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第129話 精霊王の記憶と、ただの地球人

『君は、精霊王の生まれ変わりなんだよ』


 白の世界に響き渡った地球の意識の言葉に、俺は間抜けな声を漏らした。


「ええええ!?」


 精霊王。

 この世界線に突如として魔法を顕現させた張本人であり、すべての精霊の頂点に立つ存在。


「俺が、精霊王の生まれ変わり……?」

『そうだよ。昔から精霊たちに妙に懐かれたり、愛されたりしていなかったかい?』


 言われてみれば、心当たりはありすぎる。

 物心ついたときには、俺の周りには常に微精霊が群がっていた。

 そして何より、シラユキだ。彼女は出会った当初から、俺のことを疑いもせずに『王よ』と呼んでいた。


「あいつら、最初から分かってたのか……」

『君は、この世界線に魔法の種を蒔いた張本人であり、僕の数少ない友達さ』


 光の塊が、フフッと笑うように揺れた。


『君が真に精霊王として目覚め、その権限を行使できるようになれば……他の世界線の自分に、魔法という因子を渡すことも可能かもしれないね』

「なるほど……。大元の管理権限を使うわけか」

『まあ、仮に魔法そのものを付与できなくても、何かに特化させた魂の記憶の集合体ってだけでも、かなり強力な武器になると思うけどね』

「いや、妥協はしない」


 俺はきっぱりと言い切った。


「あの灰色の俺たちに魔法を付与して、最大限の成長を目指すよ。そして無数に分かれた世界線を統合する」


 俺は隣に立つ兄さんと顔を見合わせた。

 目指す頂きは、最初から同じだ。


「神様をぶっ飛ばすには、それくらい規格外なことをやらないとな。俺たちは目指すよ――魔王を」

『……!』


 地球の意識が、驚いたように瞬き、そして嬉しそうに光を揺らした。


『ふふっ、アハハハ! それは痛快だね。頑張れ、未来の魔王』


 星の意識が優しく肯定したその時、横からカイト兄さんが口を挟んだ。


「話がまとまったところで、俺からの提案だ。……魔法の因子を渡すのは、特別な魔法を扱うヒロ、ジェンゴ、そしてエレノア先生の三人がいい」


「えっ?」


 エレノア先生が意外そうに兄さんを見た。


「言い出しっぺのあなたがやらないの? あなただって、規格外に様々な属性適性を持っているじゃない」

「いや、最初から決めてたんだ。俺はただ、色んな属性を器用に使えるだけだからな。因子の譲渡は三人に任せて、俺はその手伝いとシステム構築に専念するよ」


 兄さんが淡々と答えると、地球の意識が『うん、そうだね』と同調した。


『そうだね、カイトくんは、やめておいた方がいい。……君は、この世界線に生まれてくるために、君の魂が持つ『運命力』のほとんど全てを使い果たしているから』

「え……?」


 俺は思わず兄さんを見た。

 運命力を、使い果たしている?


「どういうことだよ、それ」

『カイトくんはね、精霊王の元側近なんだ。この世界線で精霊王ヒロの導き手となるために、無理をして、君より先に生まれてきたんだよ』


 静かな暴露だった。

 だが、その事実が持つ重みは計り知れない。

 何でもそつなくこなし、俺に魔法の基礎から世界の裏側までを教えてくれた完璧な兄。

 それは単なる天才だからではなく、俺を導くという強烈な目的エゴのために、魂のエネルギーを前借りして無理やり生まれてきた結果だったのだ。


『正直、魂の法則を捻じ曲げてまでそんなことができるのか分からなかったんだけど……上手くいってよかったね。でも、だからこそ、これ以上はオススメしないかな』

「……ご忠告に感謝します」


 兄さんは小さく一礼した。

 その顔には、隠し事を暴かれた焦りなど微塵もない。ただ、為すべきことを為したという静かな誇りだけがあった。


「ちょっと待って!」


 重い感動の空気を切り裂いて、エレノア先生がズイズイと前に出てきた。

 その瞳は、新しいおもちゃを見つけた子供のようにキラキラと輝いている。


「星の分身体に、精霊王に、その側近! そういうことなら、私も聞きたいわ! 私は一体、誰の生まれ変わりなの!?」


 先生がワクワクしながら、光の塊に身を乗り出す。

 確かに、これだけの大物揃いの中にあって、若くして大魔法使いの域に達し、規格外の『解析眼』を持つ先生だ。ただ者ではないだろう。伝説の仙人か、あるいは……。


『ん? 君は……』


 光の塊が、少し言い淀んだ。


『こんなこと、この場では言いにくいんだけど……』

「ええ、ええ! 心構えはできてるわ!」

『普通の、ただの地球人だよ』


 ピタッ、と空間の時間が止まった。


「……………………は?」


 先生の口から、間の抜けた声が漏れる。


「ガ、ガァァァァン!!」


 次の瞬間、先生は両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。見事なズッコケである。


「嘘よ! 私だけ何の因果もないただのモブ!? このチート集団の中で、私だけ前世の貯金ゼロで頑張ってたの!?」

『あはは、落ち込まないでよ』


 地球の意識が、少し慌てたように光を点滅させる。


『でもね、僕はすごく興味があるんだ。前世の因果も、特別な使命も持たない『ただの地球人』が、自分の探究心と努力だけで、神を騙る存在を打ち倒す領域まで成長するなんてね』

「……!」

『君がどこまでいけるのか。その眼でどんな真理にたどり着くのか……僕は、すごく期待しているんだよ』


 その言葉に、先生は顔を上げた。

 悔しそうな表情から一転、不敵な笑みがその口元に浮かぶ。


「……ふん。そういうことなら、見せてあげるわ。ただの人間の執念が、神様のシステムをどれだけ美しく解体するかってことをね」


 白衣を翻し、先生は力強く立ち上がった。

 星の意識。精霊王。その側近。そして、ただの人間。

 役者は完全に揃った。


『さて、長居しすぎると君たちの肉体が冷え切ってしまう。そろそろ戻りなさい』


 光の塊が、ふわりと膨張する。


『次に会う時は、君たちが因子の付与を成し遂げた時だ。……待っているよ、僕の子供たち』


 その温かい声を最後に、俺たちの意識は再び急浮上を始めた。

 白の世界が遠ざかり、重力が戻ってくる。


 神々への反逆を誓う、魔法の譲渡計画。

 地球の核という最強の承認を得て、俺たちの「魂の修学旅行」は、かつてないほどの大きな収穫と共に幕を閉じた。

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