは公園で四つん這いのまま俺達の後ろ姿をずっと見ていた。バイクを置いた所まで二人で歩いて行く途中、テルが言った。


「彩音が直接来たみたいだな。鍵開けれる奴連れて来たんだろ。電気や電化製品はもうダメだな。彩音ならそれくらい出来る」

「でもアイツの指は? それって……アレなのか?」

「あいつの名前知ってるし、髪の毛の1本くらい手に入るだろうから、彩音なら出来るだろうな。でもあれは呪じゃないな。電話掛けてるだろ。強烈な自己暗示だ。だから忘れた頃に治る。彩音はどっか優しいから。これが朱海だったら日本刀持ってきて腕叩き落とすくらいヤルぞ」


 ウミのそういうとこ最近になって分かってきたような気がする。

 それにしてもいきなり引っ越しか。怖かったにしても随分と急だな。


「それはキッカケだろ。よく考えてみろって。立て続けに人が死ぬ街だぞ。それだけでも十分気味悪いいのに、それプラス赤の会だのキセキだのって輩がウヨウヨいて、おまけに武器持った自警団としょちゅう揉めて、いっつもサイレン鳴ってる街だぞ。前々から住んでる奴なら我慢するだろうけどな、よそに住んでた奴がこんな街に定住したがるか」

「だな………」



 バイクの所につくと、


「なぁハル、このまま戻ってもなんだし、アタシとデートでもするか」

「ああ、それもいいな」

「デートなら女は後ろだな。ハルの行きたいとこでいいぞ」


 久々にバイクを転がすのは爽快だった。フルフェイスのメットでも風を正面から受けるのは気持ちがいい。気づいたらコーナーを攻めていて、テルの腕が俺の身体にがっちりと絡みついて、手がへんな場所押さえていたが気にならなかった。



 河川敷で寝転がって俺は空を見ていた。川の傍は涼しくていい。


「なぁハル、いつからそうなった? 誰にも弱いとこ見せないで、ツッパって、ツッパって………人に何か相談したこと無いだろ。愚痴めいたことも言わんだろうし。朱海はああ見えて爺さんには色々と喋る。彩音にも婆さんがいる。………なぁ、アタシに喋ってみろ。アタシもハルの事が知りたい。死んだお袋さんとどんな関係だった?」



 母さんか………

 周りからは母さん子だって思われてたみたいだ。確かに父さん子じゃなかったけど、どうなんだろう? かわった母親だった、いや、俺がかわった子供だったのかな。俺は覚えてないからきっと3~4歳だったんだと思うが夜の8時には寝せるって決まってたらしい。茶の間の隣の部屋に布団敷いて俺を寝かせて、襖閉めて、でもまだ8時だから親や姉ちゃんは茶の間でテレビ観たりしてて、俺は全然声もたてなかったみたいだから直ぐに眠ったと思ったらしいんだけど、そっと襖を開けて覗いて見たら、目ぇパッチリ開けて黙って上を見てたらしい。それがいつものことだったから手の掛からない子供だったって聞いたな。母さんはドライな人だった。俺が熱出して寝込んだら、病院連れてったり、お粥作ったり、アイスノン用意したりはするんだけど、後は薬の力借りて自分の体力で治すしかないから、それ以上は何も出来ないって、そう考える母親で、俺もそれが当たり前だと思っていた。だけど友達なんかの話し聞いたら、よその母親は違うって知った。ああ、そう言えば俺、母さんに添い寝してもらった記憶ないな。映画やドラマなんかじゃ、夜寝る時に隣で本読んで貰ったりするけど、俺にはそんな事をしてもらった覚えがない。それをテルに聞くと、テルは幼い頃に母親に添い寝をしてもらったのを覚えていて、弟が小学1~2年生の時など母親に添い寝をしてもらっているのを見てたと言う。

 そうなんだ。どこの家でもきっとそうなんだろうな。そんな事を考えていると、俺は思った。だからなのかもしれない。あの時俺は妙に嬉しかった。目覚めたら隣にウミがいた時、アヤが一緒に寝てくれたと知った時、嬉しかった。単純に嬉しかった。それにあの時は、背中から静香に抱かれて、安心して、俺は直ぐに眠ってしまった。



「オヤジさんとはどうだった?」



 父さんには懐かなかった。どうしてそうなのか自分でも解らない。ただ、父さんは子供と遊ぶってことをしない人で、それが懐かない原因だったのかもしれない。妙に忘れられないのが、小学生の頃に、父さんがキャッチボールをやろうって言い出して、でも全然嬉しくなくて、嫌だった。だけどそれを言えなくてキャッチボールをやったんだけど、凄く緊張して、早く終われ、早く終われ、ってずっと考えながらやったの今でも覚えてる。だから父さんとどんな関係って聞かれても、少なくとも仲の良い親子じゃない、としか言いようがない。だがきっと父さんも自分の父親に遊んでもらったことなど無かったのだろう。だから自分の子供と上手く遊ぶことが出来なかったのだと思う。


