表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/50

第30話 外界からの遮断と祭り

 姉ちゃんからの電話が終わると直ぐに別の電話が掛かってきた。大国照子だ。


「ハルか! アタシだ、分かるか? 迎えの車やったから直ぐに乗れ。アタシの家で匿う。静香も一緒に来い。そこにいるんだろ。理由は来てから話す。最低限の物だけ持ってこい!」

「………匿うって……あ……切れた」


 すると直ぐにチャイムが鳴った。玄関に行くと、既にドワを開けて中に入ってきていた。黒いスーツを着た見た事のない男の人だ。


「大国家のお嬢様に言われて来ました。時間がありません、直ぐに乗ってください」


 なにがなんだか分からなかったが、テルが言うのだからきっと何かがあるのだろう。一緒に玄関に出てきた佐藤さんは、腕をギッチリと絡ましてきた。


 俺は急に最低限の物と言われても思い付かず、佐藤さんは家から持ってきた一式を慌てて鞄に詰め込み、そして家の前に横づけされていた黒塗のセダンに乗り込んだ。

 しばらく行くと何台もの車とすれ違った。その全部がマスコミの車だ。


「間一髪だったようですね」



 大国照子の家ーー神社に着くと客間に通され、そこには宮司がいた。きっとテルのお父さんなのだろうが、デカイ。あまりにもデカくて圧倒されそうになった。


「春山義仁君と佐藤静香さんですね。ウチのバカ娘と仲良くしていただき、ありがとう。心から感謝しています。春山君、お母さんの件、大変でしたね。………こうして視たところずいぶんと立ち直ったようで、安堵しました。私に出来る事は必ず力になります。さっそくですが、ここに来てもらった理由を説明しますが、もう既に気が付いてるかと思いますが、マスコミです。私は警察にちょっとしたパイプを持っています。春山君のお母さんの件が殺人事件として捜査される事になったのを、マスコミに発表される前に知りました。今の世はどうかしています。被害者遺族にプライバシーなどありません。マスコミにとことん追いかけられ、遺族であっても全て暴かれ、そして晒される。誰であっても他人に知られたくない物を一つは二つは持っているものです。そんな、事件と無関係のものまで晒され、そしてボロボロにされ、それでも追いかけられる。又、ここ最近はインターネットが急速に普及しています。そこはスキャンダラスな情報に飢えている。それが今の世です。人のうわさも七十五日と言われますが、現代ではそこまで長くはない。直ぐに別の誰かが標的にされる。ただし、いったん標的にされた者がしゃぶり尽くされるさまは、情報化社会となった現代の方がより深刻で凄まじい。わかりますか? お母さんを轢いたのは赤の会です。その赤の会の者が供述を翻しました。過失ではなく故意であると。赤の会は、世界を救う正義の団体であると宣言しています。そのような団体に狙われたのは、狙われるだけの理由があるのだろうと考える人も少なくありません。マスコミにとっては格好のネタとなります。春山義仁君……あなたもなのですよ。そして佐藤静香さん、あなたにまで辿り着く可能性があります。何日、いや何週間ここに滞在しても構いません。外界は遮断します。あとは、私のバカ娘、照子と話し合ってくださればよいかと」


 そう言うと立ち上がった。座っていてもデカくて驚いたが、立ち上がるとそんなもんじゃなかった。きっとテルが小さく感じるだろうな。

 入れ替わりで真っ白な袴を着た背の高い女の人が入って来た。よくよく見ると大国照子だ。袴姿のせいもあるが、いつもは髪の毛を後ろで無造作に縛っているだけだったのが、今はおろしていて肩まである長めのボブで、テルだとは全然分からなかった。コイツけっこう美人なんだ、とおかしなことに感心していた。


「とんでもない事になってる。さっきテレビでやってた。ハルの家の前からの中継。ハルのおやじさんと姉さんにはウチのオヤジから連絡した。姉さんは別の街に住んでるようだから、そこまでは辿れないと思う。ハルのオヤジさんは暫くはホテル住まいだな」


 父さんと姉ちゃんって、どうやって携帯番号知ったんだ?


