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第106話 創造の魔人

 翌日。

 俺とカイト兄さんは、昨日の少尉の案内で軍事施設の見学をしていた。


「急げ! 第二班は弾薬の搬入だ!」

「魔導戦車の整備を終わらせろ! いつ出撃命令が出てもいいようにな!」


 施設内は異様な熱気に包まれていた。

 兵士たちが怒号を飛ばし、物資を満載したトラックが行き交う。


「……随分と慌ただしいですね」


「ああ。国境付近で、教会派の連合軍が動きを見せている」


 少尉が険しい顔で答えた。


「小競り合いは日常茶飯事だが、今回は規模が大きい。

 補給ラインを確保し、前線へ兵器を送り続けなければならないんだ」


 なるほど、ここは戦時下の国なのだと思い知らされる。

 俺は周囲の喧騒に紛れて、ポケットの中のヒューイに合図を送った。

 (今だ、頼んだぞ)

 (任せとけ)

 一陣の風が吹き、俺の元から離れていった。


◇◇◇


 昼食の時間。

 食堂でレーション(戦闘糧食)を食べていると、ヒューイが戻ってきた。

 周囲には結界を張り、会話が漏れないようにしている。


『戻ったぞ、ヒロ。

 ……いたぜ。とんでもねぇのが』


 ヒューイが興奮気味に報告してきた。


『この基地の地下にある、ドデカイ工場だ。

 隠されている様子もなかった。そいつは工場のど真ん中で、堂々と作業してやがった』


「どんな魔法だった?」


『魔法っつーか、あれは反則だ』


 ヒューイが呆れたように肩をすくめる。


『別のやつが設計図を広げるだろ?

 そいつがそれをチラッと見て頷く。で、手をかざすと……ピカッと光って、次の瞬間にはもう完成してるんだよ』


「……は?」


『人間サイズのでかいミサイルだ。

 材料の加工とか、組み上げとか、そういう工程が一切ねぇ。

 光ったと思ったら、そこにある。

 あれが「対人用ミサイル」ってやつか? 次から次へと量産してやがった』


「マジかよ……」


 俺と兄さんは顔を見合わせた。

 「創造魔法」。話には聞いていたが、そこまでデタラメだとは。

 材料工学も物理法則も無視して、結果だけを出力している。


『ま、俺はヒロの派手な爆縮の方が好きだけどな!

 あんな味気ない魔法、見てて面白くねぇよ』


「ありがとうよ。

 ……そいつが、ジェンゴだな」


 ターゲットは確定した。

 そこで俺は、以前からの懸念事項を確認することにした。


「おいヒューイ。そいつのガタイはどうだった!?

 ムッキムキだったか!?」


 兄さんが「それ今重要か?」という顔をしたが、大事だ。イメージトレーニングに関わる。


『おう! ムッキムキだったぞ!

