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「なに青、ご機嫌なの?きっしょ」
藍がカウンターで朝食を食べながら毒づいた。青は鼻歌を歌いながら店の窓を拭いている。
「きしょ、とか言わないの。それ、どう?」
試供品でもらったライスのパティに甘辛く味付けした薄切り肉とレタスをたっぷり挟んだ、いわゆるライスバーガー。今後メニューに展開していくか考え中だ。
「がちウマ。やっぱり日本人DNAに米と醤油は堪らないね」
確かに、美味しくなる要素しかないから外さない自信はある。あとは店のコンセプトに合うかどうかだ。
「朝から、よくそんな重いもん食えるよな」
美味しそうに食べる藍に青が毒づく。
この二人は、寄ると触るとこうなる。恋愛ドラマではこういう軽妙な掛け合いをする男女が、結局結ばれるパターンが多いので、「青と藍は似合いだ」と、刷り込みのように思っていたのだ。
「あなたの、お連れ合いが出したメニューなんですけどっ」
藍は、こういう言葉選びのセンスが良い。「彼」はどうも「彼女」と対になる言葉な気がして座りが悪いし、「恋人」はくすぐったい。しかも、先日「プロポーズしたつもり」だったことを明かした後に、「恋人」と言われたら、なんだか軽んじられた感じがするし、「パートナー」も、意識高い系をアピールされているみたいだ。
「連れ合い」ね。ふむふむ、と感心している間にも青と藍のラリーは続く。
「トムジェリしてると紺が置いてかれるから止めなさい」と、藍の母親が良く割って入ったっけ。
そういえば「トムジェリする」という言葉も『トムとジェリー』を知る前から、幼馴染界隈では良く使われていたが、これも全国区で市民権を得ている言葉なのだろうか…。
いつの間にか、二人はカウンターに並んでヨーグルトを食べていた。「紺が置いてかれる」と言った藍の母の言葉は、まあまあ正しい。
青の朝ごはんは、いつもヨーグルトとコーヒーのみだ。しかも開店準備で少し体が起きてからでないと食べられない。
「今日は、なにするの」
お休みが羨ましいのか青が聞くと、またトムジェリが始まった。
「プレッシャーだから『なにする』って聞かないで。みんなが青みたいに休みの度に動物園行ったり『何かをする』訳じゃないから。今日は『休むことをする』の」
からんころんからんというドアベルにかき消されながら「ごちそうさま~」と出ていく後姿を見送りながら
「なに藍、ご機嫌斜めなの?きっしょ」
と呟く青に紺は思わず噴き出した。
「きしょ、とか言わないの」