「そんなもん本気で調べたら簡単だ。それよりマスコミだ。あいつら学校にも張り付いてる。岡田殺しの方に行けばいいのに、きっとこっちに集中する。赤の会が絡んでるからな。マスコミの狙いはハルにカメラを向けて喋らせること。まぁハルのオヤジさんでも姉さんでもいいんだろうけどな。それが出来ないなら次はハルや家族のこと知ってる奴だ。誰かが絶対に言う。春山って奴には女がいるってな。静香、昨日ハルの家に泊まったの誰が知ってる? っでどこに泊まったことになってんだ? 静香、お前……メチャクチャにされるぞ。…………2人ともなにボーとしてんだ? 事態を分かってないのか? オヤジのヤローちゃんと説明したんじゃないのか! クソったれが……いいか、赤の会の紅蓮大寿って大馬鹿野郎がテレビで言ったろ。この街は別の世界と繋がって、その繋がってる裂け目から悪魔だか何だか分からんのが入り込んできたから、自分らでそいつら始末するって。まるでテメェらがウルトラ警備隊みたいなことほざいてたの忘れたのか! 言い難いけどハルのお袋さんが殺られたのはそれだ! あいつらなんでハルのお袋さんがそうだって思ったのか知らんけど、元々が狂ってんだから何でもアリだろ。もういっぺんハッキリ言うからな。赤の会に言わせるとハルのお袋さんは裂け目から入り込んできた悪魔なんだって。そんなバカげた話し信じる奴なんていないと思ってんのか。これで7人死んでんだぞ。たったの5ヶ月で。まるで呪われた街だろ。日本で今一番有名な街が佐舞久留町だ。知らん奴なんかいない。っで中にはいるんだよ、赤の会が言ってること信じるバカがな。そんな悪魔話し信じない奴だってハルのお袋さんの事、きっと善良な人間じゃなかったんだろうって思うもんなんだ! 静香、ちゃんと答えろ。ハルのとこ泊まったの知ってるの誰だ? っで親にはどこに泊まるって言った?」


 そうか、そういうことか。紅蓮大寿が言ってたアレか。赤の会は母さんをアレだと思い、そして狙った。そういうことか。


「あはははは……」


 なんだか分からないが笑えた。不思議と腹も立たない。どうしてなんだろう、自分でも不思議だ。あまりにも現実離れした理由過ぎて、まるで映画かドラマのようだ。だからなのかな、俺はやっぱり笑っていた。


「義仁! だめ! お願い……しっかりして……」

「ハル……悪い……ちょっとアタシの言い方が……」

「ああ、俺は大丈夫だから。狂ったと思った? なんだろう……あまりにも凄すぎちゃって…思わず笑っちまったけど、大丈夫だから」


 するとテルは俺の顔を覗き込んできた。距離が近い。テルとは思えない美人が息が掛かるくらいに寄って来て、俺はドキドキしてしまった。


「うん、大丈夫みたいだな。強がってはいない」


 そういいながら股間を掴まれた。


「うん、いつもと同じだ」


 やっぱりテルだった。


「えええええ……テルちゃんダメーーーー!」

「ん? なんで?」

「なんでって……そんなの……いいからダメなの!」

「曲がってるの直してもか」

「はい???? ………曲がってるって………ええええええええええ!!! そんなの私が直す!!」

「ふ~~ん、まぁいいや、一応覚えとく。そんなことより、静香、さっき聞いたこと答えろ」

「え? ……あっ、あああ………うん、親にはね、真奈美のとこ泊まるって言ってある。義仁のとこ泊まったって知ってるのは……真奈美と、真奈美のオバサン二人だけ。あ……それと今日の10時頃かな、男子バスケの瀬川君来たから会って喋ったけど……どうだろう……私が義仁の彼女だってことは知ってたけど…泊まったかどうかまでは……」

