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ファースト・プロヴィデンス②

 ファースト・プロヴィデンスも後半に入ったところだが、実況者と解説者は大興奮だった。



「ジュリア・コウヅキ、打撃のテクニックが素晴らしいですね!」


「ただ、スカーレットの方も退がってませんよ!」



 彼らの言う通り、ジュリアの方からじりじりと圧力をかける。が、スカーレットの方は一歩たりとも退く様子はなかった。



 距離感を見ながら、ジュリアは素早い蹴りを放つ。パチンッ、とスカーレットの脹脛を叩くと、確かな手応えがあった。しかし、直後にスカーレットが突っ込んでくる。その様子を見て、解説者が叫んだ。



「今のカーフ、絶対に効いたはずなのに、凄い! アイアンが前に出たー!!」



 脹脛を横から蹴り付ける一撃は、人体の構造上、我慢ならない痛みが走るものだ。しかも、直撃を受けたのならば、すぐに動くことなど不可能なはずだが、スカーレットはダメージがなかったように動いたのである。



「アイアン・スカーレット、さらに行くか!?」



 実況者はスカーレットの勢いを期待したようだが、ジュリアは退()がりながら、左の拳を放つ。それは、スカーレットの頬に軽く当たったが、彼女はそれだけで動きを止めてしまった。



「行きませんでしたね。やはり、プロヴィデンスの戦いに適応できていないのでしょうか」



 解説者の見立てはジュリアと同じだった。だとしたら、と彼女は考える。


 スカーレットの攻略は、距離を取りつつパンチで牽制しながら、チャンスを見つけて足を蹴り付け、追いかけてこられたら、顔面を狙って拳による強打を当てればいい。


 どれだけ頑丈な体を持っていても、脹脛を何発も蹴られれば、足はまともに動かなくなるはず。相手の心が折れるか、時間切れで判定勝ちか。どっちにしても、勝利は固いと思われた。



「そこです!」



 フェイントを見せながら距離を詰めたところで、思いっきり脹脛を蹴り付ける。またも確かな手応えがあり、直後にスカーレットが左右のフックを振り回してきたが、ジュリアにしてみればスローな動きでしかない。


 体を反らして躱しつつ、左の拳をすぐに返す。これもスカーレットの鼻っ柱を打ち、ジュリアが離れたころにはゆっくりと血が流れた。



「まだ続けます? 私のスピードに付いていけないことは、十分わかったでしょう?」



 挑発に対し、スカーレットは無言で鼻血を拭うだけ。これには、ジュリアも不吉な予感を抱かずにはいられなかった。


 今度はスカーレットが先に動く。滅茶苦茶なパンチの連打だ。ジュリアは頭や上半身を左右上下に動かす、ボディワークのみで躱し、一瞬の隙を狙って膝蹴りを放った。


 それは確かにスカーレットの腹部に突き刺さり、ジュリアは勝ちを確信する。



「うわあぁぁぁーーー!!」


 しかし、スカーレットが叫び声をあげると同時に、突進してきた。


「しまっ――!!」



 ジュリアは焦り……いや、恐怖を感じながら、必死にスカーレットから距離を取る。追いかけてくるスカーレットは何度も手を伸ばし、ジュリアを捕まえよとしたが、何とか逃れ切る。そんな攻防に解説者も驚嘆していた。



「今の膝蹴り(テンカオ)、完全に決まっていたんですけどね。普通なら沈んでもおかしくないタイミングだったのに、アイアンは前に出た。とんでもなく屈強なフィジカルとメンタルですよ!」



 ジュリアは、敵のダメージを見定めようと、スカーレットを凝視するが、彼女の表情に痛みと思われるものはない。それどころか、わずかに笑みを浮かべたようにすら見えた。



「この程度で……グロリアスは折れない」


 スカーレットは言う。


「この程度で、グロリアスは負けない!」



 彼女の声が聞こえたはずはない。が、大きな歓声が会場に響き渡った。ここで勢い付かせるわけにはいかないだろう。


 ジュリアはパンチのフェイントを見せた後、またもスカーレットの足を蹴り付ける。すると、蹴りの威力によってスカーレットの足が流れた。どうやら、踏ん張りが効かなくなっているらしい。


 かと言って、ジュリアは先程のように油断することなく、しっかりと距離を取ってから次の攻撃に備える。それを見た解説者は、決着の瞬間は近いと予想したようだ。



「頑丈なスカーレットですが、あと、二回か三回……カーフが当たれば動けなくなるはずですよ。いえ、普通なら動けません」



 それは正しいのだろう。スカーレットの足は止まり、自由に動かせないようだ。だとしたら、後はジュリアのタイミングでダメージを重ね、フィニッシュを狙うのみ。そう思われたが……。



「我慢できるかしら!?」



 再びジュリアの足を狙った蹴りの一撃。またもスカーレットの脹脛を叩き、彼女の心を折ると思われたが、誰もがまさかの瞬間を見る。



「うおぉぉぉーーー!!」



 スカーレットは脹脛に蹴りを受けると同時に、飛び出したのである。普通であれば、痛みで動けないはずだ。普通であれば、恐怖で動けないはずだ。しかし、スカーレットは蹴りを受けながらも踏み込み、ついにジュリアを捕まえた。



「まさか……!!」



 驚愕するジュリアが一瞬で押し倒される。押し返すことはもちろん、倒れぬよう粘ることすら許されぬ、圧倒的なフィジカルによる突進力だ。



「逃げろ、ジュリア!!」



 スコットの声に反応し、ジュリアは立ち上がろうとするが、スカーレットに抑え付けられ、それは許されない。とてつもないパワーは、巨大な岩に乗られたかのようだ。


 そして、ジュリアは見る。

 拳を振り上げたスカーレットの姿を。



「これが、グロリアスだぁぁぁーーー!!」



 打ち下ろされたハンマーのような拳。なんとか腕で顔面を守ったが、たった一発で潰されてしまいそうだ。さらに、振り上げられた拳に、ジュリアの血の気が引いて行く。



 だが、その瞬間にゴングが鳴らされた。ファースト・プロヴィデンス終了したのである。

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