カーム
体育館の外に設置された、マナ・スクリーンにはコノスフィアの傍らに設置された椅子に座る、実況者と解説者が映し出された。
「さて、ファーストプロヴィデンスが終わりましたが、リバー・バムさん。ここまで御覧いただいて、いかがでしょうか」
プロヴィデンスの間に、一分のカームと呼ばれる時間が挟まれる。その間に、この二人のコメントがマナ・スクリーンに流されるのだった。
「いやー、驚きましたね」
「と、言いますと?」
「まずはジュリア・コウヅキです。正直、なんらかのプッシュがあってプロヴィデンスに出場したとばかり思っていましたが、蹴りの攻撃が素晴らしかったですね。あと、とにかくスピードが速い。スカーレットは彼女の攻撃についてこれなかったように見えました」
「蹴りとパンチの打ち分けも上手でしたね。次にどこから攻撃が飛んでくるか分からず、スカーレットはやりにくかったのではないでしょうか?」
「そうですね。ただ、スカーレットの方も驚きました。あれだけ蹴られても、ぜんぜん効いてませんでしたからね」
「はい。蹴りで足が流れる瞬間がありましたが、最後はもらっても突進していましたね」
「投げられた後は、やはりフィジカルの差が出ているのか、ジュリア・コウヅキは何もできませんでしたから、まだまだスカーレットの勝利もあるかもしれません」
「まさに、グロリアス魂といったところを見たような気がします」
「グロリアスは相手の攻撃を受け切りますからね! あれをやられたら、セカンド・プロヴィデンスで戦いにくいのはジュリア・コウヅキの方かもしれません」
「下手に攻撃できなくなりますからね。さぁ、間もなくセカンド・プロヴィデンスのゴングです!」
そのころ、スカーレットはクレインが持ってきた丸椅子に座ることなく、セカンド・プロヴィデンスの開始を待っていた。
「足、大丈夫か??」
左足の外側は、明らかに色が変わっている。どれだけの痛みが彼女の足にまとわりついているのか、クレインには想像もできなかった。しかし、スカーレットは答える。
「この程度の痛みでグロリアスの負けを認めるわけにはいかない。大丈夫、ちゃんと勝つから」
「……ああ、この調子なら絶対にスカーレットが勝つよ!」
スカーレットは小さく頷くと、闘気が抑えきれないと言わんばかりに立ち上がり、コノスフィアの中央へ歩き出す。すると、それを見ていた客席が、一気に沸き上がった。
「アイアン! アイアン!!」
答えるように右の拳を突き上げるスカーレット。これにより、会場はさらに熱気が荒れ狂うのだった。
そして、ヒスクリフ陣営では。
「ジュリア、最後のパンチは大丈夫だったか!?」
青ざめたスコットに笑顔を見せるジュリアだが、決して余裕があるわけではなかった。
「やはり、恐ろしいパワーでした。とにかく捕まらないよう、立ち回るしかありませんわ」
「しかし、圧倒的に君が押していた。このまま、上手く距離を取りながら、蹴り続けるんだ!」
「ええ、任せてください。向こうの足は止まっています。あと数発も入れれば、勝ちは確実ですから」
二人は勝ちが間近であると話すが、そのやり取りを眺めるアーサーの表情はどこか曇っているようだ。
「アーサー先輩。何かアドバイスはありますか?」
その表情を読み取ったのか、ジュリアから声をかけると、アーサーは躊躇いがちに言った。
「ジュリア嬢なら気付いていると思うが……ファースト・プロヴィデンスの終了間近、アイアン・スカーレットは心の壁を一枚突き破ったような印象だった。一つ間違えたら、ひっくり返されてしまうかもしれない」
「……ええ、そうですわね」
まだカームの時間は続くはずだった。しかし、青コーナーのスカーレットがコノスフィアの中央まで進むと、高々と拳を突き上げるではないか。さらに、会場が沸き上がると、ジュリアには妙なプレッシャーが降りかかった。
「セコンドアウト!」
裁定者の指示があり、スコットたちはコノスフィアから出なければならなかった。
「ジュリア、熱くなっちゃダメだ。君のペースでやれば必ず勝てるんだから」
スコットの声に、ジュリアは頷いただろうか。不安で堪らなかったが、スコットはコノスフィアを後にするのだった。
再び、コノスフィアの中には一人の裁定者と二人のロゼスのみが残される。ジュリアは目の前に立つスカーレットを見る。あれだけ足に蹴りを入れてやったはずが、姿勢に偏りがない。その表情も淀みないように感じられた。
そんなことはない、と思うが……まさか足に痛みは感じていないのだろうか。だとしたら、またも足を狙った瞬間、飛び込んでくることも考えられる。戦いは、思った以上に難しくなりそうだ。
どうするべきか……。ジュリアの考えがまとまる前に、裁定者が右手を高々と上げる。
「セカンド・プロヴィデンス……エンゲージ!」
そして、プロビデンスが再開されるのだった。