「瀬川なら泊まったって気づいてるな。アイツ鋭いから。でも信用できる。余計なことクッチャベル奴じゃない。念のためにアタシから連絡しとく。それと真奈美って田川真奈美のことだよな」


 そう言うと腕を組んでじっと佐藤さんを見ていた。


「ウソはバレる。どうしたってバレる。だったらウソを本当に近づけるしかないな。静香、今すぐ田川真奈美のとこ行って泊めてもらえ。できれば1週間くらい」

「え……嫌だ……行きたくない……義仁と離れたくない! テルちゃんお願い……私もここにいさせて……私ならどんなこと言われたって平気だから……だからお願い……」

「静香のためもあるけど、ハルのためでもあるんだから……」


 佐藤さんはしゃがみ込み、両手で顔を覆って泣いてしまった。

 理由はどうあれ、きっとこれでいいと思う。これ以上一緒にいたら本当に離れられなくなりそうだった。でも曲がってたって自分で直すから放っといて欲しい。




「ハル、風呂だ」

「え……まだ5時だぞ」


 この家では風呂は晩飯前だと決まっているらしい。


「……下着持ってきてないや」

「ならアタシのパンツ貸してやる」

「え………それ……冗談だろ? あはは……」


 どうやら冗談ではないらしい。


「あのさ~女物のパンツなんて穿ける訳ないだろ。変態じゃあるまいし」

「アタシのはボクサーパンツだ」

「あ……そうなの。でもパンツの貸し借りは……ないって」

「ふ~ん、なら誰かに買いに行かせる。風呂入って待ってな」

「できればでいいんだけど……俺…ブリーフ派なんだよね。サイズはМでローライズなやつ」

「めんどくさい奴だな。伝えとく」



 食事は正座でテーブルにつくスタイルだった。良かった~、ちゃんと正座出来て。

 テルのおばさんを初めて見たが強烈な美人でビックリした。そして若い、若すぎるだろ。もしかしたら年の離れた姉さんか?


「春山君ね、初めまして、照子の母です。照子ね~春山君のファンなのよ、ふふふ…」


 やっぱり母なんだ。


「え……あ……どうも……あの~~若くてびっくりしました」

「あら…そ~お? いや~ね~~おだてても何もでませんよ。ふふふ……私、16で照子産んだから、よそ様の母親よりは若いかもね」


 16で産んだ? なら31か32なんだ。20代前半かと思った。それにしても今の俺達と変わらない年齢で子供産むって凄いな。

 そんな俺とおばさんの会話をよそにテルとおじさんはもくもくと食っていた。別にムっとしているようでもなく、ただ普通に食っている。小4の弟の顕馬は自分の母親が俺と喋っているのを楽しそうに見ていた。



「ハル、これからもちょくちょく晩飯食いに来てくれ」


 客間でテルと二人になるとそう言ってきた。聞くと、テルは母親を嫌ってる訳ではないが、どうにも合わないのだという。父親は神職という仕事以外で口を利くことが極端に少ないらしく、今日の食卓で母親が楽しそうに食事をしている姿がテルにとっても嬉しかったらしい。


「アタシじゃ上手くできないから」


 どこの家でも色々とあるみたいだ。ウチはどうだったろう。母さんは父さんが帰ってくるまで食べずに待っていた。だから俺はいつも一人で食った。それを寂しいと思った事もなく、返って煩わしくなくて良いとさえ思っていた。



「あ…入った」


 テレビで母さんのニュースをやり始めた。

 スタジオのアナウンサーが、


「今年の6月に春山さつきさんが赤の会所有の乗用車に轢かれ死亡した事故について、運転していた赤の会信者 永井忠48歳は、当初は脇見をしていて発見が遅れたと述べており、業務上過失致死容疑で送検されておりましたが、故意に轢いたと供述を翻し、警察は急遽、殺人事件として再捜査するとの発表がなされました。関係者への取材によりますと、自ら殺害を自供した永井忠は、佐舞久留町は別の世界と繋がっており、その裂け目から邪悪な悪魔がこちらの世界に入り込んできていて、それを滅ぼしたと述べているらしく、精神鑑定が検討されております。それでは現場に小島アナウンサーが行っております。小島さん、佐舞久留町の住民の様子はどうでしょうか?」


