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第97話 謎の魔道具

 秋の気配が深まる頃。

 国立魔法学校高等部2年1組の教室は、熱気に包まれていた。


「――というわけで、今年の文化祭の出し物を決める」


 教壇に立ったユウスケが、委員長として宣言した。

 黒板には『文化祭実行委員会』の文字。

 魔法学校の文化祭は、生徒たちが魔法技術を競い合う場でもあり、一般客も訪れる一大イベントだ。


「案としては『お化け屋敷』『脱出ゲーム』が出ているが……」


「はい! 木の役がいいです!」


 俺は元気よく手を挙げた。

 なるべく動かず、喋らず、労力を使わない役職。それが俺の希望だ。


「却下だ。ヒロ、お前は『技術班』のチーフな。

 空間魔法での設営や演出、全部任せるから」


「ですよねー」


 知ってた。

 俺がガックリしていると、教室のドアがガラッと開いた。


「あら、困っているようね!」


 優雅に現れたのは、大学部の制服を着た薬師寺アリサ先輩だった。

 なぜここに。


「イカヅチ様やフレアお姉様が出演されるなら、我が薬師寺家の財力で支援は惜しみませんわよ?

 金箔のたこ焼き屋とかどうかしら?」


 クラス中がざわつくが、ユウスケは冷静に眼鏡の位置を直した。


「先輩、それはズルです。

 高等部の出し物は、自分たちの予算と魔力でやることに意義があるんです」


「あら、残念。

 でも困った時はいつでも頼っていいからね(ウィンク)」


 先輩は嵐のように去っていった。

 本当に何しに来たんだ。


 気を取り直して議論が続き、最終的に採用されたのは――。


「『空飛ぶ魔法カフェ』、これでいこう」


 ユウスケが黒板に書いた。

 客の注文を受け、魔法で料理やドリンクを宙に浮かせ、席まで自動配膳するカフェだ。

 魔法学校らしく、かつ見栄えもいい。


「物を運ぶ魔法か……。

 まあ、俺は赤ちゃんの時からやってる得意分野だし、悪くないな」


 俺は腕を組んで頷いた。

 哺乳瓶を浮かせていたあの頃が懐かしい。


「よし、じゃあ配膳の制御はヒロの空間魔法がメインで頼むな」


「おう、任せろ……って、ん?」


 俺はふと気づいた。


「待てユウスケ。

 それ、俺一人で全員分の注文を捌くってことか?

 客が優雅にお茶飲んでる裏で、俺だけ厨房で死ぬほど魔法使い続けるワンオペ地獄じゃないか?」


「……気づいたか」


「却下だ却下!! 俺の負担が大きすぎる!!」


 俺は机を叩いて抗議した。


「やるにしても、俺のシフトと、他の風魔法でも使える奴とシフトを組んでくれないと話にならない!」


「ちっ……仕方ないな」


 ユウスケは苦笑いし、クラスを見渡した。


「風魔法が得意な奴、ヒロのサポートに入れるか?」

「おう、いいぞー」

「私も風魔法なら自信あるよ」


 クラスメイトたちが手を挙げる。

 さすが国立の2年生、基本属性である風魔法による物体浮遊レビテーションくらいは皆お手の物だ。


「よし、引き受けてくれるのか!

 なら『魔法カフェ』で決定だ!」


 こうして、俺たちの出し物は決まった。


◇◇◇


 放課後。

 クラス中が文化祭の準備で浮き立つ中、お兄ちゃんが険しい顔で俺の席に来た。


「ヒロ、ちょっといいか。

 ……エレノア先生を連れて、研究室に来てほしい」


「え? なんだよ急に」


「いいから。……厄介なモノが手に入った」


 ただならぬ雰囲気に、俺は頷いて先生を呼びに行った。


 ――エレノア先生の研究室。

 お兄ちゃんは周囲を警戒するように鍵をかけ、カバンから布に包まれた「物体」を取り出した。


「これは……?」


 それは、金属製の筒のような道具だった。

 無駄な装飾がなく、洗練された流線型のフォルム。

 グリップとトリガーが付いていて、どこか拳銃にも似ている。


「裏ルートで流れていた『魔道具』です」


 お兄ちゃんが説明する。


「機能は単純な『火炎放射』だけですが……見てください」


 お兄ちゃんがトリガーを引く。

 すると、先端からボウッと赤い炎が噴き出した。

 俺たちの使う魔法に比べれば威力は低い。

 だが、エレノア先生は炎ではなく、その道具の「内部」に目を凝らしていた。


「……綺麗だわ」


 先生が思わず呟く。


「術式の構成に、一切の無駄がない。

 最小限の魔力で、最大限の効率を生み出すように回路が組まれている。

 ……魔法として、恐ろしいほど『美しい』わ」


「美しい?」


「ええ。芸術品のようよ。

 でも……これは『魔道具』。

 つまり、魔法使いじゃない人間でも、トリガーさえ引けば誰でもこの魔法が使えるということ」


 先生の声が低くなる。


「こんな洗練された兵器を、一体誰が作ったの……?」


 空気が重くなる。

 誰でも使える魔法。それは魔法使いの特権を揺るがし、戦争の形を変える代物だ。


 でも、俺は別の感想を抱いていた。


「……かっこいいな」


 俺はその魔道具を手に取った。

 冷やりとした金属の質感。削り出しのパーツ。

 男心をくすぐる機能美がある。


「俺の『銀時計』に引けを取らないくらい、いい仕事してるよ」


 俺は懐から、愛用の銀時計を取り出して並べた。

 かつてドイツへの旅行の帰りに、校長にたかって買ってもらった高級時計だ。


「……お前、まだ大事に持ってたのか、それ」


 お兄ちゃんが呆れたように言う。


「当たり前でしょ。

 初めて海外で手に入れた宝物だよ! デザイン最高じゃん」


 俺は二つの金属製品を見比べてニマリと笑った。


 俺の無邪気な反応とは対照的に、お兄ちゃんと先生は深刻な顔を見合わせた。

 この美しい魔道具が、どこから流れてきたのか。

 その出処が、やがて俺たちの日常を脅かす火種になるとは、まだ知る由もなかった。

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