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第94話 管理者の思惑

 夏休みが終わり、俺たちは寮に戻ってきた。

 荷解きもそこそこに、俺とお兄ちゃんはすぐにエレノア先生の研究室へと向かった。

 この夏に起きた「とんでもないこと」を報告するためだ。


「おかえりなさい。……で、どんなお土産話があるのかしら?」


 先生はコーヒーを淹れながら、呆れたように俺たちを見た。


「どうせまた、新しい精霊でも拾ってきたんでしょう?

 火、水、風、雷……次は『土』の精霊あたりかしら?」


「あー……まあ、いい線いってますけど」


 俺は頭を掻いた。


「仲間になったのは、精霊じゃなくて……神様です」


「は?」


「それも、かなり高貴な神様です」


「……はぁ?」


 先生の手が止まる。

 俺は苦笑いしながら言った。


「先生も知ってますよね? 俺たちが壱岐島に行ってたこと。

 壱岐島に祀られている高貴な神様といえば?」


「まさか……」


 先生の顔色が変わる。

 察しが良くて助かる。


「ええ、ツクヨミノミコトです」


「はぁーーーーーー!?!?」


 先生の悲鳴に近い声が響いた。


「ほら、出てきてよツクヨミ」


 俺が影に向かって声をかけると、ヌルリと黒い霧が立ち上り、青年の姿が形成された。


『やあ、どうも。君がエレノアだね』


 ツクヨミは気さくに手を上げた。


『君のことはよく見ていたよ。

 一之瀬ヒロの成長に、最も影響を及ぼした師と言っても過言ではない。

 僕からも礼を言うよ。ありがとう』


「ひっ!?」


 先生はビクリと肩を震わせ、反射的に両手の指で「十字架」を作って突き出した。

 幼少期に教え込まれた、悪魔に対する対処法なのだろうか。


『……え、なんで僕、感謝されてるのに祓われそうになってるの?』


「て、てか本当に神様!? 神性なオーラが全然違うじゃない!」


『どうもツクヨミです。僕は神だよ。

 あと、そんな指の形ごとき僕には効かないよ?』


 ツクヨミは苦笑いしながら、パチンと指を鳴らした。

 瞬間、部屋の空気が変わった。

 外からの音が消え、空間が薄暗い膜に覆われる。


『安心して。ここでの会話は、あの太陽神ないし、他の神々には聞かれないように僕が「夜のとばり」を下ろしたから』


「……分かったわ。あなた達を信じる」


 先生は十字架を解き、深く溜息をついた。

 しかし、ツクヨミは部屋を見回して鼻を鳴らした。


『それにしても……この部屋、埃っぽいな。

 本のカビ臭さもするし』


「うるさいわね!」


 先生が青筋を立てる。


「何こいつ、ちょっと失礼じゃない!?」


『あはは、ごめんごめん。

 さっきまで最上の空間(ヒロの中)にいたからさ、落差がね』


 ツクヨミは悪びれもせずにソファに座り込んだ。

 そして、まだ混乱している先生を見透かしたように笑った。


『さて。僕に聞きたいこと、あるんでしょ?』


「え?」


『何でも答えてあげるよ。何せ、僕は君たちの仲間になったんだからね』


『さあ、言ってみてよ』


 先生は表情を引き締め、以前から抱いていた最大の疑問を口にした。


「……じゃあ、まずは。

 なんで、ここ数年になって神々は世界中の『聖女』と呼ばれる存在に、あんなに頻繁に神託を下ろしまくっているの?

 昔は数年に一度あるかないかだったのに、今は異常よ」


『ああ、それか』


 ツクヨミは軽く頷いた。


『それを話す前に、前提を話さないといけないね。

 ――君たち、人は死んだらどうなるか知ってる?』


 突然、話が変わった。


「は? 人が死んだら……?」


 先生が眉をひそめる。


「……生まれ変わる、とか?」


『うーん、当たらずとも遠からずだけど、ちょっと違う』


 ツクヨミは人差し指を立てた。


『この世界はね、いくつもの世界線によって分かれているんだ。

 「平行世界」、パラレルワールドって言ったらわかるかな?』


「ああ、なるほど」

「パラレルワールドものは、理解できます」


 俺とお兄ちゃんは即座に納得した。


「……あなた達、物分かりが早いわね」


「まあ……先生や霧島先生の大好物ですからね」


 俺は遠い目をした。

 先生たちの趣味で、異世界転生モノやループ系の「聖典ラノベ」を散々読まされてきたのが、ここで役に立つとは。


『その世界線の数だけ、魂も分割されるんだ』


 ツクヨミは続けた。


『人が死んだ時、平行世界に散らばった魂はどうなると思う?

 ――「併合」されるんだよ。一つの人格、一つの魂にね』


「併合……」


『問題は、どの人格に併合されるかだ。

 答えは単純。「最もエネルギー量が多い人格」に吸い寄せられ、統合される』


 ツクヨミは、俺たちを指差した。


『そう。この世界線だけ、この「魔法」が顕現してしまった世界線の人格が、その他の世界線の人格を一方的に吸収する形になってしまっているんだ』


「なっ……!?」


『他の世界線では、君たちのように魔法は使えないからね。魂の強度が桁違いなのさ』


 俺たちは絶句した。

 つまり俺たちは、知らないうちに他の世界の「自分」を捕食しているようなものなのか。


『今まで、神側は平行世界の一つ一つなんて興味がなかった。

 元々は魂の可能性を広げるためのシステムだったと聞いている。

 このシステムを作った原初の神、「アメノミナカヌシ」……奴は純粋な善意で作ったんだろうね。

 でも、今の「管理者」はそうじゃなかった』


「管理者って……太陽神のこと?」


 先生が尋ねると、ツクヨミは首を横に振った。


『いいや。もっと上にいる。

 知恵の神、「オモイカネ」だ』


「オモイカネ……」


『魂の分割は、個々の魂の弱体化を意味する。

 矮小なる人類が、すがれるものを求めて神々を信仰する……この上ない狩場だ』


 ツクヨミの目が冷たく光った。


『より効率的に信仰のエネルギーを集めることが可能になった。

 だから一つ一つの世界線なんてどうでもよかったんだ。薄利多売で十分だったからね』


 しかし、と彼は言葉を切った。


『でも、この世界線に突然変異が起きて、魔法が発現した。

 僕には理由は分からないけど……この世界線の人間から流れてくる信仰のエネルギー量が、他と比べものにならないぐらい膨れ上がったんだ』


『無視できないどころか、神々は歓喜した。「もっと利用してやろう」とな』


「……それが、聖女への神託?」


『ご明察。

 聖女とは、高エネルギー体である現代人から、効率よくエネルギーを吸い上げるための「パイプライン」だ』


 ツクヨミは嘲るように笑った。


『今の神々にとって、この世界はボーナスステージなんだよ。

 「魔法使い」に進化した人類という極上の家畜を、聖女というシステムで管理し、搾取する。

 それが、神託が乱発されている理由さ』


 部屋に重い沈黙が落ちた。

 俺たちは救われていたわけじゃない。

 ただ、美味しく食べるために太らされていた家畜だったのだ。


「……ふざけんなよ」


 俺は拳を握りしめた。

 太陽神も、その裏にいるオモイカネとかいう管理者も。

 絶対に、一発殴ってやらなきゃ気が済まない。

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