「はい、今私は殺害された春山さつきさんの自宅前にいます。電気が点いてなく真っ暗です。この家には春山さつきさんの夫と長男の二人が住んでいるとご近所の方から伺いましたが、今はひっそりとしています」




「こんな報道、必要とする人間などいるのか。いったい何を伝えたいのだ。春山君、無理に観なくてもいいんだぞ」


 その声に振り返ると、そこにはいつの間にかテルのおじさんが立っていた。


「いえ、大丈夫です。なんだろう……今も自分の家が映ってるんですが、なんだか他人事みたいな感じがして……」


 テレビは事前にインタビューをしたらしい近所の主婦に切り替わっった。だが足元しか映さず、声も加工されていて、誰だか分からない。


「ええ、今はお父さんと息子さんの二人暮らしのはずですよ。奥さんが亡くなって暫くはお姉ちゃんもいたようですが……ええ、ええ、元々は4人家族のはずですが……5年くらい前に引っ越してきたから……そんなにお付き合いもありませんでしたので……確か…旦那さんは別の街にある会社にお勤めだったとか……殆ど見かけなくて……お姉ちゃんも別の街に住んでるって聞きましたから………息子さんはね、確か小学校の頃は剣道やってたみたいで、竹刀もって出かけるのよく見かけたんですけど、中学になって辞めちゃったんでしょうね………奥さんは普通の人に見えましたけど、赤の会っていうんですか……なんだか気持ち悪くて……そんなとこと揉めてたんでしょうね~ ええ、全然知りません、あまりご近所に相談するって人でもなかったようですし………ええ、ええ、これで死んだの7人ですから怖くて怖くて……全部が関係してるってみんな言ってますよ」


「なんて無責任なこと言う人なの! 私こういうの許せない! 結局はなにも知らないのに……」


 見るとテルのおばさんだった。いつの間にかおじさんの横に来ていた。

 テレビは別の人のインタビューに変わった。やっぱり足元しか映さず、声は加工されていたが、けっこうなお婆さんのような気がする。そのお婆さんが喋った内容は、さっきの人と殆ど変わらないが、俺については、小学生の頃は可愛い顔をしていたのに最近では目付きがキツくなって、と言っていて、俺は思わず、悪かったな、と口に出してしまった。するとテルが、


「あ~確かに小学生の頃のハルは可愛い顔してた。今とは別人だな」

「あっそう、ハハハ……」


 場面が変わった。


「こちら佐舞久留中学校前です。この中学校の3年A組の副担任であった岡田清教諭が殺害され、又、別の事件である赤の会所有の乗用車に轢かれ殺害された可能性のある春山さつきさんの長男も、この中学校3年A組の生徒であり、この2つの事件には何らかの繋がりがあるとの見方を示す捜査関係者もおり、今ここに、佐舞久留中学の校長先生と3年A組の担任に来てもらっております。まずは校長先生から…」

「いえ、私が喋ります。校長、よろしいですね」


 近藤先生だ。見るからに怒ってる。何を喋るのか知らないけど、そんな感情的になって大丈夫なのか?


「二つの事件に関係があるなど初めて聞きました。今あなたは捜査関係者って言いましたが、それは誰なんですか? どこの警察の何課の人がそのような情報をあなたに流してるのですか? 学校から正式に確認しますので教えてください。それと殺害された可能性のある春山さつきさんは、確かにうちの生徒の母親です。そしてその生徒は3年A組の生徒です。私の大切な生徒です。悲しみに暮れるご遺族なんです。それも15歳の。なぜあなたがたマスコミは15歳の遺族を追いかけ回すのですか? ずいぶんと他の生徒まで追い掛け回していますが、いったい何を聞きたいのです。あなたどこのテレビ局で、あなたの名前は? 文部省を通じて正式に抗議しますので教えてください。私は3年A組の担任、近藤悦代です。副担任であった岡田先生が殺害されたことについては、極めて残念な事件であり、心からお悔やみを申し上げます。但し、私の今すべきことは、3年A組の生徒を守ること。それもあなた方マスコミから守る事です。校長、それでよろしいですね!」

