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「そういえばさ、昨日の話、なんで俺と藍が結婚するって思ってたんだよ。無いだろ」
味をしめて、一日の労働の後に夜の海に繰り出したが、だいぶ風が冷たい。
昨日は、どうやら相当な夜海日和だったらしい。青は朝のトムジェリを引きずっているのか、少しムッとして尋ねる。
「や。だって青、藍のこと好きだったろ」
「は?」
「告ってたじゃん。親の海キャンに行く途中で。殴られてたけど」
「うっわ。あれ違う。あれはなんかムカついて」
「ムカついて、告白?」
「あー、上手く言えないけど。まぁ、学校外に彼氏がいることにしておけば藍も安全なんじゃね、とは思ったけど。そもそも俺の恋愛対象、男じゃん」
「まあ、そうだけど。なんていうか色恋とは別の次元の・・・愛?って思ってた」
正直に言えば、性的な欲求は男性に向いていても、心は藍を好きなんじゃないかと、実は今でも半分くらい思っていることは言えなかった。
「それを言うなら青だって、俺が藍とって思ってたって。俺、藍すっごい大事だけど恋愛対象として見たことないよ」
「え、そうなの?」
「うん。なんか青、今でも藍と俺をくっつけようとするふしあって、どうしたいんだ?って思う事ある」
「ごめん。それは認める。俺といて欲しいんだけど、でも紺にとって本当は藍が1番なら、紺の幸せを願いたい気持ちもあって」
「百歩譲って、俺が過去に藍を好きだったとしても、今は青を好きなんだって事は、信じて欲しい。過去の恋愛に嫉妬するなよ」
青がガバっと紺に抱きつく。それは、ほとんど子どもの体当たりで、ふたりして倒れそうになる。
「藍が大事だ。紺のことが好きで好きで堪らないのと同じくらいの重みで藍が大事だ。だから、紺が本当は藍のことを好きなら、身を切られるより辛いけど、藍に譲るのが一番いいと思ってた」
風と波で水面に映った月がぐちゃぐちゃにされている。
「それは藍だって望まないよ」
「藍のセクシャリティは解ってる。でも、そうゆうこと抜きでも紺が隣にいてやれたらって」
「勝手に俺を去勢するなよ」
もう一度青がガバっと紺に抱きついた。抱き合ったまま一塊で砂の上を転がりまわった。パンダの子どもの動画でこんなのを見たな…と思ったら、なんだか笑えて仕方なかった。
「そもそもさあ、社会の最小単位が性愛による繋がりって結構なめてるよな」
こういうことを、ぽろりと言う、青はやはりインテリヤンキーだ。
「確かに、社会は結構ロマンチスト志向かもな。『永遠の愛』を前提にしてるんだもんな」
「たぶん、そのうち同性婚は認められるじゃん。俺たちに間に合うかは別として。でも、どうしても性愛にこだわるんだよな、社会って。異性愛でも同性愛でも。じゃあ、藍みたいなやつは誰と生きていけばいいんだ?」
砂まみれの男二人が砂浜の端っこで社会について真剣に考えている。もの凄くパーソナル イズ ポリティカルだ。




