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紺は藍に用事がある時も3人のグループラインにメッセージを送る。青の見えないところで個別連絡をしたりはしない。
それは、青を不安にさせない配慮なのだが、
「あぁ、今日、紺は藍んちに昼飯作り行くのか」
と、いちいち気にしてしまう自分が、青は時々嫌になる。青に単独行動の予定がある日で、だから紺は藍の世話を焼きに行くのだが、「ちぇ、またそっちのふたりでつるみやがって」と拗ねてしまう自分を持て余す。
じゃあ、かといって、二人の用事は自分の見えない所で二人のラインでやってくれよ…とはならない。四半世紀かけて形成された拗らせはなかなか手強い。
「レンさん、Blue Gradationでお預かりしています」
だから、こんな誘拐犯の犯行声明みたいなメッセージを見た時、青は素直に店に向かった。
「まったく厄介なツールだぜ…」と、独りごちながら。
からんころんからんと、ドアを開けると、何故かそこには縹もいて、どういう訳か、レンから個人指導をされていた。
「縹さんね、あなた、踏み越えちゃいけないラインを無邪気に踏み越えて、そこにラインがあった事の被害者面しそうな危うさが、ぷんぷん臭うんですよ」
どうやら、犯行声明文を藍が受け取った時、たまたま浜でばったり会った縹がBlue Gradationへ同行したらしいことは解ったが、何故、縹がレンから怒られているのか事情が全く読めない。「どゆこと?」と青と藍に視線を送るが、一部始終を見ていた二人にも良くわからないということだけがわかった。
「今の時代、ちゃんとアップデートしないとダメですね」
頭を掻きつつ、鎮火を期待した縹の言葉が、しかし更にレンに火をつけてしまう。
「『今の時代』だからじゃないんです。元々ダメだったんです。それが漸く世の中のコンセンサスを得たってだけで」
幼馴染3人は、レンと縹の席を遠巻きに観戦モードに徹するしかない。
「縹さんね、休日にばったり私が女性と二人で歩いているところに出食わしたら、あ、私バイなんですけど。『そうやって、いつも女同士でつるんでるから結婚できないんだぞぉ』とか、ニコニコ言いそうなんですよ」
「え」
と、言ったのは、縹だけではなかった。
紺はひと足先にこの軽やかなカミングアウトを聞いていたが、青にとっては初耳だった。
藍の大学の友達の元カノがいる女の子はレンさんだったのか、と色々なことが急に腹落ちすると同時に、直接絡みのない自分達にも、そのセクシュアリティを軽はずみに口外しない藍を誇らしく思った。と、同時に、こんなに何でもないことのように自身のセクシュアリティを堂々と口にするレンが、とてつもなく格好良く見えた。逆に何故、自分はその事を自分の恥部のように取り扱ってきたのだろう。
あまりに同時に色んな感情が溢れて
「それ。それっすよ、縹さん。こないだ俺たちにやらかしたの。恋人同士はこっちっす」
と、紺の肩に手を回していた。
「え」
「え」
レンと縹が、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をし、紺と藍が初めての逆上がりを見届けた保護者のような顔をしていた。
紺が新しく淹れ直した新しいコーヒーの入ったカップを、それぞれが自分で持って全員で店の奥の大きなテーブルに移動した。
店の最奥部には大きなテーブル席があり、奥のソファ席の他に6脚の椅子がテーブルを取り囲み、普段は実質カウンター席のようにしているが、こうして5人で腰掛けるとちょっとした会議室だ。
「普通に考えたら、遠くに引っ越した藍を追って、幼馴染二人が『どっちと結ばれても恨みっこなしだぞ』って追いかけてきたと思うよね」
レンが気の抜けた声で言う。
「え?3人この辺の人じゃないの?」
「え、縹さん、そこからですか?面倒臭い」
レンの縹への冷遇がおさまらないことに、何だか全員で吹き出してしまった。
「藍さんを、お誘いしても良いでしょうか」
唐突に、青と紺に断りを入れる縹に、レンが厳しく突っ込む。
「藍は、幼馴染の所有物ではないです」
「恋心も下心も無しで。ただただ人として、とても魅力的だと思って。もっと藍さんのことを知りたいです。こっそりお誘いはしたくなくて。一度ドライブとか、どうでしょう?」
今度は藍に向かって「よろしくお願いします」と、手を差し出した。
恋愛リアリティショーの走りである出会い系テレビ番組の、その仕草はキャンプの夜にお酒が入った親たちがやっていたから知ってはいたが、ジェネレーションギャップ丸出しで、大丈夫か?と青は心配になった。