「いえ…ちょっと先生……私どもは決して……」


 うわ~~切れてる。強烈だ。でもなんだろうこの気持ち。熱いなにかが伝わってきた。


「よーーし、よく言った!」


 後ろからの声に振り返るとおばさんが喝采していた。


「あなた、この先生守ってあげて」

「ああ、そうだな。潰されてしまうな」


 テレビでは誰かが強引にカメラの前に入ってきた。


「わしは佐舞久留町農協の組合長やってる神取敏郎だ。殺された岡田清はわしの孫だ。それとは別の孫は今もこの中学に通ってる。死んだ孫はしがたがない。もう帰らん。だがお前らマスコミは中学生の孫娘にまでマイクを突き付けおった。許さんぞ。それとついでに言っておく。赤の会とかいう奴らはやり過ぎた。この街で勝手が許されないことを思い知らせてやる。警察にはもう何も期待しない。わしの目が黒いうちは、わしがこの街を守る。赤の会など目障りだ。それと、お前たちマスコミにもういっぺん言うぞ。わしの孫娘はこの中学の生徒だ。お前らマスコミが追い回した中に入っとるわ。わしの孫娘だと知ってやったか、知らんでやったか、そんなもんはどっちだっていい。だがな、己がしでかしたことへの代償は払って貰うぞ。おい、やれ!」


 アナウンサーとテレビ局のスタッフ全員がホースで水を掛けられた。するとカメラが故障したらしく映像が途絶え、悲鳴と制止する声だけが中継された。これは放送事故なんてレベルじゃない。画面はスタジオを映したが、すぐさまCMに切り替わり、そのCMはずっと終わらなかった。他の局でやってる報道番組にチャンネルを変えても、そこも長いCMタイムに突入していた。学校前に集まっていたマスコミ全部が放水されたのだろう。


「ほ~~、神取敏郎が出てきた。これは戦争になるぞ、赤の会と」


 するとテルの弟の顕馬が客間の入り口から顔を覗かせ、


「アネキちょと来て。兄ちゃんも」


 顕馬は元々が人懐っこい性格なのだと思うが、初めて会った俺の事を妙に気に入ったらしく、兄ちゃん、兄ちゃんと懐いてくる。俺とは違って人見知りではないのが羨ましい。

 顕馬の部屋について行くと、


「掲示板、祭りになってる。兄ちゃんのお母さんのことで」


 テルは予想していたのだろう、そうだろうな、と返事をしていたが、俺はさすがに驚いた。

 インターネットの大手掲示板。更新を押すと、もの凄い量の書き込みが一気に表示され、どこまで読んでいたのか分らなくなる。


「こっちのはチャット型ゲームなんだけどね。ここも凄いから、見てな」


 凄まじい速さで次から次へと書き込みが流れて行く。読んでいられる速さじゃない。これが全部俺に関係しているのか?


「どんな書き込み多い?」

「チャットの方はムリ。読んでられない。掲示板の方はね、今はさっきテレビに出た先生を応援するのが多いかな。中にはへんなのもいるけど……先生エロイとかパンツスーツが萌えるとか…でもね、随分前に兄ちゃんの名前でた」

「俺の名前?」

「うん、赤の会に殺れた女の息子、中3の春山義仁っていうんだぜ、って」


 テルは大して驚いてはいないが、流石に俺は驚いたというより、なぜ? どうして? という理解不能な思いだった。俺の名前を出してそれが何の意味がある。誰に得なんだ?


