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第126話 神々のポンジ・スキームと、勝機

「アハハハハハッ!!」


 静まり返った研究室に、突然、腹を抱えて笑う声が響き渡った。

 机の上に座るツクヨミだった。彼は涙目になりながら、バンバンと机を叩いて大ウケしている。


「素晴らしい! 並行世界の自分に魔法を与え、育ててから統合する……その『収穫』という考えは非常に合理的で、まさに神殺しにふさわしい!」

「だろう?」


 兄さんが得意げに眼鏡を押し上げる。

 ジェンゴはまだ頭を抱えていたが、ツクヨミの笑いは止まらなかった。


「いやあ、恐れ入ったよ。もしそれを本当に成し遂げたなら、統合した君たちの力は、確実に太陽神や、その管理者の思兼神に届く。最高の一手になるだろうね」


 ツクヨミはひとしきり笑った後、ふと真面目な顔つきに戻った。


「それに、もし君たちが完全に統合を果たせば、この世界の『ポンジ・スキーム』は根本から破壊される」

「……ポンジ?」


 俺とジェンゴが声を揃えて聞き返す。

 魔法用語だろうか。聞いたことのない単語だ。


「投資詐欺の一種さ」


 答えたのは、兄さんだった。


「新規参入者から集めた出資金を、古株への配当に回す手口だ。利益を生み出しているように見せかけて、実際は下から吸い上げているだけ。新規の参加者がいなくなった時点で必ず破綻するシステムのことだよ」

「……なるほど。ここでは『弱者からの終わりのない搾取構造』って意味ですね」


 ジェンゴが苦い顔で納得する。


「その通りだ」


 兄さんがホワイトボードの『神々への信仰』を示す矢印を指差した。


「奴らは無数に分割した世界線から、少しずつエネルギーを吸い上げている。だが、俺たちが世界を『統合』して一つの強靭な魂に戻せば、その搾取ルートは断たれる」

「神々が起こす『奇跡』や聖女への『神託』なんて、結局はよその世界から吸い上げたエネルギーの使い回し(偽装された配当)に過ぎない。

 いくらそれで信者を操作しようと、力をつけた人類は、いずれ神に頼らず自分たちの力で立ち上がるだろうからね」


 ツクヨミが足を組み替えながら補足する。


「他の世界線からのエネルギー供給が絶たれれば、神々に勝ち目はない。システム自体が維持できなくなって、自滅する運命さ」

「……神様自らそういう裏事情を暴露するのって、感覚的にすごく不思議な感じがしますね」


 ジェンゴが呆れたようにツクヨミを見る。

 しかし、夜の神様は清々しいほどのドヤ顔で言い放った。


「だから僕は、真っ先にこっち側についたのさ!」

「清々しいほどの寝返りね」


 エレノア先生が呆れ半分、感心半分で溜息をついた。


「でも」


 俺は一つの、そして最大の問題点を口にした。


「どうやって、あっちの世界の『俺』に魔法を渡すんだ? 直接干渉するのはリスクが高すぎるし……そもそも、どうやって因子を植え付ける?」


 俺がツクヨミを見ると、彼はパタパタと両手を振った。


「僕を見ても無駄だよ。僕は隠匿や観測の神であって、魔法の渡し方なんて知らないからね」

「使えねえな……」

「失礼な。そもそも、この世界に『魔法』を顕現させたのは僕じゃない。地球の核……君の友達だろう?」


 ツクヨミの言葉に、俺はハッとした。


「魔法の問題なら、この世界にそれをバラ撒いた張本人に直接聞いてくればいいんじゃないかい? 彼なら、別世界への『可能性』の配り方も知っているはずさ」


 ……なるほど。

 大本を辿れば、そういうことになる。この世界を『特異点』に変えたのも、核なのだから。


「じゃあ、決まりだな」


 兄さんがパンッと手を叩いた。


「地球の核との繋がりが一番強いのは、実家の近くのあの場所だ。……ちょうど年末年始の長期休暇に入るし、みんなでうちの実家に帰省しないか?」

「お、いいね!」


 俺は賛成した。


「ジェンゴは数日の休みのためにゼノビアまで帰省するのは遠すぎるだろ? それに先生だって、帰るべき祖国ヴァイスラントはないわけだし」

「さらっと重い事実を突くわね、あなたたち」


 先生が苦笑したが、すぐにその瞳をギラリと輝かせた。


「でも、悪くない提案ね。地球の核……この世界の魔法の源。一度でいいから、会ってみたかったのよ! 喜んでお邪魔させてもらうわ!」


 研究者としての好奇心が完全に勝っている。

 一方、ジェンゴは少し顔を引きつらせていた。


「ヒロさんと、カイトさんの……実家」


 ゴクリ、と彼が喉を鳴らす音が聞こえた。

 この倫理観のぶっ飛んだ「イカれた兄弟」を育て上げた両親とは、一体どんな魔王なのだろうか。そんな想像をしているのが手に取るように分かる。


(……いや、僕も元はゼノビアの軍人だ。どんな修羅場でも生き抜いてみせる!)


 ジェンゴが一人で勝手に覚悟を決め、軍隊式の直立不動の姿勢をとった。


「謹んで、同行させていただきます!」

「そんなに気負わなくても、ただの田舎だよ」


 俺は笑いながら、窓の外を見た。

 冬の足音が近づく、茜色の空。

 次の目的地は、九州にある俺たちの実家だ。


「……見えてきたな。この戦いの、勝機が」


 神殺しへの歯車が、今、俺たちの始まりの場所へ向けて、決定的な音を立てて回り始めた。

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