 丸太みたいな腕してて、首なんか俺の胴体より太かったぜ!』


「よしきた! ほら見ろ兄さん、俺の想像通りだ!」


 俺はガッツポーズをした。

 やはり「ジェンゴ」なんて名前の奴は、プロレスラーみたいな巨漢に決まっているんだ。

 ……まあ、ヒューイが話を盛っている可能性も捨てきれないが、今は信じておこう。


◇◇◇


 午後。

 俺たちは軍司令部の最上階へと呼び出された。

 重厚な扉の前には武装した衛兵が立ち、ピリピリとした空気が漂っている。


「入れ。将軍がお待ちだ」


 通された部屋は、広大な執務室だった。

 その最奥。玉座のような椅子に、一人の男が座っていた。


「…………」


 巨大な男だった。

 物理的な大きさもそうだが、放つ「覇気」が違う。

 あのラシード大佐でさえ、直立不動で控えているほどだ。

 ゼノビア統治国、最高指導者――ザッハーク将軍。


「よく来た、日本の少年よ」


 重低音が腹に響く。

 将軍は鋭い眼光で俺を射抜いた。


「ラシードから聞いている。

 教会が悪魔だの魔王だのと呼んで恐れている少年……その詳細を、本人の口から聞かせてもらおうか」


 試されている。

 俺は居住まいを正した。


「……分かりました。

 どこから話しましょうか。まずは一度目の襲撃、聖女アリスの件から」


 俺は淡々と語り始めた。


「ヴァイスラントの聖女アリスが、軍を率いて学校に押し寄せてきました。

 彼女は『光の天使』とかいうハリボテを召喚しましたが……俺の契約精霊、雷の精霊イカヅチの特大の落雷で破壊し、完膚なきまでに力の差を見せつけ追い返しました」


 将軍がほう、と眉を動かす。


「その後、俺の元にヴァイスラントへの招集命令のような脅迫状が大量に届きました。

 現地に行ってみると、そこでは精霊が無理やり囚われ、兵器として利用されていました」


 俺は拳を握った。


「俺は精霊の友達です。それが許せなかった。

 だからすぐに精霊を解放し、力を解き放ちました。

 ……その結果、教会本部ごと国の一部が水に流れてしまいましたが」


「ククッ……」


 大佐が堪えきれずに吹き出した。

 将軍も口元を歪める。


「そして最後は、教皇です。

 彼は太陽神を降臨させて、俺を抹殺しようとしました。

 ですが……太陽神は『調子に乗るな』と、その教皇を…焼き殺しました」


「自滅、か」


「はい。俺は殺していませんし、何もしていません。

 ただ、太陽神からは『お前のおかげで信者の信仰心が高まった』と、変に気に入られまして……。

 その日から監視されています」


 俺の話が終わると、部屋に沈黙が落ちた。

 常識外れもいいところだ。


「……だが、今はその監視からも外れている。

 俺には今、別の神がついていますから」


「別の神?」


「はい。月の神でもあり、夜の神でもある『ツクヨミ』。

 彼のおかげで、今は太陽神の目をごまかせています」


 その瞬間だった。


「待て!!」


 同席していた若い将校が叫んだ。

 彼は血相を変えて、腰の拳銃に手をかけた。


「今、お前に『神がついている』と言ったな!

 貴様、さては神側の人間か!?」


 室内の空気が凍りついた。

 ゼノビアは反・神権国家だ。神の手先と判断されれば、即座に処刑対象になる。

 兵士たちが武器を構える音がした。


 だが、俺は動じずに将校を見た。


「早とちりしないでくださいよ」


「黙れ! 神を使役するなど、教会と同じ穴のムジナだ!」


「……動ずるな」


 低い、絶対的な声が響いた。

 ザッハーク将軍の一言で、騒然としていた場が静まり返る。


「動ずるなと言っている。ザコと思われるぞ」


「は、はいっ……申し訳ありません!」


 将校が青ざめて下がる。

 将軍は俺をじっと見つめた。


「いい神もいた、ということだろう?」


「……ええ。まあ、捻くれてはいますが、話の分かる神です」


「それだけだ」


 将軍は鷹揚に頷いた。


「もしコヤツが神側のスパイなら、こんな事細かに教会と戦ってきた報告をすると思うか?

 それに、神を使役し、利用しているのなら……それは我々の目指す『人の勝利』となんら変わらん」


 将軍の論理に、将校たちは言葉を失った。

 神を崇めるのではなく、道具として利用するなら良し。

 なんと合理的で、傲慢な思想か。


「気に入ったぞ、一之瀬ヒロ。

 貴様は特異点だ。我々は貴様を利用するし、貴様も我々を利用すればいい」


 将軍はニヤリと笑った。そしてふと、何かを思い出したように尋ねてきた。


「ところで、貴様。歳はいくつだ?」


「……今年、18になります」


 俺が答えると、将軍はさらに深く笑みを濃くした。


「ほう。ジェンゴと同じか」


「……!」


 俺は目を見開いた。

 まさか、最高指導者の口から、その名前が出るとは。


「運命的ななにかがあるのやもしれんな」


 将軍は意味深に呟き、俺を見据えた。

 その言葉は、俺たちがここに来た真の目的を見透かしているようで――一瞬、背筋が冷たくなった。

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