「蘭丸ってハンドルネームの奴が書き込んだんだけど、周りの人からガッツリ突っ込まれて……お前おかしいんじゃないのか、被害者家族の実名出すって狂ってるって。だけど暫く経ってまた書き込んでた」

「2回とも蘭丸って奴か?………そうか同じ奴か。ハル、ちょっとアタシの部屋に来てくれ。話あるから」



 ついて行くと、見事に殺風景な部屋で、広いこともあってビックリした。


「ちょっと座れ」


 椅子があるわけではなく、畳だ。胡坐をかいて座ると、テルも俺の目の前に胡坐をかいた。


「アタシはお前が好きだ、ハル。ただし勘違いするなよ、別に告白してる訳じゃない。なんだろうな……大事なんだハルが。きっと親友だと勝手に思ってんだろな、アタシが。ハル、佐藤拓磨のこと変に拘ってるだろ。お前の方が避けてる。見てらんない。なんでアイツにハッキリ言わない。面と向かって舐めんなよって言えばそれで終わりだ。ハルはそういうとこアヤと同じだな。アヤも自分の事になったら妙に我慢する。ハルもそうだ。佐藤拓磨って奴は卑怯者だ。けど今に始まったことじゃないらしい。調べたんだ。アイツがいた前の学校のこと。嫌われ者だった。1年の頃の評判は良かったらしい。金バラまいてたから。典型的な金持ちの過保護がアイツだった。だけどそんなもんバレるだろ、本性が卑しいのが。っで誰にも相手にされなくなって、今度は虐められてるって言い出して大騒ぎだ。だから親の転勤でこっちに来たんじゃない。前の学校に居づらくなって転校してきた。この前、静香にもハッキリ言った。親戚かもしれないけどアイツの傍に寄るなって。今度前みたいなことあったらアタシが許さないのも言った。そう言えば静香……変わった。さっき見て驚いた。前みたいな意気地なしの静香じゃない。何が切っ掛けで変わったのかは知らんけど、芯が入ってた。ところでさっき見たネットの掲示板。蘭丸って奴は間違いなく佐藤拓磨だ。おそらくこれからもハルの実名書き込む。アイツはそういう奴だ。放っておいたら静香の名前を書くのも時間の問題だろうな。だけどアヤがおそらくはもう動いてる。アヤのところの信者にやたらとネットに詳しいのいるみたいだし、アヤはハルの事になったら我慢はしない。酷いことになる前にハルが佐藤拓磨を呼び出せ」


 自分の意思をハッキリとさないことが余計な事態まで招いているのか。佐藤拓磨を呼び出したところで、何て言ったらいいのかよく解らないが、とにかくヤルしかないみたいだ。でも半殺しにしちゃったらどうしよう……


「ところでハル。お母さんのこと、なんで赤の会に目ぇつけられたか分るか? 悪魔だ邪悪だなんてもんはどうだっていい。だけど向こうの世界からやってきたって思われた理由だ。心当たりないのか?」


 そうか、そういうことか。悪魔ってワードが凄すぎて本質が見えてなかった。そうだよな、向こうの世界から来たって思われたからだ。向こうの世界って俺が見た夢もそうだけど、河西早苗なんてきっと東海林詩江なんだろうな。まともな大人は信じないだろうけど。あれ……母さんって河西早苗が昔近所に居たって言ってた。それも下屋敷刑事の前で夫婦喧嘩までして。


「それだ! その場にハルもいたのか? …………そっか、警察の聞き込みか。それ聞いたのは下屋敷って刑事1人か? ………もう1人いたのか……わかった、おやじに頼んで調べてもらう」





