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ファースト・プロヴィデンス①

 ゴングが鳴り、先に動いたのはジュリアだった。トンッ、と飛び出すように中央へ移動し、スカーレットの様子を見ながらステップを踏み、左右にフェイントを入れた。


 対し、スカーレットは前へ出るジュリアを捕まえようと、大きく両腕を広げる。それは、どう見てもグロリアス的な動きだった。


 わっ、という歓声と同時にジュリアが踏み込みつつ、低い軌道の蹴りを放つ。それはスカーレットの脹脛(ふくらはぎ)を横から叩くが、彼女はダメージを受けたような反応を見せない。それどころか、ジュリアの蹴り終わりを狙うようにして踏み込んできた。



「遅い!」


 ジュリアは素早いバックステップで距離を取るが、スカーレットが追いかけてくる。


「おおおぉぉぉ!!」



 猛烈な突進。ジュリアは迎撃の拳を繰り出そうとしたが、何を躊躇ったのか、直前でスカーレットの横に回った。



「逃がすかぁ!!」



 スカーレットが振り向きながら、拳を振るう。ジュリアは身を屈めて豪快な一撃を躱すと同時に、コンパクトなパンチを右左と続けて放ってスカーレットのボディを叩く。


 パチンッ、と乾いた音が続いて響いたが、スカーレットはお返しだと言わんばかりに低めのパンチを突き出した。



「砕けろ!!」


「当たりません!!」



 そのパンチは、姿勢を低くしたジュリアの顔面を潰してしまうようだった。が、ジュリアも肩を捻るようにして上半身を捻り、余裕をもって回避すると、またも力強いバックステップで距離を取る。


 射程距離から外れた。

 ジュリアはそう思ったようだが、スカーレットは足を止めず、またも突進するように距離を詰めてくる。


 これにはジュリアも焦りを覚えながら、横へ横へと移動して、やり過ごすしかない。一息吐くような時間が訪れ、実況者がマナ・スクリーンの前で観戦する視聴者に向けて、二人のここまでの動きを説明する。



「手数とスピードで翻弄しているのはジュリア・コウヅキ。しかし、圧力で勝るアイアン・スカーレットという印象ですが、リバーさんはいかがですか?」



 話を振られた解説者が同意する。



「その通りですね。ただ、アイアン・スカーレットの圧力は想像をはるかに上回っています。あの調子で詰められたら、コウヅキは嫌でしょうね」



 解説者が言う通り、ジュリアは、スカーレットの正面に立たないよう、横へステップを踏み続ける。同時に、攻め手を考えていた。突っ込んでくる彼女に、拳を叩き込めば大打撃を与えられるはず。


 しかし、この突進力と分厚い体による圧迫感。もし、パンチで彼女を止められなかった場合は、捕まってしまうかもしれない。近付き過ぎれば、危険。慎重に距離を取りながら、ダメージを与えるしかない、と。



「今なら!」



 隙を狙って、スカーレットの足を蹴り付けようと、一歩踏み込もうとするジュリア。しかし、同時にスカーレットも一歩前に出てきた。それを見て、蹴りを出さずに、横へステップを踏んで距離を取り直すジュリア。その動きを見て、解説者が分析する。



「ジュリア・コウヅキは今のタイミングで蹴りを放っていたら、捕まっていたかもしれないですね。カーフキックは効いているようですが、こだわっていたら危ないかもしれませんよ」



 ただ、逃げてばかりではジャッジに悪い印象を与えてしまう。攻め方を変えるため、ジュリアは足を止め、スカーレットの接近を待った。慎重に近付いてくるスカーレットは、壁が迫るような圧迫感を放ち、さすがのジュリアも逃げ出したくなるが、勝つためにはこのプレッシャーを乗り越えなければならない。



 一歩半程度の距離まで詰まる。同時に、ジュリアは真っ直ぐ右のパンチを放った。それが想定外だったのか、スカーレットは両腕で顔面を守り、ジュリアの拳を阻む。


 固い。ダメージには至らないだろう、とジュリアは内心で苛立ちを覚えるが、次の瞬間、こちらの様子を見ようとガードを下げたスカーレットと目が合う。


 今の目は、と驚きのあまり動きを止めてしまうジュリア。そこに、スカーレットの豪快な右フックが振るわれた。



「うわぁぁぁ!!」



 力任せの一撃だが、当たってしまったら一溜りもない。ジュリアはスカーレットの懐に潜り込むように屈んで、それをやり過ごすと、すぐに横へ移動したが、あと少し遅かったら彼女の腕に挟みこまれていたかもしれない。


 それにしても、彼女の目は……。


 ジュリアは自分の予想を確かめるため、再びフェイントを見せつつ、スカーレットに近付く。今度は奥手のパンチを放つフェイントを見せながら、小さいステップと共に前手の拳を突き出した。威力は出せなかったが、スカーレットの顎が上がるほど、完璧なタイミングの直撃である。



「行ける!」



 ジュリアがさらなるパンチを放つモーションに入ると、スカーレットは両腕で顔面を守った。そこに、ジュリアは左右のボディフックを叩き込んでやる。



「ぐっ……」



 わずかに聞こえるスカーレットの呻き声。だが、次の瞬間には、スカーレットの大ぶりパンチが空を切る。



 やっぱり、間違いなかった。



 距離を取りながら、ジュリアは自分の見立てが当たっていたと確信する。


 スカーレットは……パンチを怖がっている。グロリアスでは相手の顔面に拳で攻撃することはないため、経験がないのだ。


 だとしたら、攻略は難しくない。パンチのフェイントを見せつつ、足に蹴りを打ち込んでやる。そうすれば、すぐにスカーレットは動けなくなるだろう。確実と言える勝ちパターンを見つけたジュリアは、体が軽くなるように感じた。



 ちなみに、ジュリアの分析は……何ひとつ間違っていなかった。スカーレットは固い拳で殴られた経験がほとんどない。ジュリアが繰り出す速い拳を恐れ、必死に顔面を守っていたのである。


 恐れをなしたロゼスは、プロヴィデンスの勝率は著しく落ちるもの。ただ……確実な勝ちパターンを見つけた、というジュリアの見方は大きく間違っていた。


 なぜなら、スカーレットはグロリアスを背負っているのだから。

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