表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/137

第103話 砂漠の洗礼と風の穿孔

「……砂漠かぁ」


 3学期の放課後。

 俺は研究室の窓から冬空を見上げ、少しだけ憂鬱なため息をついた。


「暑いのは嫌だなぁ。日焼けもするし、喉も乾くし……」


「あら一之瀬。

 あなたの場合、暑さ対策よりも先に気をつけないといけないことがあるでしょう?」


 エレノア先生が、書類から顔を上げずに言った。


「え? なんですか?

 水のことなら心配いりませんよ。シラユキもいますし」


「いいえ。私が言っているのは、あなたの主力兵器……空間魔法による『爆縮』のことよ」


 先生はペンを置き、真剣な眼差しを向けた。


「日本とゼノビアの砂漠地帯では、湿度が全く違う。

 あちらは極端に乾燥しているわ。空気中の水分量が圧倒的に少ないの」


 先生がホワイトボードに図を描き始める。


「つまり、同じ質量の『水球』を作ろうとしたら、日本の約4倍の体積の空気を圧縮する必要がある。

 ……4倍の空気を断熱圧縮したら、発生する熱エネルギーがどうなるか分かるわよね?」


「単純計算で4倍……いや、それ以上か」


「そう。いつもの感覚で撃とうとすれば、制御しきれないで自爆するわよ」


「……なるほど」


 俺はごくりと唾を飲んだ。

 ただでさえミサイル級の威力の魔法だ。それが暴走したら、シャレにならない被害が出る。


「危ないから日本で練習しておきなさい。

 広範囲の空気を圧縮し、過剰に発生した熱エネルギーだけを地球に逃がして調整するのよ」


「了解です」


◇◇◇


 屋外演習場。

 周囲に人がいないことを確認し、俺は荒野のようなフィールドに立った。


「よし、やってみるか」


 普段なら、『教室一つ分』くらいの空気を圧縮して、『サッカーボール大』の水球を作る。

 だが、今回はその4倍だ。


「イメージは……『体育館全体』の空気を圧縮!」


 俺は意識を拡張し、広大な範囲の空気を掌握した。

 ギチチチチッ……!

 空間がきしむ音と共に、空気が一点に収束していく。

 目指すサイズは『デカめのスイカ』くらいだ。


 ブォォォォン……!

 目の前の空間が赤熱し、プラズマのような発光現象が起きる。


「熱っ! ……よし、この熱を逃がす!」


 俺は足の裏から根を生やすイメージで、魔力回路を地面に接続した。

 圧縮で生じた莫大な余剰エネルギーを、アース線のように地球へと流していく。


 ゴーッ……という音と共に、熱が引いていく。


「ふぅ……。よし、だいぶ抜けたな。

 これくらいエネルギーを抜けば、もう爆発はしないだろ」


 赤熱していた光が収まり、安定したスイカ大の水球が完成したように見えた。

 俺は一応念のために防御壁を張りつつ、圧縮を解放(発射)した。


「いけっ!」


 ――カッ!!


 瞬間。

 俺の視界が真っ白に染まった。


ドゴオオオオォォォォォンッ!!!!


 鼓膜をつんざく爆音。

 俺の防御壁が一瞬でガラスのように砕け散る。

 凄まじい衝撃波が演習場の地面をえぐり、砂塵がキノコ雲のように舞い上がった。


 バリンッ!!!

 バリンッ!!


「…………」


 やがて煙が晴れると、そこには巨大なクレーターと、黒く焦げた地面が残っていた。

 水弾による破壊というよりは、熱線による爆撃跡だ。


 バシューーー……。

 焼け焦げた地面から、白い蒸気が上がっている。


「……危なかった。ちょっと強すぎた」


 俺は煤けた顔で呟いた。

 エネルギー調整、甘かった。

 「これくらいでいいだろ」という油断が、危うく自分ごと消し飛ばすところだった。


「……向こうに行くまでに、完璧に制御できるようにしないと。

 下手したら国際問題だぞ、これ」


 俺は冷や汗を拭った。


◇◇◇


 一方その頃。

 地下にあるカイトの研究室。


 兄さんの机の上には、以前手に入れた「ゼノビア製魔道具」が分解されていた。


「……やはり、見事な設計だ」


 無駄のない魔力回路。洗練された機構。

 これを生産したかもしれないジェンゴという人物、そしてゼノビアの技術力には驚かされる。


「だが、負けていられないな」


 兄さんは視線を、愛機であるレールガンへと移した。

 技術者としての対抗心が、静かに燃え上がる。


「俺の相棒も、もっと進化させなければ」


 課題は、同硬度のタングステン装甲に対する貫通力不足。

 物理的な衝突だけでは、相打ちになって弾かれてしまう。


「回転だ。

 魔道具のように、魔法の補助を組み込む」


 兄さんはレールガンを構えた。

 弾丸の周囲に、風魔法による高密度の旋風を纏わせる。

 風の刃で、ドリルの効果を持たせるイメージだ。


「いけ、相棒!」


 トリガーを引く。


 キィィィィィィンッ!!!!


 今までのような「ドンッ」という破裂音ではない。

 まるでジェットエンジンのタービンが高速回転するような、鋭い高周波音が響き渡った。


 一瞬の閃光。

 弾丸は目にも止まらぬ速さでターゲットを捉えた。


 ズウゥン……!


 重たい着弾音。

 ターゲットの分厚いタングステン板には、向こう側が見えるほどの綺麗な穴が空いていた。

 そして、その穴の内側には――。

 高熱で溶けた跡ではなく、まるで精密機械で削り取ったような、鋭利な「螺旋状の溝(ライフリング痕)」が刻まれていた。


「成功だ。

 風の被膜による超高速回転穿孔。

 これなら、最強の盾だろうと紙切れのようにぶち抜ける」


 兄さんは満足げにレールガンを撫でた。


「もっと輝かせてやるからな、相棒」


 最強の矛を手に入れた兄と、エネルギー制御に課題を残した弟。

 それぞれの準備は、着々と進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