第112話 静寂の雷と紅蓮の資源回収
北の国境戦線。
砂塵舞う荒野で、ゼノビア軍は絶望的な戦況に立たされていた。
「くそっ、数が違いすぎる!」
「敵の魔導戦車の装甲、歩兵の火器じゃ抜けません!」
教会派の支援を受けた連合軍の戦力は圧倒的だった。
空を埋め尽くす攻撃ドローン。地平線を埋める戦車隊。
ゼノビア軍の前線基地は半壊し、指揮官は苦渋の決断を迫られた。
「……総員、撤退準備!
殿は私が務める! 若い者は逃げろ!」
その時だった。
グォォォォォォオオッ!!!!
戦場の喧騒をかき消す、大気を震わせる咆哮が空から降り注いだ。
敵も味方も、思わず動きを止めて空を見上げる。
「な、なんだアレは……!?」
雲を切り裂き現れたのは、紅蓮の鱗に覆われた巨大な影。
翼長20メートルを超える、正真正銘の「火竜」だった。
ドォォォォォンッ!!
火竜は両軍の中間地点、砂漠のど真ん中に着陸した。
着地の衝撃だけで小規模な地震が起き、砂の波が広がる。
「よっと」
その火竜の頭上から、一人の少年が飛び降りた。
俺だ。
「ゼノビア軍、聞こえるか!?」
俺はジェンゴ作の拡声の魔道具を使って叫んだ。
「今からここを掃除する!
巻き込まれたくなきゃ、全速力で下がってろ!!」
「そ、掃除だと……?」
「あの少年は……まさか、日本の留学生か!?」
ゼノビア軍がざわつく中、俺は敵軍の方を向いた。
突然の乱入者に、敵軍の砲塔が一斉に俺に向けられる。
「なんだあの化け物は!?」
「ドラゴンだ! 構うものか、撃て撃てぇ!!」
数千の砲門が火を噴こうとする。
だが、遅い。
「出てこい、イカヅチ!」
バチバチッ!
俺の足元の影から、黄金の雷獣が飛び出した。
イカヅチは大地を踏みしめ、全身から莫大な雷気を立ち昇らせる。
「いくぞ、合わせ技だ!」
俺は右手を掲げた。
イカヅチが咆哮と共に、極太の雷撃を俺の掌に向けて放出する。
通常なら黒焦げになるところだが――。
「圧縮!!」
ギチチチチチッ……!
俺は空間魔法で雷エネルギーを強引に押さえ込む。
直径1メートル、50センチ、10センチ……。
暴れ狂う雷を、ピンポン玉サイズまで極限圧縮する。
手の中にあるのは、青白く輝く破滅の種子。
カイト兄さんと開発した魔道具の、オリジナル版だ。
「食らえ――」
俺はその球体を、敵軍の上空めがけて放り投げた。
ヒュンッ、と風を切って空へ昇る。
敵軍の頭上、数百メートルの地点で、俺は圧縮を解放した。
カッ……!!
音はなかった。
目に見える爆炎もなかった。
ただ、青白い波紋が、ドーム状に戦場全体へ広がっただけだ。
――静寂の雷。
その波動が通り過ぎた瞬間。
プツン。
空を飛んでいた無数のドローンが、糸の切れた人形のようにバラバラと落下した。
進軍していた戦車隊が、急ブレーキをかけたように停止する。
「な、なんだ!?」
「エンジンが動かない!?」
「通信機が死んだぞ! 制御不能だ!」
敵陣営から悲鳴が上がる。
全ての電子機器、魔導制御チップが一瞬で焼き切れたのだ。
今や彼らの武器は、ただの重たい鉄の棺桶でしかない。
そして目の前には、巨大な火竜と雷獣。
戦う術を失った人間に、抗う気力など残っているはずもなかった。
「に、逃げろぉぉぉ!!」
「化け物だ! 食われるぞ!!」
兵士たちはハッチを開けて戦車から飛び出し、武器を投げ捨てて一目散に逃げ出した。
我先にと走る背中が、地平線の彼方へと消えていく。
◇◇◇
やがて撤退の砂塵が収まると、辺りには静寂だけが残った。
見渡す限りの荒野に、持ち主を失った大量の鉄くず――戦車や装甲車が転がっている。
「……ふぅ。終わったな」
俺は息を吐いた。
誰も殺さずに済んだのは良かったが……。
「これ、どうするんだ?」
俺は戦車をコンコンと叩いた。
動かない鉄の塊が数千台。
放置しておけばただのゴミだし、回収するにも手間がかかりすぎる。
『汚いわね』
フレアが鼻を鳴らした。
『リサイクルよ、ヒロ』
「リサイクル?」
『ええ。溶かして固めれば、資源として使えるでしょう?
私が溶かすから、形は貴方に任せるわ』
「形は任せるって……」
俺は腕を組んで考えた。
金属の塊か。やっぱり保管しやすい形がいいよな。
「……ま、四角く成形するのが無難か」
俺は両手を広げた。
イメージするのは、子供の頃、ソファーに座ったままリモコンを引き寄せていたあの感覚。
対象は「金属」。範囲は「戦場全域」。
「ほいっ、と」
俺が指をくいっと動かすと、数トンの重量がある戦車たちが、まるで重力から解放されたかのようにフワリと浮き上がった。
それをヒョイヒョイと空中で操り、一箇所に集めていく。
右から左へ。整理整頓。
ガシャーン! ガシャーン!
積み木遊びのように、戦車やドローンが積み重なり、巨大な金属の山が出来上がった。
「よし、型枠セット」
俺は金属の山の周囲に、空間魔法で巨大な「立方体の枠」を作った。
「フレア、お願い」
『任せなさい』
フレアが大きく息を吸い込む。
ゴオオオオオオオオッ!!!!
放たれたのは、鉄すら瞬時に気化させかねない極大のブレス。
鉄屑の山は一瞬で赤熱し、ドロドロに溶け出した。
しかし、俺の空間枠があるため、溶けた鉄は外に漏れ出さず、綺麗な四角形の中に収まっていく。
やがて冷却。
そこに残ったのは、戦場の真ん中に鎮座する、完全な立方体の巨大な鉄塊――インゴットだった。
「…………」
遠くで見ていたゼノビア軍の兵士たちが、ポカンと口を開けているのが見えた。
敵が残していった最新兵器群が、一瞬でただの「資源」に変わったのだ。
これ以上の戦意喪失はないだろう。
俺は冷えたインゴットの上に飛び乗り、ゼノビア軍に向かって手を振った。
貴重な資源の山だ。将軍も喜ぶだろう。
これにて、ミッションコンプリートだ。




