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からんころんからん。
「Blue Gradation」と書かれた窓付きのドアを開けながら、良い音のドアベルだな、とレンは思った。レンの実家のドアのそれは、もっとけたたましい音で、家族の出入りの度、なんだか忙しない気持ちになったものだが、この店のドアベルは落ち着いていて、なんだか迎え入れられているような温かい音がする。
「いらっしゃいませ~。あ、レンさん?」
「友達の友達は皆友達だ」というフレーズがあるらしいが、「友達の友達」というのは結構微妙な距離感だ。人は生きていると複数の集団に属するものだし、それぞれの「場」で異なる役回りやキャラクターを引き受けていたりする。
同じ集団内での「友達の友達」と、異なるフェーズでの「友達の友達」では全く意味合いが違っていて、ある集団内で親しければ親しいほど、別の集団側での「友達の友達」には踏み込んではいけないような、ある種の禁忌を感じてしまう。
特に藍が兄妹のように育ったという、この幼馴染との距離の取り方に、レンはずっと苦慮しているのだが、幼馴染の青の方は根っからの「友達の友達は…」タイプの様だ、といつも感心する。
「久しぶりに紺君のコーヒーが飲みたいなと思って」
負けじと親しげに、そつなく言うと、カウンターの奥で、レン同様、距離感に苦慮しそうなタイプの紺が、それでも嬉しそうに会釈する。
「藍と待ち合わせ?」
「うん。仕事終わったら迎えに来てくれるって言うから、じゃあ、せっかくなら美味しいコーヒー飲んで待つかと思って」
「ごゆっくり」
とコーヒーを運んできた青が、いっそ本物の兄弟なら良いのに、とレンは思う。友人に親しげに接してくれる兄弟は安心しかない。幼馴染というのはどこにカテゴリすればすっきり割切れるのだろう。
それでも紺のコーヒーはやはり美味しいし、使い込まれた風のこの店の椅子は、決して座り心地が良くないのに一日中座っていられる、あの、学校の椅子を思い出させる。程よい混み具合の店内の、静かなノイズが心地よく、レンは読みかけの本にすぐ没入した。
「6時に仕事終わるから、厄介な問い合わせにハマらなければ6時半までには行けるはず。もし遅くなったら、適当に食べたりしてて。正式名称知らないけど、焼き肉のライスバーガー的なの、たぶんレン好きだと思う」と言っていた藍が店にやってきたのは6:16だった。
青い壁にプロジェクターで投影されるデジタル時計に、「時間は知りたいけど、時間に追われたくない。カフェにはぴったりなアイテムだな」と感心して眺めたちょうどそのタイミングで藍はやってきたのだった。
「6時定時で、この時間にここにいるって、急がせた?」
「いいや。ピュアホワイト企業なもので。6時になったらブチって電源切って終わりよ」
藍は笑いながら言って向かいの席に座った。
メッセージの遣り取りや電話ではなく、直に会うのは数カ月ぶりなのに、昨日も一緒に居たような空気感が心地良い。藍と合う時はいつもそう感じるのだが、この店と藍の空気感が馴染み過ぎているせいで、いつも以上にブランクを感じない気がして、店と幼馴染に少し嫉妬を覚えた。