「そっか、でもアタシのとこもそうだな。オヤジは昔っからああだし、遊んでもらったことなんて無いし、そもそも喋らん人だしな。ハルは家族でカラオケとか行かないのか? ウチは弟とお袋が行く。ハルは姉さんがいる弟だろ?」



 そう言われ、俺は驚いた。カラオケって家族で行くもんなんだ。そもそもカラオケに興味などないが、家族で行くなど想像できない。



「ふ~ん、そんなもんか………でも今のハルは……やっぱ父方の爺さんの影響大きそうだな。言い難いか? アタシに全部喋ってみないか?」


 春山の爺さんの話は、前に静香と田川さんの二人に思わず言ってしまった。それも怒鳴りながら。

 それ以外では今まで誰にも言ったことがない。恥ずかしくて言える話じゃない。きっとこれからだって誰にも言えないだろうと思っていた。なのに何故だろう、今ここにいる大国照子には喋れそうな気がした。


 初めて違和感を覚えたのは、爺さんの通夜の時だ。俺が小学5年生の時。

 父さんは5人兄弟で、上から4人が男で一番下が女。その上から2番目が父さんだ。通夜の式が終わり親族で一晩明かす時に、その5人兄弟で酒盛りが始まり、夜中になっても終わらなかった。父さんは酒をあまり飲まない人だが、それでもビールを少しは飲んでいたが、他の兄弟たちは酒豪揃いでそうとうに飲んでいた。男兄弟の奥さんたちはその酒盛りには入っていなかったが、一番下の妹と、その夫は入っていた。俺は通夜というものはこうゆうものなんだろうと思って、年の近い同性の従兄妹と夜中まで遊んでいた。だが、婆さんの親族、確か婆さんの姉だか妹が切れた。兄弟にとっては叔母だ。その叔母が、通夜の晩に息子や娘が大酒を食らうなど聞いたことがない。いいかげんにしなさい、って怒鳴った。だが酒盛りは終わらなかった。

 それから暫く経って、俺は家にある昔の写真を見ていた。結婚式の集合写真。父さんと母さんのもあった。でも父さんの一番下の妹の結婚式の集合写真を見て気が付いた。今まで何度も見た事のある写真なのに、その時初めて気が付いた。爺さんと婆さんが写っていない。どうして娘の結婚式の集合写真に両親が写ってないのか、それを母さんに聞いて、初めて知った。妹の結婚費用は全部父さんが出したと。でも母さんはそれ以上は話したがらなかった。だから姉ちゃんに聞いた。姉ちゃんは叔母さん達から聞いていて、かなり詳しく知っていた。春山の爺さんは娘の結婚なんてどうだって良かった。反対してた訳じゃないが、結婚したかったらすればいい、だけど金など出さないし、式にも出ない。婆さんはそんな夫に逆らう事も出来ない従順な妻だったらしい。でも姉ちゃんの話はそれだけじゃなかった。爺さんは飲む・打つ・買うが当たり前の男で、更には、食事の準備が遅い、オカズが少ない、不味い、風呂はまだか、とにかく些細な事で妻を殴る男で、子供たちもクダラナイ理由で殴られながら育ったという。爺さんは家でも外でも飲む人だったから酒乱なのかというと、そうではなく、素面でも普通に殴ったらしい。

 俺はそれを聞いて、あの時の通夜のことを思い出した。5人兄弟の中で父親が死んで涙を見せた者など誰一人いなかったし、亡き父親の思い出話をしている人すらいなかった。その代わりにひたすら酒を飲んでいた意味が少しだけ解った。

 父さんは誓ったのだと思う。絶対に妻や子供達には手を上げないと。そして幸せな家庭を作るんだと。父さんが作ろうととした幸せな家庭像はきっとサザエさんに出てくるような家庭だ。サザエさんも、そのお母さんも、ずっと家にいて夫の帰りを待っている。そんな妻を母さんに押し付けた。そう思ったら俺はどうしようもなく嫌になった。母さんの気持ちはどうしたんだ。ちゃんと納得してたのか、違うだろ、一方的に自分の思いを押し付けた。そして俺は思った。似てると。気に入らなければ殴る男、自分の思いを強引に押し付ける男。同じだ。

