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第155話 天空の鏡と最速の精霊

「ぷはぁっ!!」


 数週間に及ぶ、深海での自堕落(カロリー過多)なバカンスを終え。

 俺はシラユキの特製シェルターに包まれたまま、マリアナ海溝のどん底から一気に太平洋の海面へと浮上した。


「いやぁ、最高に美味くて恐ろしい海だったな……。シラユキ、案内してくれてありがとう」

『ふふ。王のぽっこりしたお腹が元に戻った頃に、また竜宮城へご案内いたしますね』


 シラユキが上品に微笑み、海の上にポツンと浮かんだ俺は、大きく伸びをして空を見上げた。


「さて! 闇の精霊に会ったんだから、次はベタに『光』だろ!」

『光の精霊に会いに行かれるのですね』


シラユキの言葉に頷き、俺は魂のパスを通じて召喚空間へと呼びかけた。

「フレア、出番だ! ちょっと遠出するぞ」

『お呼びとあらば、どこへなりとも!』


空から燃え盛る声が降り注ぎ、巨大な火竜――フレアが俺の頭上に優雅に舞い降りた。


「ああ。光といえば、世界で一番光を綺麗に反射する絶景……『ウユニ塩湖』に行ってみようと思うんだ。ここからだと南米のボリビアだからめちゃくちゃ遠いんだけど、フレア、頼めるか?」

『お任せなさいませ。あたくしの翼にかかれば、造作もありませんわ!』


 俺がフレアの背中に飛び乗ると、彼女は力強い羽ばたきと共に、太平洋上空を一気に超音速フライトで駆け抜けていった。


          ◇


 数時間後。

 俺たちはアンデス山脈を越え、ボリビアの標高約三千七百メートルに位置する広大な塩の大地へと降り立った。


「……すっげえ……!!」


 俺はフレアの背から降り、目の前に広がる景色に息を呑んだ。

 見渡す限りの真っ白な大地。そして、薄く張った水が空の青と雲を完璧に反射し、天地の境界線が完全に消え去っている。まさに『天空の鏡』と呼ばれる世界一の絶景だ。


「やっほー! 君、人間だよね! こんなところに何しに来たの?」


 絶景に感動していると、不意に背後から元気な声がした。

 振り返ると、そこにいたのは、全身にまばゆい水晶のドレスを纏った、キラキラと輝く女の子だった。光を浴びて、彼女の周囲にはいくつもの虹色のプリズムが舞っている。


「うおっ、精霊か! 俺は精霊王のヒロ。えっと……君が光の精霊?」

「ボク? ううん、違うよ! ボクは『反射の精霊』だ!」


 一人称が「ボク」の彼女は、胸を張って水晶のドレスを揺らした。


「ボクの魔法はね、単一の魔法をプリズムで拡散して範囲攻撃に変換したり、敵から飛んできた魔法の軌道を反射して跳ね返したりするんだ! どう、すごいでしょ!」

「……えっ。ちょっと待って」


 俺は頭の中でシミュレーションをした。

 つまり、単体火力に特化したイカヅチの極太の雷や、フレアの圧縮された炎(プラズマの槍)を彼女の能力で『反射・拡散』させれば、一発の魔法が広範囲のレーザーや大爆発に化けるということか。しかも敵の魔法はオートで跳ね返せる。


