第109話 将軍の親心と静寂の雷
翌日。
俺たちは再び、軍司令部のザッハーク将軍のもとへ呼び出された。
今回はジェンゴも一緒だ。
「……ジェンゴよ」
将軍の重低音が響く。
ジェンゴはビクリと肩を震わせたが、逃げずに将軍を見上げた。
「お前、ここを出たいのだろう?」
「……っ」
ジェンゴが息を呑む。
俺たちの計画は、とっくにバレていたらしい。
ラシード大佐が苦笑している。
「は、はい……」
ジェンゴは震える声で、しかしはっきりと答えた。
「ヒロ君たちと……外の世界を見てみたいんです。
僕の知らない、未知の技術や世界を……この目で見たいんです」
「……そうか」
将軍は目を細めた。
その表情は、厳格な指導者のものではなく、どこか成長した息子を見る父親のようだった。
「お前がこの軍に来たのは10歳の頃だったか。
泣き虫で、ただ怯えていた子供が……いつの間にか自分の意志を持つようになったな」
将軍は、幼い頃からジェンゴを見てきたのだ。
兵器の部品としてではなく、一人の人間として。
彼もまた、ジェンゴの才能がこの狭い鳥籠に収まりきらないことを理解していたのかもしれない。
「神を殺すという壮大な目的のためには、お前のような規格外が必要なのだろう。
……行きたいのなら、行くがいい」
「しょ、将軍……!」
ジェンゴの顔が輝く。
だが、将軍はすぐに鋭い眼光を向けた。
「だが、お前は我が国の要だ。はいそうですかとタダで手放すわけにはいかん」
将軍は壁に掛けられた地図を指した。
「条件がある。
現在、北側の国境戦線で睨み合っている教会派の連合軍……これを退けろ」
「えっ……」
「お前を連れ出すというのなら、それ相応の対価を払えということだ。
一之瀬ヒロ。かつて教会本部を水没させたその力で、戦争を終わらせてみせろ」
「む、無茶です!」
ジェンゴが叫んだ。
「ヒロ君たちは学生ですよ!? 戦争に参加させるなんて……!」
俺も言葉に詰まった。
いくらなんでも、戦争を終わらせろというのはスケールが大きすぎる。
しかも相手は将軍だ。下手に断れば、ここから生きて出られないかもしれない。
その時だった。
「――お任せください」
静寂を破ったのは、カイト兄さんだった。
兄さんは一歩前に出ると、将軍の威圧感にも動じず、冷静な瞳で見返した。
「私に考えがあります。
無益な殺生をせず、かつ確実に敵軍を無力化する方法が」
「ほう?」
将軍が興味深そうに眉を上げる。
「ただし、やり方は我々に一任していただきます。
……楽しみに待っていてください」
兄さんは不敵に微笑んだ。
その自信に満ちた態度に、将軍はニヤリと口角を上げた。
「いいだろう。期限は一週間。
期待しているぞ、未来の共犯者たちよ」
◇◇◇
宿舎に戻った俺たちは、早速作戦会議を開いた。
「引き受けたのはいいけど……どうするんだ、兄さん」
俺は聞いた。
相手は教会派の支援を受けた近代化部隊だ。戦車にドローン、数千の兵士。
まともにやり合えば大惨事になる。
「ヒロ。あれをやる時が来たんじゃないか?」
兄さんが眼鏡をクイッと押し上げた。
その目が怪しく光っている。
「あれ?」
「学校じゃ『被害規模が大きすぎて禁止』にされていた、対電子・魔導機器破壊作戦だ」
「ああ……!」
俺はポンと手を打った。
あったな、そんなの。
「具体的にはどうするんですか?」
ジェンゴが不安そうに聞く。
「理屈はシンプルだ。
ヒロの空間魔法で、雷の精霊イカヅチの『最大出力の雷撃』を圧縮する」
「圧縮……?」
「ああ。ボール状に圧縮した超高密度の雷エネルギーを、敵軍の頭上へ転移させて解放するんだ」
兄さんが説明を続ける。
「雷は電気だ。それが一気に弾ければ、凄まじい電磁波と魔力の嵐が発生する。
いわゆる『EMP(電磁パルス)』に近い現象だ」
「……!」
ジェンゴが息を呑んだ。
「これを食らえば、敵のアンテナ、通信機器、戦車の制御チップ、ドローンの回路……電気で動く精密機器は全て一瞬で焼き切れる」
「敵は通信も移動手段も、照準システムも失う。
ただの鉄屑の山の中で、呆然と立ち尽くすしかなくなる」
「名付けて『静寂の雷』作戦だ。
これなら、誰も殺さずに軍隊を機能不全にできる」
俺が得意げに言うと、ジェンゴがわなわなと震え出した。
怖がらせたか? と思ったが、違った。
彼の瞳は、感動で潤んでいた。
「すごい……! すごいですヒロ君、カイトさん!」
ジェンゴが身を乗り出した。
「人を傷つけずに、兵器だけを止める兵器……!
そんな発想、僕にはありませんでした!」
「まあ、俺たちも実戦でやるのは初めてだけどな」
「僕にも協力させてください!」
ジェンゴが熱っぽく言った。
「その『圧縮雷撃』……理論は分かりました。
なら、それを再現する魔道具を作って、この国に残していきませんか?」
「魔道具?」
「はい! 今回はヒロ君たちがやりますが、僕がいなくなった後も、その魔道具があればゼノビアは侵略されません。
将軍への、最高の置き土産になるはずです!」
なるほど。
それがあれば、将軍も安心してジェンゴを送り出せるし、国を守る盾になる。
「いいな、それ。乗った!」
「面白そうだ。俺も設計を手伝うぞ」
こうして、最強の布陣が出来上がった。
動力と空間制御の俺。
理論構築のカイト兄さん。
そして、筐体と回路創造のジェンゴ。
俺たちはガッチリと手を組んだ。
戦争を終わらせるための、共同作業の始まりだ。