 それと5人兄弟の中であまり飲まないのは父さんだけで、他の兄弟たちは酒豪だ。似てるんだって。どんなに嫌ったって似てる。それに爺さんは博打好きだったと聞いた。どんな博打を好んだのかまでは知らないが、父さんも勝負事が好きだ。

 そして俺も同じだ。

 前に住んでいたアパートでは、よく父さんが仕事仲間を呼んでは麻雀をやっていて、俺は後ろでずっと見ているうちにルールを覚えてしまい、今では正月なんかで親戚が集まると親達が麻雀をするのだが、メンツが足りなかったり、休憩をする人がいれば、俺が喜んで打っている。きっと爺さんのDNAだ。

 俺はいつごろからか、ケンカになりそうになると自分を抑えるようになっていた。相手に怪我をさせてしまうのではないかと恐れたからだ。でももっと違う理由があるのを知っていた。自分がもしかしたら暴力好きなのかもしれない、という恐怖だ。爺さんに似てるのかもしれないという。

 今もアイツを叩いてしまった。神取の兄貴たちもヤった。南部の高校生、それにこの前はカラオケ屋の横で高2の連中を。俺って、やっぱり……



「違う! それは絶対に違う!」


 そう言うとテルは、隣に座る俺の肩に腕を伸ばし、俺を抱き寄せ、


「アタシは人の内面が少しは見える。ハル、お前は自分が思ってるような奴じゃない。………でも……そっか……死んだ爺さんに自分が似てるかもしれない…か。その思いってずっと消えないかもな。大丈夫だ、不安になったらアタシを信じろ。理屈なんていらん。アタシがハルのことちゃんと知ってる。っでハルが間違ったことしそうになったらアタシがハッキリ言ってやる。だから心配するな」



 帰りも俺がハンドルを握りテルは後ろに乗った。

 大通りに出ると赤の会も自警団もいなくなっていた。それでもパトカーは何台か停まっていて、俺は制限速度で走った。このスピードなら大声で喋れば何とか会話が成り立った。


「静香のとこ寄らないのか? メット被ってるからマスコミにはバレないぞ」

「いや………寄らない方がいいかな」


 昨日、姉ちゃんとの電話が終わると直ぐに静香から電話が掛かってきた。最初っから泣いていた。だが妙に感情が昂ってるようで、何を言ってるのか分からないでいると、田川さんの声が聞こえた。


「静香! そんなんじゃ何言ってんだか分かんないって! ちょっと代わって! もう………春山君? 私、真奈美、……………アレ………春山君も観たの? テレビ……………そっか………大丈夫? 静香アレ観て、泣きながらブチ切れちゃって……今もまだ泣きながら怒ってて………でも酷いね、マスコミってあんなにテキトウだなんて知らなかった。うちのお母さんもメッチャ怒ってた。あっ、それでね、さっきウチのお母さんとも喋ってたんだけど、静香は暫く家には帰せないねって。だって気づいたら泣いてんだよ。それにテレビなんか見せられないって……だから暫くはずっとウチに居るから、うん……………え? ちゃんと喋れるの? 静香が代わって言ってるから……」


 再び電話口に出た静香はやっぱり泣いていて、それでもテレビに凄く憤慨しているのと俺の事が心配だというのは分かった。

 だから、会うのはもう少し静香が落ち着いてからの方がいいと思う。

 俺はそのまま大通りを暫く走り、赤信号で停まっていると、道路の向こう側にあるスーパーの駐車場にスカイラインジャパンが停まっているのに気がついた。あれって近藤先生のじゃないかな。そう思っていると、片手に買い物袋を下げた近藤先生がスーパーから出てきた。いつものパンツスーツではなく、ジーパンに半袖のTシャツ姿だ。へ~~けっこう可愛いじゃん。俺は手を振った。そう言えばフルフェイスのメットを被っているのだから俺だと分かるはずがないか。

 だが先生は手を振り返してきた。それも背伸びをして、満面の笑顔で。


「あれはハルだって分かって手ぇ振ってるな。前から思ってたけど、あの先生ちょっと不思議だ。なんだろう………」



 バイクを運転している時に携帯が振動したのは気づいていた。テルの家に着き携帯を見るとメールだ。



 もう佐藤静香とはセックスしたんだよね。私の言った通り、誘えば直ぐに股開いたでしょ。もしかしたら自分から跨ってきたんじゃないの。中学生のクセにそういう女だからね。でもどうだった。大したことなかったでしょ、あの女とのセックスなんて。だからもういいでしょ? その街どうかしてる、完全に狂った。一刻も早くその街から出なさい。そして私との約束を果たすの。いい? あなたの未来は決まってるの。私との未来が。


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