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第113話 英雄の凱旋と未来への密約

 戦場から帰還した翌日。

 俺たちは再び、軍司令部のザッハーク将軍のもとを訪れていた。


「……見事だった」


 将軍は、戦場から送られてきた報告書を机に置いた。


「『静寂の雷』による電子戦、そして迅速な資源回収。

 人的被害ゼロでの完全勝利だ。文句のつけようがない」


「お役に立てて光栄です」


 俺は一礼した。

 隣ではラシード大佐も満足げに頷いている。


「だが、一つ聞きたいことがある」


 将軍が目を細め、俺をじっと見据えた。


「あの『ドラゴン』は何だ?

 あんな戦略級兵器を持っているとは聞いていないぞ」


「あれ? 言ってませんでしたっけ?」


 俺はとぼけた。

 まあ、確かに言ってないけど。


「火の精霊、フレアです。

 ……おいフレア、挨拶してくれ」


 俺は指を鳴らした。

 ボッ! と赤い炎が空中に舞い、人の形を形成する。

 現れたのは、深紅のドレスを纏った絶世の美女――人型モードのフレアだ。


「お初にお目にかかりますわ。火の精霊、フレアです」


 フレアは優雅にスカートの裾をつまみ、カーテシー(膝を折る挨拶)をした。

 戦場で暴れまわっていた怪獣とは思えない、完璧な淑女の振る舞いだ。


「なっ……」


 将軍と大佐が息を呑んだ。

 そのあまりの美貌と、放たれる高貴なオーラに、歴戦の軍人である二人もたじろいでいる。


(……美しい)


 二人の心の声が聞こえた気がした。

 強面のおっさん二人が、少し頬を赤らめている。

 やはりフレアの美貌は国境を超えるらしい。


「あのインゴット、気に入っていただけました?」


 フレアが微笑みかけた。


「わたくしのブレスで一気に溶解させましたから、塗料やゴムなどの不純物はすべて焼き尽くしましたわ。

 純度99.9%の最高級鉄鋼です。資源として活用なさいませ」


「あ、ああ……かたじけない」


 将軍が咳払いをして居住まいを正した。

 敵の兵器を溶かして「純度を上げました」と言われて感謝するのも妙な話だが、結果的に莫大な資源が手に入ったのだ。文句はないだろう。


◇◇◇


「さて」


 将軍は表情を引き締めた。


「貴様らには大きな借りができた。

 ジェンゴの件も含め、今後、我が国と日本……どう付き合っていく?」


「そうですね……」


 俺が口を開こうとすると、将軍が手で制した。


「国同士の正式な軍事同盟となると、手続きが煩雑すぎる。

 条約の批准、議会の承認……貴様が学生である以上、日本政府を動かすのにも時間がかかるだろう」


 さすがは一国の指導者だ。その辺りの事情はよく分かっている。


「だから、こうしよう。

 我が国と、貴様の所属する『学校』との間で、技術・防衛協力協定を結ぶ」


「学校と、ですか?」


「ああ。事実上の『一之瀬ヒロ個人』との同盟だが、形式上は組織対組織の方が動きやすい」


 将軍はそう言うと、部下に通信機を用意させた。


「貴様の学校の責任者に繋げ」


 俺は言われた通り、日本の魔法学校の校長にビデオ通話を繋いだ。


『は、はい。もしもし? 一之瀬君かね?』


 モニターに映った校長は、心なしかやつれていた。

 まあ、突然海外の軍事回線から着信があったらビビるよな。


「校長、ゼノビアのザッハーク将軍です」


『えっ!?』


「ザッハークだ」


 将軍が画面に割り込む。

 そのド迫力の顔面に、校長が「ひいっ」とのけぞった。


「単刀直入に言う。

 我々は一之瀬ヒロ及びジェンゴ・ムワンバを通じ、貴校と技術提携を結びたい。

 有事の際には、我が軍が貴校をバックアップする用意もある」


『ぐ、軍がバックアップ!?』


「その代わり、ジェンゴの留学を受け入れろ。

 ……それとな」


 将軍がギロリとカメラを睨みつけた。


「一之瀬ヒロは、我が国の恩人だ。

 もし日本国内で、彼が不当な扱いを受けたり、冷遇されるようなことがあれば……」


『あ、あれば……?』


「我々は即座に彼を迎え入れる。

 全軍を持って彼を保護し、ゼノビアの重鎮として厚遇するつもりだ。

 ……そのつもりで扱えよ?」


『は、はははひぃぃっ!! も、もちろんですとも!!』


 校長が首がもげるほどの勢いで頷いている。

 後ろで聞いていた俺は、うんうんと他人事のように頷いた。

 これで俺は、日本にいながらにして「軍事国家ゼノビア」という強力な後ろ盾を得たわけだ。

 動きやすくなったなぁ。


◇◇◇


 通信が終わると、将軍は満足げに笑った。


「よかろう。一之瀬ヒロ、貴様を我が国の『特級国賓』に認定する。

 いつでも来るがいい。VIPとして歓迎しよう」


「重たい肩書きですねぇ。まあ、ありがたく頂きます」


 そして、話題はジェンゴに移った。

 彼の除隊手続きはすでに完了している。


「ジェンゴ」


「は、はい!」


 ジェンゴが直立不動で敬礼する。


「お前は今日から自由だ。外の世界で、その才能を存分に開花させてこい」


 将軍の声は優しかった。


「だが、国籍までは抜かんでいい。

 お前はいつまでもゼノビアの国民であり、私の……自慢の部下だ。

 いつでも帰ってこい」


「しょ、将軍……!」


 ジェンゴの目が潤む。

 だが、将軍は照れ隠しのように付け加えた。


「あと、向こうでも筋トレは続けろよ?

 せっかくいい体になったんだ。ナマって腹が出たら承知せんぞ」


「あはは……はい! 善処します!」


 ジェンゴは涙を拭いながら笑った。

 固い握手が交わされる。

 それは、上官と部下というより、親と子の別れのようだった。


「さて、湿っぽいのは柄じゃないな」


 隣で見ていたラシード大佐が、パンと手を叩いた。


「出発まで少し時間があるだろう。

 一之瀬たちよ、餞別代わりだ。街へ買い物に行こうじゃないか」


「買い物?」


「ああ。魔道具街にいい職人がいてな。

 記念に『杖』でも買ってやろう」


 杖か。

 そういえば俺たち、素手だったな。

 せっかくだし、異国の魔法文化に触れてみるのも悪くないか。

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