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Blue Gradation  作者: 巡


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 この町は、手ごろな図書館があるところも、いい。


 三人が通った小学校は、とても読書が盛んだった。

 朝は「あさどく」と呼ばれる、読書の時間から始まった。15分間、ただ静かに自分の好きな本を読む時間だ。

 藍は、この時間が大好きで、いつも「あさどく」用の本を、数冊持ち歩いていた。

「一冊読み終えてから次の本を読みなさいよ」と、親にも先生にも言われたが、テレビドラマだって、漫画だって、途中で終わって、「次回を待たなきゃなんないのは一緒じゃん。いっぺんにいくつものお話を同時に読んでもいいじゃん」と、論破して自分のスタイルを貫いた。

 その時間になってみないと、何を読みたい気分になるかなんて分からない。

 だから、今も藍は貸出期間中に読み切れるか分からなくても、常に数冊の本を手元に置いている。


 その日、藍はBlue Gradationに行く前に、読み終えた本を返そうと、図書館に向かった。

 「あれ?ブルグラの、おねえさんですよね」

と、声をかけられて、すぐには分からなかったのは、夏の間中、水着とラッシュガード姿しか見たことがなかったから。ライフセーバーチームの、多分、責任者のような立場の人で、よくアイスコーヒーを大量にテイクアウトしてくれた、お得意さんだ。

「わ。服着てるから解らなかった。毎度どうも」

「服着てって、語弊があるなぁ」

今時のおしゃれな男の子らしく、黒のワイドパンツを着こなした彼は、爽やかに笑った。

 「あの、おねえさんて、ブルグラのお兄さん達、どっちかの奥さんか彼女さんだったりしますか?」

爽やかなまま、ニコニコしながら唐突に彼は聞いた。

「個人的に、声掛けたりしても良い人なのかなって、ずっと気になってて」

多分、そんな風に言われて、喜ぶ人が沢山いそうな、爽やかさだった。

 でも、藍は体温が急に下がるのを感じた。

 お得意さんに、町で声を掛けられて嬉しかった。リアルで接客業をすると、こうゆう繋がりが人との間に生まれるのか、と、少し感動すらしていた。

 でも、急に、そんなことを言われて、金縛りにあったみたいに体が硬直した。


 どう、話を切り上げたか、ちょっと記憶にない。

 図書館に返しそびれた本4冊が、カバンの中で重い。

 油断した。そう思いながら、早足で、ずんずんと、Blue Gradationに向かった。


 藍はドッチボールが嫌いだった。

 「あんな、ふにゃふにゃな球、当たったって大して痛くないだろう」と、紺はいつもそう言ったが、そして実際当たっても大して痛くないのだが、コートの中で当てられるまでは、「当たったら本当に死んじゃうんじゃないか」というほど怖かった。

 本気で怖がるから、余計に最後の方までコートの中に残ってしまう。その間、すばしこい青などは何度も当てられて、外野から敵を当て、自力でコートに戻ってくるのを繰り返す。やっと当てられて外野に出た時は、心底ほっとしたものだ。


 Blue Gradationの扉を開け、からんころんからんという音を聞いた時、外野に出た時の安心感を思い出して、膝の力が抜けた。


 大して忙しくもない日だったが、閉店まで店を手伝った。最後までいれば、紺か青か、もしくはその二人が、多分家まで送ってくれる。

 待ち伏せされるとか、そんなことがないのは解っていたが、今日は一人で外を歩きたくなかった。

「藍、話あるから、帰んないで待ってて。帰り送るし」

そう紺に言われて、目論見どおりと大きく息をついた。

 話?そういえば、ここんところ、二人の様子が少しおかしかった。二人の問題なら、と、敢えて触れずにいたが、何がしかの、山だか谷だかを超えたのかもしれない。


 閉店後、改めて淹れなおしたコーヒーと共に、最奥の大テーブルに座ると、二人が神妙な面持ちで向かい側の席につく。

「藍、俺たちのどっちかと、結婚しないか?」

「は?青、正気?信じらんない。それは紺の気持ちへの冒涜だよ。」

腹がカーッと熱くなり、腸が煮えくり返るという言葉は、比喩でもなんでもなかったと思い知る。

「違う。藍、これは俺が言い出した」

青に殴りかかりそうな藍を制しながら紺が言う。

「は?」

「まあ、落ち着いて。ふざけた話でも、悪い話でもないんだ。順を追って話すから」

「藍、これは、婚姻制度活用のご提案だ。婚姻は両性の合意にのみ基づく。合意があれば、愛は不要なんだ」

「青、ちょっと黙って。話が乱暴なんだよ」

「こうゆうのは、結論先出しの方が分かりやすいだろ」

「プレゼンじゃないだろ」

「や。プレゼンだよ。藍、良く聞け。せっかくある制度なんだから活用すればいい。どうせ俺たち仕様にはならないし、藍仕様にはもっとならない。そんな制度に俺たちの関係のお墨付きをもらう必要なんかないんだよ。藍が、どっちかと結婚して、宜しければ、じゃない方の子を産む。そしたら俺たち全員で家族だ」

「はぁーーーーっ?」

「青!」

「や、子を産む産まないは、要相談として。俺たち二人とさ、家族になんね?紺と俺は、愛で結ばれてる。藍と俺たちには、なんだ?なんか別の絆?が、あるじゃん?それを、結婚て制度で結んじゃえば良くね?別に、三人でエロいことしようぜ、なんてこと絶対言わないし」

「青は話の進行が乱暴なんだよ」

大切な話だから、もっと慎重に丁寧に説明したかったのに…と項垂れる紺を、青が気まずそうに横目で見る。

 そんな話だからこそ、紺に負担をかけないように、わざと馬鹿みたいに青が話したんだろうと、藍はテーブルの向こう側の二人を愛おしく思う。

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