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第114話 魔道具街の銀杖

 帰国を数日後に控えたある日。

 俺たちはラシード大佐の案内で、ゼノビアの首都にある「魔道具街」を訪れていた。


「すげぇ……ファンタジー映画のセットみたいだ」


 石造りの重厚な建物が並び、ショーウィンドウには大小様々な魔石や触媒が飾られている。

 道行く人々もローブ姿が多く、まさに魔法の街といった雰囲気だ。


「おい、見ろよ。あれが例の日本人だ」

「ドラゴンに乗って戦争を止めたっていう……」

「将軍閣下とタメ口で話してたって噂だぞ」


 すれ違う人々――軍服を崩して着ている、休暇中の将校たちが、遠巻きに俺たちを見てヒソヒソと話している。

 畏怖と尊敬の入り混じった視線だ。

 どうやら俺たち、この国ではちょっとした有名人(英雄)扱いらしい。


「さて、ここだ」


 大佐が足を止めたのは、老舗の魔導具店だった。


「お前たちは杖を使わん主義だそうだが、ゼノビアの杖は一味違うぞ。

 百聞は一見にしかずだ。見て回るといい」


 店内には所狭しと杖や魔導具が並んでいる。

 その中で、カイト兄さんがふと足を止めた。


「ほう……ほうきに、羽根の生えたブーツか」


 そこには飛行用の魔道具がズラリと並んでいた。

 大佐が兄さんの視線に気づいて声をかける。


「気になるか? 空を飛ぶための道具は人気でな」


「いや、魔道具がなくても風魔法で飛べますけどね」


 兄さんは事もなげに言うと、スッと地面から足を浮かせた。

 風を纏い、ふわりと宙に浮く。


「……ほう」


 大佐が目を丸くした。


「魔道具なしで、自力での飛行制御をこなすか。

 兄も兄で優秀だな」


「便利ですけど、長距離は疲れるんですよね」


「なら、飛行補助に特化した杖はどうだ?」


 大佐が棚から一本の杖を取り出した。

 青緑色の宝石が埋め込まれた、細身で流線型の杖だ。


「要らんかもしれんが、これを通せば魔力の整流効果で飛行速度や旋回性能が向上するぞ。

 燃費も良くなる」


「なるほど……機動性の向上か」


 兄さんが杖を受け取り、少し魔力を通す。

 杖の周囲に綺麗な風の渦が生まれた。


「いいですね。制御が楽になるし、より鋭い機動ができそうだ。

 ありがとうございます、大佐」


 兄さんはその「空を制する杖」を買ってもらうことにした。


 次は俺の番だ。

 俺たちは路地裏にある、少し古びた店に入った。

 頑固そうな職人親父が一人でやっている店だ。


「いらっしゃい。……ん?」


 俺は店の隅に、埃を被った一本の杖が置かれているのを見つけた。

 装飾はシンプルだが、流れるような銀色の金属光沢が美しい。

 なぜか、妙に惹かれる。


「親父さん、これは?」


「ああん? ……ああ、そりゃ売れ残りだ」


 職人の親父が鼻を鳴らした。


「失敗作だよ。魔法増幅効果が皆無な上に、使うと神経が過敏になって頭痛がするって苦情続きでな」


「神経が過敏に……?」


 俺は直感的に何かを感じ、その杖を握ってみた。

 その瞬間。


 バチッ。


 指先から脳天まで、電流が走ったような感覚が抜けた。

 痛くはない。むしろ、視界が急激にクリアになったような感覚だ。

 店内の埃の舞い方、空間の座標、魔力の流れ……全てが鮮明に「認識」できる。

 まるで、世界の解像度が上がったようだ。


「……すごい」


 俺は息を呑んだ。


「これ、脳の認知機能を拡張してる……?」


「ほう、分かるかボウズ」


 親父がニヤリと笑った。


「魔力同調率を上げるために、使用者の神経パルスそのものを加速させる実験機だ。

 だが、情報過多で使いこなせねぇってよ」


 確かに、火の玉を飛ばす程度なら必要ない機能だ。

 だが、俺の「空間魔法」は違う。

 より深く、より遠くの空間を認識する必要がある。

 この杖があれば……今まで見えなかったものも認知できるかもしれない。


「可能性が広がる気がする……」


 俺はその銀杖を掲げた。


「大佐! 俺、これがいいです!」


「物好きな奴だ。まあ、お前が気に入ったなら構わんが」


 大佐が苦笑して代金を払ってくれた。

 ちなみに杖の名前は『銀幻シルヴァリー・ファントム』というらしい。

 ちょっと名前負けしてる気もするが、相棒としては悪くない。


 そして最後は、ジェンゴへのプレゼントだ。

 だが、これが一番の難問だった。


「こいつ、自分で何でも作れちゃうからなぁ……」


 普通の魔道具をあげても、「僕が改良しますね」と言って別物にされそうだ。

 俺たちが悩んでいると、大佐があるものを指差した。


「ジェンゴなら何でも創れそうだし、こんなものでいいんじゃないか?」


 大佐が指差したのは、ショーケースの片隅に置かれた奇妙な物体だった。

 それは、全体に無駄に豪華な文字が刻まれた、金ピカのダンベルだった。


「なんですかあれ……」


「魔導ダンベルだ。

 重さを自由に変えられる魔法がかかっているらしいが、装飾過多で誰も買わん」


 俺と兄さんは顔を見合わせた。

 そして同時に頷いた。


「「これだ」」


◇◇◇


「ええっ! 僕にですか!?」


 宿舎に戻り、俺たちが包みを渡すと、ジェンゴは目を丸くした。


「開けてみろよ」


 ジェンゴがワクワクしながら包みを開ける。

 ドスンッ、と重たい音がして、金ピカのダンベルが現れた。


「おおお……!」


 ジェンゴが歓声を上げる。

 そして、そのグリップを掴むと、フンッ! と持ち上げた。


「いい重量感です!

 それに、この無駄に神々しい装飾……かっこいいです!」


「だろ?」


「はい! これなら日本に行っても、毎日トレーニングできます!

 ありがとうございます、大佐!」


 ジェンゴは嬉しそうに、ダンベルでアームカールを始めた。

 ブンッ、ブンッ、と風を切る音がする。

 やはりこいつには、筋肉への刺激が一番のプレゼントだったようだ。


「気に入ってくれたみたいで何よりだ」


 俺たちは笑い合った。

 それぞれが手に入れた、この国での思い出の品。

 俺は手の中の銀の杖を握りしめた。

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