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第111話 三人の天才と封じられた雷

 村の問題が解決し、迷いの消えたジェンゴは、俺たちと共に地下工房に籠もることになった。

 目的は、戦争を終わらせるための兵器「高高度電磁パルス(HEMP)」を再現する魔道具の開発だ。


「よし、やるぞ」


 カイト兄さんが作業台に設計図を広げた。


「今回はエレノア先生がいない。だから、複雑な魔法式ソフトウェアで制御するのは諦める。

 物理的な機構ハードウェアで、ヒロとイカヅチが起こす現象を強制的に再現するんだ」


「はい! 筐体の強度や回路の微調整なら、僕の創造魔法でいくらでも対応できます!」


 ジェンゴがやる気満々で答える。

 俺は腕まくりをした。


「で、俺は何をすればいい?」


「お前は『素材』だ。何度も雷を出して、データのサンプリングをさせろ」


「……へいへい」


 俺は実験体か。


◇◇◇


「いくぞ、イカヅチ。極小サイズで……圧縮!」


 俺は指先に意識を集中した。

 イカヅチの放出する雷撃を、空間魔法でビー玉サイズまで押し固める。


 バチバチバチッ……!!


 黒い雷の球が、不安定に振動する。


「ストップ! そこで維持! 計測する!」


 兄さんが魔導計測器をかざして叫ぶ。


「すごい……空間が歪んで、魔力のベクトルが螺旋状になってる。

 おいジェンゴ! この圧力を封じ込めるチャンバー(容器)は作れるか!?」


「通常のタングステン合金じゃ溶けますね……!

 分子結合をもっと密にして、熱伝導率を極限まで下げないと……!」


 ジェンゴが空中で手を動かし、次々と金属パーツを創造していく。


「早くしてくれ、指が痺れる……!」


 俺は冷や汗を流しながら、イカヅチに話しかけた。


「悪いな、イカヅチ。ずっと地味な供給係をさせて」


 誇り高き雷獣である彼にとって、こんなチマチマした作業は退屈だろう。

 もっと派手にドカンとやりたいはずだ。

 しかし、イカヅチは意外にも落ち着いた声で答えた。


『……構わんさ』


 イカヅチは、忙しなく動くカイトとジェンゴを見つめていた。


『我の力は、本来すべてを破壊するもの。

 だが……人間というのは面白いな。

 その破壊の力を、極小の檻に閉じ込め、誰も殺さずに争いを止めるための「光」に変えようとしている』


 イカヅチが鼻を鳴らして笑った。


『かつて、人間が雷を恐れるだけでなく、火として利用し、文明を築いたようにな。

 我の力が「共存」のために創意工夫される様を見るのは……悪くない』


 なるほど。

 伊達に長く生きていないってことか。


「へへっ、そう言ってもらえると助かるよ」


 俺とイカヅチは、二人の天才技術屋のために、喜んで「電池」になり続けた。


◇◇◇


 開発は困難を極めた。


 バシュッ!

 試作1号機は、スイッチを入れた瞬間にショートして発火した。


 パァン!!

 試作2号機は、圧縮された雷のエネルギーに耐えきれず、内部パーツが破裂して吹き飛んだ。


「ぐっ……またダメか」


 ジェンゴが煤だらけの顔で咳き込む。


「雷のエネルギー密度が高すぎます。

 既存のどんな金属を使っても、内側から崩壊してしまう……」


「なら、既存の金属じゃなきゃいい」


 兄さんが目をぎらつかせた。


「ジェンゴ、お前の創造魔法なら、自然界に存在しない合金比率も試せるはずだ。

 理論上最強の強度と、魔力耐性を持つ配合を見つけ出せ」


「……やってみます!」


 ジェンゴが集中する。

 彼の脳内で、元素の組み合わせが高速でシミュレートされていく。


 カッ……!


