表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/140

第119話 美の追求者と、黄金の錬成師

 学園の奥深くにある、研究棟。

 その一室の前で、ジェンゴがガチガチに緊張して襟元を直していた。


「ヒロさんの『先生』ということは……やはり、とてつもない古強者なのでしょうか。仙人のような……」

「いや、見た目は普通だよ。中身はアレだけど」

「アレ?」

「まあ、会えばわかる」


 俺は苦笑しながら、ドアをノックして開けた。


「失礼します。先生、戻りました」

「あら、おかえりなさい。早かったわね」


 研究室の奥から、白衣を纏った女性が振り返る。

 北欧系の透き通るような白い肌、流れるような金髪、そして知的な碧眼。

 相変わらず、絵画から抜け出してきたような美人だ。


 その瞬間、ジェンゴが石化した。


「あ……」


 そして、音速で直立不動の姿勢をとった。


「ジェ、ジェンゴ・ムワンバです!! そ、そうぞう、創造魔法を使います!! えっと、趣味は……き、筋肉です!!」


 声が裏返っている。

 なんだそのガチガチの挨拶は。


「おいおい、なんでそんな緊張してんの?」

「き、聞いてませんよヒロさん……ッ!」


 ジェンゴが口を動かさずに、腹話術のように囁いてくる。


「こんな……女神のような美女だなんて! ゼノビアにはいないタイプです……直視できません!」


 ああ、なるほど。

 ゼノビアは砂漠の国だし、こういう色素の薄い北欧系の美女は新鮮なのか。それにジェンゴ、意外と女性耐性なかったんだな。


 俺は普段、フレアやシラユキという「人外レベルの美貌」を見慣れているせいで感覚が麻痺していたが、言われてみればエレノア先生も超美人なんだった。


「あら、正直な子ね。合格よ」


 地獄耳の先生が、くすりと笑った。

 ジェンゴが「ひぃっ」と赤くなって縮こまる。


「そ、そういえば先生。これお土産です」


 俺は空気を変えるために、ゼノビアから持ち帰った小箱を差し出した。

 ジェンゴが作った瓶に入った『デザート・ドロップ』が入っている。


「ゼノビアで作った化粧品の試作品です。先生はこういうの、あまり興味ないかと思いましたけど……」

「何を言ってるの、一之瀬君」


 先生は小箱を受け取ると、愛おしそうに瓶を眺めた。


「私の魔法研究の原点は『美の追求』よ? 当然、嬉しいに決まっているじゃない」

「え、そうだったんですか?」

「当たり前でしょ。私の専門は魔法を作ること。真っ先に研究するテーマは美の追求にきまっているでしょうが。治癒魔法、それを応用して細胞の活性化、老廃物の除去、テロメアの修復……つまり『究極のアンチエイジング』こそが私のライフワークなのよ」


 先生がドヤ顔で言い放った。

 テロメアの修復って、それもう医療の枠を超えてないか。


「……そういえば」


 俺はふと、記憶を遡る。

 この学校に入学して、初めて先生に会ったのは六年前だ。

 あれから俺は成長したが、先生は……。


「先生って、六年前から見た目が全く変わってませんよね。……もしかして、精霊か何かなんですか?」

「ふふ、最高の褒め言葉として受け取っておくわ」


 先生は意味深に微笑むだけで、否定しなかった。

 ……怖い。この人は深く追求しない方がいいタイプだ。


「それはそうと、創造魔法ですって?」


 先生が興味深そうにジェンゴに向き直った。

 その目は、新しい玩具を見つけた子供のように輝いている。


「またとんでもないジャンルの魔法がやってきたわね。一体、どんな魔法なのか見当もつかないわ」

「は、はい! あの、なにかやってみせましょうか?」

「ええ、ぜひ」


 ジェンゴは緊張しながらも、気合を入れるように一度深呼吸をした。

 そして、空中に手をかざす。


「ふんっ!」


 彼の手のひらに、魔力の渦が生まれる。

 俺のように物理法則を計算して構築するのではない。もっと感覚的で、根源的な力。

 『無』から『有』を呼び出す力。


 カッ、と光が弾けると――。


 彼の手のひらには、繊細な装飾が施された、黄金のブローチが握られていた。


「……嘘でしょ?」


 先生が目を見開いた。

 慌ててブローチをひったくり、詳しく観察する。


「質量保存の法則を無視した完全な物質生成……! それも、この金属……金?」

「はい。あ、でも純金だと柔らかすぎて装飾品には向かないので、銀と銅を混ぜて18金に調整してあります。その方が嬉しいかなって」


 ジェンゴが照れくさそうに頭をかく。

 しかし、その言葉を聞いた瞬間、先生が叫んだ。


「はぁ!?」


 白衣を翻し、ジェンゴに詰め寄る。


「生成と同時に!? 合金の比率調整までやったの!?」

「え、あ、はい。……欲しいモノをイメージして、取り出すだけなので……」

「取り出すだけって……あんたねぇ……」


 先生はわなわなと震えながら、ブローチとジェンゴを交互に見た。


「ありえない……これぞまさに『チート』……! バランスブレイカーだわ!」


 出た。先生のラノベ脳。


「土魔法で鉱物を集めて精製するなら分かるわ。でも、これは魔力を直接物質に変換している。しかも分子レベルの調整付きで! そんな微調整もできてしまう、この一瞬で!」

「は、はあ……」

「なによそれ……こっちが主人公だったんじゃないの?」


 先生がブツブツと呟きながら、俺をチラリと見た。


「……なんか、すいません」


 俺は妙な敗北感を味わっていた。

 俺の魔法は、ただ空間を好きにいじっているだけの物理現象がメインだからな。

 でもジェンゴのは、理屈抜きの「魔法」そのものだ。

 しかも、カネになる。


「ねえ、ジェンゴ君」


 先生の目の色が、すっと変わった。

 科学者としての、鋭い光が宿る。


「私の眼はね、魔法の構成式が視えるのよ。……他にも何か、創ってみせてもらえるかしら? もっと複雑な構成のものを」

「は、はいっ! ぞひ!!」


 ジェンゴが裏返った声で即答した。

 「ぜひ」と言いたかったのだろうが、美人に頼られてテンションが振り切れているらしい。


 彼は再び気合を入れると、今度は両手を広げた。

 さっきよりも複雑で、濃密な魔力が練り上げられていく。


 数秒後。

 彼の手の中に現れたのは、複数の金属が組み合わさった、幾何学的なデザインの魔道具――魔力灯のランタンだった。


「ふむ……なるほど」


 先生はランタンを手に取ることもなく、食い入るようにジェンゴの手元を凝視していた。

 その碧眼が、怪しく輝いているように見える。


「そういう原理ソースコードか……。かなり複雑に圧縮されているけれど、ブラックボックスというわけではないわね」


 先生がニヤリと笑った。


「紐解けないわけではないわ」

「……え?」


 ジェンゴがキョトンとしている。

 先生は、肉食獣のような目でジェンゴの肩をガシッと掴んだ。


「あなた、私の研究対象になりなさい。……徹底的に調べてあげるわ(ハート)」

「ヒ、ヒロさぁぁぁん!!」


 ジェンゴが涙目で助けを求めてきた。

 俺はそっと視線を逸らした。


 頑張れ、ジェンゴ。

 日本の洗礼へようこそ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