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第108話 未知への招待状

 数日が経過した。

 俺と兄さんは、連日のように軍事基地の地下、ジェンゴの工房に入り浸っていた。

 表向きは「技術交流」だが、実際は同じ歳頃の男子が集まって遊んでいるようなものだ。


「……なるほど。この合金の配合、もう少しレアメタルを増やせば伝導率が上がりますね」

「だよな! でもそれだと強度が落ちるんだよ」

「そこは分子配列をハニカム構造にすれば補えますよ」


 兄さんとジェンゴは、マニアックな技術トークで盛り上がっている。

 ジェンゴは本当に楽しそうだ。今までこんな風に、対等に趣味の話ができる相手がいなかったのだろう。


「そうだ、カイトさん。

 このレールガン、僕が作り直してみてもいいですか?」


 ジェンゴが兄さんの愛機を見て言った。


「えっ、いいのか?」


「はい。今の理論を組み込めば、もっと最適化できます」


 ジェンゴがレールガンを受け取り、手をかざす。

 淡い光が包み込み――。

 次の瞬間、そこにあったのは別物だった。

 無骨な鉄塊だったレールガンが、流線型を描く洗練された美しいフォルムへと生まれ変わっていた。


「すげぇ……!」


 兄さんが震える手でそれを受け取る。


「軽い……それに、魔力回路が完全に一体化している。これなら魔力消費も半分以下で済むぞ」

「デザインも少し現代的にしてみました。どうですか?」

「最高だ! ありがとうジェンゴ!」


 二人がキャッキャと喜んでいる。

 俺も負けていられないな。


「じゃあ俺も、友達を紹介しようかな」


 俺は虚空に指を走らせた。


「出てこい、イカヅチ」


 バリバリッ!

 紫電と共に現れたのは、黄金の体毛を持つ雷獣――雷の精霊イカヅチだ。

 普段は大型犬サイズに抑えているが、その瞳には誇り高き王者の風格が宿っている。


『グルルッ……呼んだか、ヒロよ』


「うわぁ……! これが、精霊……!」


 ジェンゴが目を輝かせて近づく。

 イカヅチは鋭い眼光でジェンゴを見据えた。


『……ほう。奇妙な力を持つ人間だな』


 イカヅチは鼻を鳴らし、ジェンゴの匂いを嗅ぐと、敵意がないと判断したのか、触れることを許すように静かにその場に座った。

 ジェンゴがおっかなびっくりその金色の毛並みに触れる。


「温かい……。本当に生きているんですね」


 ジェンゴが寂しげに呟いた。


「すごいなぁ。僕には、命あるものは創れませんから」


「そうなの?」


「はい。物質としての体は作れても、そこに魂が宿らないんです。ただの動かない肉人形にしかならない。

 食べ物もそうです。見た目はリンゴでも、味のない有機物の塊にしかなりません」


 神のごとく権能を持つ彼でも、生命の創造という領域には踏み込めないらしい。

 それでも十分すぎるほど万能だが、彼にとってはそれがコンプレックスなのだろう。


 そんな穏やかな時間は、無機質なノック音によって破られた。


「ジェンゴ。緊急発注だ」


 入ってきたのは軍の将校だった。


「国境の戦線が動いた。歩兵用の小銃5000丁、明朝までに揃えろ」


 ジェンゴの表情から、さっきまでの笑顔が消えた。


「……はい。直ちに」


 彼はイカヅチから離れ、作業台へと向かった。

 その背中は小さく見え、瞳からは光が失われていた。


 カッ……カッ……。


 光るたびに、真新しい自動小銃が積み上がっていく。

 それは魔法というより、工場のライン作業を見ているようだった。

 俺たちは邪魔をしてはいけないと、静かに部屋を出た。


◇◇◇


 夕方。

 作業を終えたジェンゴが、ふらふらと工房から出てきた。

 俺たちは廊下のベンチで彼を待っていた。


「ジェンゴ」

「あ、ヒロ君……まだいたんですか」


 ジェンゴはヘトヘトだった。

 肉体的な疲れというより、魂が摩耗している顔だ。


「辛くないのか? そんなに心をすり減らしてまで」


 俺は単刀直入に聞いた。


「……人を殺す道具を作るのは、辛いです。

 でも、僕がやらないといけないんです」


 ジェンゴは力なく笑った。


「僕の故郷は、ここから遠く離れた貧しい村で……。

 僕がここで兵器を作り続ける対価として、軍が村に水や食料を支援してくれているんです。

 僕が逃げたり、作るのを辞めれば……村のみんなは干上がって死んでしまう」


 人質、か。

 軍事国家らしい、卑劣だが確実な縛り方だ。


「……なぁ、ジェンゴ」


 俺は彼の隣に座った。


「兵器のコピーなんて、お前じゃなくてもできる。

 性能は落ちるかもしれないけど、工場を稼働させれば誰だって作れるものだ。

 お前のその才能は、そんなことのためにあるんじゃないと思う」


「でも……」


「未知への挑戦は、きっとお前にしかできない。

 もっとワクワクすることを、一緒にやらないか?」


「未知への……挑戦?」


 ジェンゴが顔を上げた。


「俺たちが追いかけてる『デミウルゴス・システム』。

 この世界に、平行世界群を創った神がいるんだ」


「平行世界……! そんなものを創った神がいるってことですか?」


「ああ。

 神が作ったとはいえ、それは『システム』だ。

 作られたものなら、その逆――分解や解析、改造だってできると思わないか?」


 ジェンゴが息を呑んだ。

 神の御業を、技術的に解析する。

 それは技術者として、この上なく好奇心を刺激される難題だ。


「……神のシステムを、乗っ取る……」


 ジェンゴの瞳に、昼間のような強い光が戻った。


「すごい……。

 僕も……そんな研究をする生き方がいい! やってみたいです!」


 彼の魂が叫んでいた。

 兵器を作る機械ではなく、未知に挑む探究者でありたいと。


 だが、すぐにその光が陰る。


「でも……村が……」


 やはり、そこがネックか。

 俺はニカッと笑って、彼の背中をバンと叩いた。


「村のことなら心配するな。

 それなら、こっちで何とかできるかもしれない」


「え?」


「お前が心置きなくこっち(日本)に来れるよう、全部ひっくり返してやるよ。

 俺たちに任せとけ」


 俺は自信たっぷりに請け負った。

 さて、最強のパトロン・薬師寺先輩の出番だな。

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