紡がれる想い
ジュリアは、スカーレットの顔面に二発の打撃を入れ、脹脛にもう一発の蹴りを打ち込んだ。それから、ジュリアは徹底的に攻撃を当てては距離を取る、ヒット・アンド・アウェイを繰り返し、一方的な戦いを見せる。
誰が見ても、勝者は明白だ。しかし、ただ言えることは……プロヴィデンスが終わるまで、スカーレットは一度も倒れることなく、前進をやめなかった。そして、アイアンコールも鳴りやまなかった。
「プロヴィデンス・エンド!!」
そして、裁定者が戦いの終わりを告げて、お互いが動きを止めた。
「判定に入ります」
決着は付かず、勝敗はプロヴィデンスを見守っていた審査員たちに委ねられる。同時に、コノスフィアのロックが外れ、スコットたちがジュリアの方へ駆け付けた。
「ジュリア、大丈夫なのか!?」
スコットは、もちろん頭から落とされたことを言っているのだが、ジュリアは平然としている。
「ええ、約束通り勝ってみせましたわ」
「驚いた……。あんな技を受けて平気なんて」
目を丸くするスコットを見て、ジュリアは自分の身に何があったのか思い返す。
「あ、あの技のことですね。ええ、鍛え抜かれた私の体であれば、あの程度は大したことはありません」
「むぅ……。あれを見せられては、さすがの一言に尽きるな」
誇らしげに手を腰に当てるジュリアに、これまでとは違った尊敬の視線を見せるスコットだったが、裁定者から「中央に!」と指示があった。ジュリアとスカーレットがコノスフィアの中央に立つと、プロヴィデンス中とはまた違った緊張感が流れる。
「判定の結果をお伝えします」
拡声魔法を使った声が、淡々と勝敗を告げる。
「ジャッジ・ロングショー、赤! コウヅキ!」
一人目がジュリアに勝ちを付けると同時に、歓声が起こった。審査員は合計三人。あと一人でもジュリアに勝ちを付ければ勝利となるが……。青、青と会場に声が飛び交う中、裁定者が続けて判定結果を読み上げる。
「ジャッジ・ラッキーフィー、赤! コウヅキ!」
わっ、と再び歓声の波が起こった後、裁定者は最後の審査員もジュリアに勝ちを付けたと告げるのだった。
「よって、勝者……ジュリア・コウヅキ!!」
裁定者によって、ジュリアの左手が高々と上げられた。賞賛の声を浴びながら、ジュリアが視線を横に向けると、微笑みを浮かべるスカーレットの顔が。二人が再び向き合うとスカーレットの方から声をかけてきた。
「とんでもないキックだった。正直、もう歩けないや」
「いえ、貴方のグロリアス魂こそ、とんでもないものでしたわ」
しかし、スカーレットは首を横に振った。
「グロリアスが最強だって証明するってファンに約束したのに……何もできなかった。私は、ファンを裏切った最低の女だ」
「……そうでしょうか? この声が聞こえないのですか?」
ジュリアが人差し指を立て、スカーレットはそれに促されるように耳を澄ませると……。
「アイアン! アイアン!!」
「グロリアスの意地を見せてくれて、ありがとう!」
「やっぱりグロリアスは最強だ! お前は、最強の娘だ!!」
その歓声は、勝利者を称えるものでない。負けてもなお、アイアンとグロリアスを称えるものばかりだった。
「最後は貴方のマイクで締めたらいかがです? 会場はさらに盛り上がると思いますよ」
そう言い残し、ジュリアはそよ風のようにコノスフィアから去ってしまった。
コノスフィアに残されたスカーレットだが、彼女には永遠と続くような「アイアン!」という声が浴びせられる。その中には喜びが、その中には悔しさも。だけど、すべては感動の一字に集約されるようだった。
「ありがとう、アイアン!」
「最強だ!」
負けた自分に繰り返しかけられる温かい言葉に、涙が零れそうだった。振り返ると、同じように涙ぐんだクレインが頷く。ああ、泣いて良いんだ。ここまで頑張ったのだから。
でも……泣くのは、グロリアスターじゃない。スカーレットはすべてを飲み込み、裁定者が作った拡声魔法を口元へ持って行った。
「私は……勝てなかった」
スカーレットの声に会場が静まり返る。誰もが彼女の発言を待っているのだ。それに応えるよう、スカーレットは声を張る。
「だがな、グロリアスは倒れなかった! 負けちゃいない!!」
その宣言に誰もが声を上げる。
「なぜ私が倒れなかったか……。それは、グロリアスのスクエアで、もっと激しい戦いに、日々挑んでいるからだ! みんな、AFGの会場にきてくれ! もっと凄いものを、もっと熱い戦いを見せてやる!!」
スカーレットはファンの熱を感じながら、自分のやってきたことは、父のやってきたことは、間違ってなかったのだと確信する。だから、最後はこれで締めよう。
「今回は勝てなかったけど! いつもの行くぞー!」
会場のみんなも分かっている。だから、胸を張ってスカーレットは叫んだ。
「イチッ、ニィッ、サン!!」
「「アイアーン!!」」
会場が一つになった。
それは、彼女が幼いころ、父親の戦いを見た後に感じたものと、同じ空気だった。