「ええ? 母さんの言動で変なのなかったかって?」


 俺は、テルからこの部屋を使ってくれと言われた部屋に入ると、まず姉ちゃんに電話を掛け、そして母さんのことを聞いた。


「ああ、そう言えば………電話で母さんから聞かれたんだよね。アルバム整理してたら何時だかに行った家族旅行の写真がないんだけど、私が持っていってるのか、って。ウチって昔は夏休みになったら毎年のように家族旅行ってたでしょ。あんたも覚えてるでしょ。だから何処に行った時の写真なの、って聞いたらさ、青森に行った時だって言うからビックリしちゃった。だってさ~、何時だったかは覚えてないけど、確かに青森には行く計画立てたけど、行く寸前になってアンタが水疱瘡だかオタフクになって青森旅行は中止になって、それからだって青森なんて行ってないのに、母さん、頑として行った! っていうから、私、悪いけど気味悪くなってさ~、そうだね、そうだね、行ったよね。だけど写真は知らないって電話切ったんだよね」


 間違いない、別の世界からの干渉だ。向こうの世界ではきっと家族で青森旅行に行ったのだろう。その話を終えると、


「あんたって面白い知り合い多いんだね。今度は大国さんとこ世話になってんだ。あれでしょ、山の中腹にある神社の大国さんでしょ。………へ~~大国さんとこに娘さんいたんだ。あんたと同級生なの。面白いって言ったらなんだけど、けっこう凄い人間関係築いてんだね。それにしても大国さんの読みは驚きだね。まさかウチの前でテレビ中継されるなんて考えてもいなかった。ほんとマスコミっていい加減な連中ばっかでアッタマくる」


 俺はついでだから、佐藤さんが言った、大人は中学生のときに、何を考え、何を大切に思っていたのか忘れてしまっているのだろうか、ということを聞いてみた。俺は中学生になってから親とまともに喋ったことがない。だから父さんや母さんがどうだったのかは正直分からなかった。姉ちゃんの方が母さんとは女同士だってこともあり会話をしていたはずだ。



「大人になったら忘れちゃうか~~、ふ~ん………静香ちゃんっていったっけ……けっこう鋭いこと言うね。確かにさ~色んなこと忘れちゃうのはあるんだろうけどね………でも大抵の親はね、好きで好きでどうしようもないくらいに好きになっちゃって、離れていると苦しくなるくらいの人と出会ったことが無いんだよ。だから忘れたんじゃなくて、経験がないから知らないの。そもそもそんな人と出会った事ある人の方が稀だよ。よく恋愛と結婚は違う、結婚は現実なんだ、って言う人いるけど、それって物凄く不純なこと言ってるって自分じゃ気づいてないんだろうね。人を純粋に好きになるって理屈じゃないし……恋愛って言葉も違うような気がするな。あれ、札幌の康二君いるでしょ、従兄弟の康二君。今年で25のはずだけど、3年前に結婚して2歳の女の子いるんだよ。高校の時から凄くモテてたって聞いたけど、大学に行ってそこで付き合った彼女と離れられなくなっちゃって卒業と同時に籍を入れたんだけど、凄かったみたいだよ。康二君って札幌の大学だったから親元から通ってたんだよね。っで彼女は実家が別の街だったからアパート借りてたみたいなんだけど、毎日康二君のとこに来て一緒にご飯食べて、それからアパートに帰るって生活だったみたい。…………うんそう。叔父さんと叔母さんと康二君と彼女の4人で毎日一緒に晩御飯食べてるの。長女の美香ちゃんは結婚して家にはいなかったんだけど、たまに実家に行ったら普通にご飯食べてる女の子がいて笑っちゃったって。でもそのうち彼女が帰らないって言い出して、叔父さんや叔母さんそれに康二君も、また明日来ればいいんだから帰りなさいって言ったら、わんわん泣き出しちゃって、どうしようもないから泊めたらしいんだけど、結局はその日から同棲しちゃったんだよ。…………うんそう。次の日もその次の日も、康二君と離れたくないって泣いて泣いて………でも実家で同棲って凄いよね。でも、それくらい好きな人に出会えたのは幸せだよ。その末に結婚なんて夫婦は殆どいない。そうだ、今度、静香ちゃん連れておいで。あ~別にあんたいなくたっていいわ」



 次の日の午前中、俺はテルが運転するバイクのケツに乗り、佐藤拓磨の家に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