「(組み合わせ次第で鬼強くなる、最強のバフ属性じゃん……!)」


 俺は内心戦慄した。反射の精霊単独では攻撃力は皆無だが、他属性とのシナジーがエグすぎる。


「すごいな君! 戦術の幅がめちゃくちゃ広がる最高の能力だよ!」

「えへへ、でしょでしょー!」


 ボクっ娘の精霊が嬉しそうに飛び跳ねる。しかし、俺はふと本来の目的を思い出して口を開いた。


「でもごめん、実は俺、『光の精霊』を探してここに来たんだよね」

「えっ……」

「光の精霊の居場所、知ってたりしない?」

「あ、光を探してたんだ……。ボクじゃ、ダメだったか……」


 シュン……と。

 さっきまでの元気はどこへやら、彼女は水晶のドレスの輝きを失い、あからさまにしょんぼりして拗ねてしまった。しまった、素直に言いすぎた。


「い、いや! 君の力も絶対に必要だから! パスは繋いでほしいんだけど!」

「……ほんと? じゃあ、光の精霊ならボクが呼んであげるよ」


 彼女は少しだけ機嫌を直し、空に向かって声を張り上げた。


「おーい、ルクセル!」


 ――その、直後だった。


『お呼びですか、クリス』


 反射の精霊――クリスが名前を呼んだ瞬間。

 俺の右肩の上に、光り輝く流線型の美しい『ハヤブサ』が、すでに羽を休めて止まっていたのだ。


「うおっ!? えっ、いつからそこにいたの!?」


 俺が驚いて肩を見ると、光の精霊ルクセルは、理知的な瞳で真っ直ぐに俺を見つめ返した。


『呼ばれる前から。あるいは、呼ばれた瞬間に。……速さこそが、我々光の精霊の存在意義ですから』


 ――『我の雷は最強最速よ!』

 ――『いや、光の方が速えーけどな』


 いつだったか、イカヅチが自分のスピードをドヤった時に、風のヒューイが的確なツッコミを入れていたのを思い出す。

 光の速度は、雷よりも速い。まさに宇宙最速の存在だ。


「す、すげえ……! マジで最速じゃん!」

『お褒めにあずかり光栄です、王よ。……しかし』


 ルクセルは、どこか酷く疲れたような、深い深いため息をついた。


『速いだけで、我々にはもう、人間の世界で大した役割がないのですよ』

「え? どういうことだ? 光属性ってことは、光線レーザーとかを出して戦う激強の戦闘系なんじゃないのか?」

『レーザー? ……ハァ』


 ルクセルは羽を震わせ、心底嘆かわしいといった様子で首を横に振った。


『我々光属性は、決して戦闘系の力ではありません。情報の伝達や意思疎通を司る、『通信と生活のインフラ』を担う精霊なのです』

「通信インフラ?」

『ええ。ですが、人間界では「スマートフォン」などという便利な通信機器が普及してしまったせいで、我々光の精霊による伝達の仕事は完全に奪われました。今やすっかり出番なしの窓際族ですよ』


 最速の精霊、まさかのスマホに仕事を奪われてリストラ状態だった。


「いや、でも待てよ。……そういえば昔、『聖女』って呼ばれてるやつが、光の魔法の塊を物理的にハンマーみたいに振り回して攻撃してきてさ」

『なっ!?』


 俺の言葉に、ルクセルがブワッと羽を逆立てて激怒した。


『なんという野蛮な! それは完全に光の魔法の使い方が間違っています!! 我々の尊いインフラの力を物理攻撃に使うなど、なんと嘆かわしい!!』

「あ、あはは……やっぱりそうなんだ……」


 以前、戦った聖女の脳筋っぷりは、光の精霊から見ても完全にアウトな使い方だったらしい。


「でもさ、ルクセル」


 俺は、ある重大な可能性に気がつき、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「通信とか伝達が本来の力ってことは……人間のスマホの電波が届かないような、精神世界への伝達もできるってことか?」

『ええ、もちろんです。我々光の精霊にとって、距離や空間という概念は障壁になりませんから』

「ってことは……次元の壁を越えて、『並行世界』への通信も可能だったりするのか!?」


 俺の問いに、ルクセルは事も無げにキッパリと言い切った。


『その程度のこと、朝飯前ですよ。……ただ、次元の壁を越えて通信なんてして、一体何の意味があるのですか?』

「意味、大ありだよ!!」


 俺は思わず、ルクセルが乗っている自分の右肩をガシッと掴む。


「実は今、仲間の研究者が、平行世界を統合するために、ナビゲーションシステムを必死に作ってるんだよ! でも、どうしても次元座標を繋ぐ手段が足りなくて困ってて……ルクセルの力があれば、それができかもしれないんだ!!」

『……なんですと?』


 ルクセルの瞳が、驚きに見開かれた。


「きっと、ルクセルの光は、次元を超えて世界を救うための『最後の1ピース』なんだよ!!」

『私が……並行世界を繋ぐ、光の道標に……!?』


 リストラされて自信を失っていたインフラ精霊の顔つきが、パァァッ!と文字通り眩いばかりの光を取り戻した。


『やりましょう、王よ!! まさか我々の通信能力が、並行世界を救済するための架け橋になる日が来ようとは!! 我ら光の精霊の誇りにかけて、必ずやそのインフラ構築、完遂してみせます!!』

「ああ、頼りにしてるぞ!!」


 単一を全体に拡散させる反射の『クリス』。

 そして、次元を超えて通信を繋ぐ最速の光『ルクセル』。

 俺は天空の鏡・ウユニ塩湖の中心で、二人の心強い精霊と魂のパスを深く繋いだ。


 兄さんたちが血反吐を吐きながら挑んでいる並行世界へのナビゲーション。その最大の課題をあっさりと解決するチート級の鍵(光の精霊)を手に入れ、俺は意気揚々とボリビアの絶景を後にするのだった。

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