21
幸いなことにBlue Gradationに二度目の夏が来た。
海辺のカフェは、やはり夏が掻き入れ時だ。そして、バカみたいに忙しい。
青も呑気に不機嫌になっている暇はないし、当の藍も、土日はフルで店の手伝いに来る。
昨年の夏の終わりに、藍が「来年の夏は、かき氷をやろう」と宣言し、(それは提案ではなく宣言だった)シーズンが来る前に、かき氷機の準備を整えて迎えたこの夏は、藍の読みどおり、海の公園に行く人が、駅を降りたら、まずBlue Gradationで、かき氷を買う、という流れが出来上がっていた。
「種類は不要。ブルーハワイ一択」という藍に、青が「かき氷は味を選ぶのも楽しみの一つじゃん」と不満を口にしたが、
「青、知らないの?かき氷のシロップって味は同じなんだよ。香料と色が違うだけ」
Blue Gradationはコーヒー屋であって、「こだわりのかき氷」は、そうゆう店に任せておけばいい。海に向かう道すがら、ノリでさささっと買えるのが大事、と一歩も譲らなかった。
「ちぇ、誰の店だよ」とブツブツ言っていた青だったが、店の入り口横に、かき氷のカップと、テイクアウト用の紙カップが、ぴたりとおさまる返却棚を、これまた藍がDIYで作成し、設置したことにより、お客が海の帰りに再度Blue Gradationを訪れ、ついでに、店内で一休みして帰るという現象が起こっていた。
手作り感満載の、カップ1個がちょうど納まる桝が、タテ16×ヨコ16のその棚は、それだけでも味わい深いのだが、「今日はこの形」と開店と同時にお題をSNSに投稿すると、お客さんが返却時にモザイクアートを完成させようと、競ってカップを返却してくれる。
海の公園ライフセーバーチームの皆さんが、「あと少しで達成!#ブルグラ#モザイク」等と途中経過を積極的に拡散してくれ、1日にお題を複数回設定することもあった。これには青も、「藍って天才なの?」と、素直に感服していた。
「なぁ、俺ら、夏らしいこと、全然してなくね?」
店の片付けをしながら、青が不用意なことを言った。自分の仕事の休みに店を手伝っている藍は「夏らしいこと」どころか、休み無しフル稼働だ。
感謝のしるしに、花火を大人買いして浜に向かう。
「わぁ!この時間でも、まあまあ人いるんだね!」
夏の夜の砂浜は、そこここで花火に興じる集団がいて、花火の光と歓声がちょっとズレている感じが、古い映画を見ているみたいで現実感が薄い。
藍は手持ち花火が好きだ。
花火をぐるぐる回したり、手に持ったまま走ったり、まるで小学生だ。
「なぁにを描いたで、しょうっ?」
と、しつこく問題を出してくるが、ハートや星ぐらいなら解るが、熊やカタツムリとなると、描いている本人しかわからず、ハズレが続くと、があがあ怒る。
それを見て笑い転げていた青が「俺らは大人だから、しっぽり線香花火」と、火のついた線香花火を手渡そうとして、すぐに玉を落としてしまう。
「お子ちゃまに、線香花火は、出来ませ〜ん」
リベンジする青の手元をグラグラ揺らす藍こそが「お子ちゃま」だろうと、紺も腹が捩れるくらい笑った。
「俺、もしかしたら花火って、匂いの方が好きかも」
「ああ!これぞ、夏休みの匂いだね!」
紺と藍が同時に言って、「俺も今、そう思ってたしっ」と青が、ぶぅたれるのが愛しくて、髪をワシワシすると、横から藍までがワシワシする。
持っている花火が消えないうちにと、次の花火に火を移していたら、買いすぎたと思われた花火も、あっという間に終わってしまった。
それでも、浜のあちこちで、様々な集団が次々に花火をするお陰で、帰りどきがわからず、3人は海風に吹かれたり、遠くの吹上花火を眺めたりしていた。
「置かれた場所で、咲きなさい。って言葉あるじゃん。あの言葉、嫌いなんだよね」
藍が唐突に言う。
「私たちは、人間なんだから、足生えてるんだから、好きなところに自分の足で、トコトコ歩いていけばいいんだよ。自分が咲く場所くらい、自分で決めさせろって」
「それは、ほんと、そう」
珍しく、青が最初から藍に全面賛成する。
「だから、お前は大輪の花が咲かせらんないんだ、って言われても。小っさい花でも、しょぼい花でも、好きな場所で咲てえよなぁ」
3人の迷子みたいに、縁もゆかりもないこの土地に流れてきたと思っていたが、自力で選んでここにいるんだ、としみじみ思う。
この夏を、多分自分は一生忘れないだろうな、と紺は無性に確信していた。