 生まれたのは、虹色のような、銀色のような、不思議な輝きを放つ金属片だった。


「こ、これは……?」


 それを組み込んだ試作3号機。

 雷を封入しても、微動だにしない。熱も持たず、完璧にエネルギーを閉じ込めている。


「成功だ……! なんだこの金属、強度が桁違いだぞ!」


 兄さんが驚愕する。


「えへへ……さっきまでの合金に、レアアースを限界まで混ぜ込んで、分子構造をハニカム状に固定してみました。

 僕の創造魔法じゃないと作れない、特製合金です」


 ジェンゴが照れくさそうに笑う。

 俺はその輝きを見て、ふと思った。


「すげぇな。この世に存在しない、ジェンゴにしか作れない伝説の金属か。

 ……よし、こいつを『オリハルコン』と呼ぼう」


「オリハルコン?」


「ああ。伝説上の最強金属の名前だ。ぴったりだろ?」


「オリハルコン……かっこいいです!」


 ジェンゴが目を輝かせた。

 こうして、この世界に「オリハルコン」が誕生した。


◇◇◇


 深夜。

 作業が一段落したところで、俺は収納魔法からあるものを取り出した。


「さて、研究といえばこれだよな」


 ドン、と置いたのは、日本から大量に持ち込んでいたカップ麺だ。


「なんですかこれ?」

「日本のソウルフードさ。お湯を入れるだけで食える」


 俺は魔道具でお湯を沸かし、三つ作った。

 ズズッ……と三人で麺を啜る。


「んんっ! 美味しい!」


 ジェンゴが感動している。


「こんなに楽しいのは初めてです。

 自分の作ったものが、人を殺すためじゃなく、戦争を止めるために使われるなんて。

 それに……こうして仲間と夜食を食べるのが、こんなに美味しいなんて」


「ああ。技術は使いようだ。俺たちが証明してやろうぜ」


 兄さんがスープを飲み干して笑った。

 天才たちが笑い合う。最高の夜だ。


◇◇◇


 そして翌朝。ついに「それ」は完成した。


 作業台の上に置かれていたのは、大砲でも銃でもない。

 直径15センチほどの、金属製の球体だった。

 表面には幾何学的な溝が刻まれ、その奥で青白い光が脈打っている。


「名付けて、自律機動型EMP発生装置『パルス・スフィア』だ」


 兄さんが誇らしげに宣言した。


「使い方は簡単だ。ターゲットの頭上に投げるだけ」


 兄さんが実験場にある廃棄ドローンの群れに向かって、球体を放り投げた。


 ヒュンッ!


 球体は空中で静止すると、表面の溝が展開し、内部のオリハルコン製コアが露出した。


 カッ……!!


 目に見えない衝撃波――電磁パルスが全方位に放たれる。

 次の瞬間。

 飛行していたドローンたちが、糸の切れた人形のようにバラバラと墜落した。


 ブォン……。


 役目を終えた球体は、まるでブーメランのように弧を描き、自動的に兄さんの手元へと戻ってきた。


「成功……です!」


 ジェンゴが叫んだ。

 物理的な破壊は一切なし。しかし、電子機器は完全に沈黙している。

 再利用も可能。完璧な非殺傷兵器だ。


「やったな!」


 俺たちは歓喜のハイタッチを交わした。


◇◇◇


 出発の朝。

 俺たちは完成した『パルス・スフィア』の設計図と試作機を、ザッハーク将軍に提出した。


「……見事だ」


 将軍は球体を手に取り、唸った。


「これがあれば、我が国は無用な血を流さずに国を守れる。

 最高の置き土産だ。受け取ろう」


 将軍は満足げに頷き、そして俺たちを見た。


「行け。北の戦場へ。

 お前たちの手で、この泥沼の戦争に終止符を打ってこい」


「はい!」


 俺、兄さん、そしてジェンゴ。

 三人の天才は、北の国境戦線へと旅立った。

 いよいよ、決戦の時だ。

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