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第116話 砂漠の雫と精霊の肌あわせ

 帰国前日。

 俺たちは薬師寺アリサ先輩の拠点である、仮設ラボ(大型テント)に呼び出されていた。


「見てくださいな。奇跡の試作品第一号ですわ」


 白衣を纏った先輩が、誇らしげにビーカーを掲げた。

 中には黄金色に輝く液体が入っている。

 まだ工場は基礎工事の段階だが、現地のスタッフと共に手作業で抽出・調合を行ったらしい。


「名付けて『砂漠のデザート・ドロップ』。

 あの生命力溢れる植物のオイルと、一之瀬さんが掘り当てた高純度地下水を黄金比でブレンドしましたの」


「へぇ、綺麗ですね」


 ジェンゴが感心して覗き込む。


「成分分析は完璧ですが、やはり化粧品は『肌触り』が命。

 実際に肌につけて、感想をくれるモニターが必要ですわ」


 先輩がチラリと俺を見た。

 なるほど、俺たち男衆の肌じゃ参考にならないってことか。


「一之瀬さん。

 ……フレアお姉様をお呼びしていただいてもよろしいかしら?」


 先輩が頬を染めて懇願してきた。

 そういえばこの人、フレアの熱烈なファンだったな。


「へいへい。呼ばれてますよ、フレア」


 俺は虚空に声をかけた。

 ついでにもう一人。


「シラユキも出ておいで。女の子同士、化粧品の話でもどう?」


 ボッ! ヒュオッ!

 熱気と冷気と共に、二人の美女が現れた。

 深紅のドレスを纏ったフレアと、純白の着物を着たシラユキ。

 もちろん二人とも人型だ。


「あら、またお呼び? アリサ」

「王よ、御用でしょうか」


 狭いテントが一気に華やかになる。


「はぁぁ……! お姉様……今日も素敵ですわ……!」


 先輩がうっとりとため息をついた。

 完全に仕事モードが抜けているが、すぐに気を取り直した。


「お二方、少しこの化粧水を試していただけなくて?」


「化粧水? あら、面白そうね」


 フレアが興味津々でビーカーを受け取る。


「いい香りね。わたくしは人族より少し体温が高めだから、普通の水だとすぐに蒸発して乾いちゃうんだけど……」


 フレアがその液体を、白魚のような指ですくい、頬に塗った。


「……あら?」


 フレアが目を見開く。


「全然乾かないわ。熱で揮発する前に、肌に吸い付くように留まっている。

 それに……凄いわ、この弾力」


 フレアが自分の頬をぷにぷにと突っついた。


「ぷるぷるのモチモチよ!

 私の肌がさらに輝いているみたい!」


「ぷるもち、ですか。いい擬音ですわ」


 先輩がメモを取る。

 元の肌スペックが高すぎるから「補修効果」は無意味だが、保湿と質感はお墨付きらしい。


「次は私ですね」


 シラユキが静かに液体を手に取る。

 彼女は雪女のような存在だ。元から透き通るような白さを持っているので、美白効果などは測定不能だが……。


 シラユキが肌に馴染ませた瞬間、液体がスゥッと消えた。


「……驚きました」


 シラユキが感嘆の声を漏らす。


「塗った瞬間、水が肌に溶けていきます。

 この地下水……温かくて綺麗な、不思議な魔力を含んでいますね。それが私たちの波長と合うようです」


「親和性、ですか?」


「はい。異物感が全くありません。まるで体の一部になったような……素晴らしい馴染み具合です」


 シラユキがうっとりと自分の肌を撫でている。

 どうやら、浸透力も最高クラスのようだ。


「完璧ですわ!」


 先輩がガッツポーズをした。

 そしてブツブツと妄想を始めた。


「次のCMもフレアお姉様にお願いするとして……いえ、この浸透力ならシラユキ様の透明感も捨てがたいですわ。

 いっそお二人並んで……『炎と氷の共演』……!

 ああ、素晴らしい画になりますわ! 衣装はどうしましょう、やはりドレスと着物で対比させて……」


 完全に自分の世界に入っている。

 まあ、ビジネスが成功すればジェンゴの村も潤うし、良いことずくめだ。


「あの、先輩。これ、お土産に持って帰りたいんですけど」


 俺は切り出した。

 日本で待つエレノア先生や、母さんにあげたい。

 渡す相手といってもそのくらいしかいないんだけどね。


「構いませんが……まだボトルの製造ラインができていませんの。

 このビーカーのまま持ち帰るわけにもいきませんし」


 確かに。液漏れしたら大惨事だ。


「それなら、僕に任せてください!」


 ジェンゴが手を挙げた。

 彼はテントの外に出ると、足元の砂漠の砂を両手で掬った。


「現地の砂で作る、特製ボトルです!」


 ジェンゴの手が光る。創造魔法発動。

 魔力で砂を溶解し、不純物を取り除き、再結晶化させる。


 カッ……!


 光が収まると、彼の手のひらには、美しいクリスタルガラスの小瓶が乗っていた。

 ゼノビアの伝統的な幾何学模様が刻まれ、光を受けると七色に輝く。

 まるで芸術品だ。


「す、すごいですわ……! これだけで商品になります!」


 先輩が絶句して、まじまじと瓶を見つめた。


「この透明度、そして繊細な装飾……最高級ラインのパッケージとして採用できますわ。

 ジェンゴさん、サンプルとしていくつか頂けます?

 現地の職人で、この模様を再現できる人材を確保しなければ……」


 先輩がまたブツブツと計算を始めた。

 ジェンゴの魔法が、この国の産業そのものを底上げしそうだ。


「へへっ、お安い御用です。何個でも作りますよ!」


 ジェンゴは次々と砂をガラス瓶に変えていく。

 俺たちはその出来立てのボトルに、試作品を詰め込んだ。

 ラベルはないが、世界に一つだけの最高級お土産の完成だ。


「よし、これで準備万端だな」


 俺はガラス瓶を収納魔法に収めた。

 仮面、杖、筋肉ダンベル、そして化粧品。

 たくさんの思い出と戦果を抱えて。


 いよいよ明日は、日本への帰国だ。

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