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フェイスオフ!

 アイアン・スカーレットがコノスフィアに足を踏み入れ、拳を高々と上げた瞬間、この日一番の歓声に会場が揺れた。ゆっくりとした動作で、スカーレットがコノスフィアの奥へ進むと同時に、再び体育館は暗転し、裁定者だけが照らされた。



「続きまして、メインゲートより、赤コーナー、ジュリア・コウヅキの入場です!」



 ヒスクリフ学園の学園歌と共にジュリアが入場する。スカーレットが何度も咆哮を上げながら、花道を突き進んだときと違い、ジュリアはこの瞬間を楽しむように、客席へ笑顔を振りまくのだった。そして、ジュリアもコノスフィアに足を踏み入れる。



「それでは、ロゼスと擁立者は中央に!」



 裁定者の指示に従い、ジュリアがスコットたちを引き連れ、コノスフィアの中央へ。もちろん、スカーレットも同じように中央に立った。向き合う二人に歓声が浴びせられる中、ジュリアが挑発的な笑みを浮かべた。



「泣き虫さんがよくコノスフィアに入って来れましたわね。貴方の覚悟は本物かしら?」



 からかうようなジュリアだが、それを正面から受け止めるスカーレットの瞳に、少しの動揺も見られなかった。



「お前の前に立っている私は、ただのロゼスではない」


 それはジュリアの質問の答えにはなっていなかった。しかし、スカーレットは言う。


「グロリアスそのものがお前の前に立っていると知れ」



 覚悟は決まっている。ジュリアがそう認識するには、十分の答えなのかもしれない。実際、ジュリアは満足したような笑みを広げたのだから。


 ヒスクリフ学園、トライアンフ学園の両陣営の間に割って入るように裁定者が立つ。



「我はプロヴィデンスの裁定人として、民を導くアリストスに問う。この戦いを、グロワールの平和を守るためのものとして、自らのロゼスを捧げることを承認するか? アリストス・バルザック!」



 スカーレットの後ろに控える小太りの男は下品な笑みを浮かべて答えた。



「はいはーい。承認しまーす」



 そこには強い意志が感じられず、相対するスコットは目を細めた。この男には負けられない。そう感じたのかもしれない。その気持ちを確かめるように、裁定者が彼の名を呼ぶ。



「アリストス・ヒスクリフ!」


「……承認する!」



 スコットの声を聞いて、スカーレットの擁立者であるガストンは何を思っただろう。最後は何もかも自分の思い通りになる。そんな余裕のある笑みで、スコットの視線を受けるだけだった。裁定者がお互いの意思を確信したところで、大きく頷いた。



「それでは、お互いの魂に敬意を払い、拳を合わせよ」



 ジュリアとスカーレットの拳が合わさる。微笑むジュリアは圧倒的な自信を。対するスカーレットはすべてを破壊する覚悟を持つようだった。


 そんな彼女らを見届けた後、スコットたちがコノスフィアから出ていく。残ったのは、裁定者と二本のロゼスのみ。そして、ガシャリ、と音を立ててコノスフィアの出入り口にロックがかけられるのだった。




「ねぇねぇ、クレイン。スカーレットちゃんは勝てると思う?」


「……」



 コノスフィアを出て、青コーナーの後ろへ回る途中、ガストンに問われるが、クレインは無視する。しかし、ガストンの方は構わず喋るのだった。



「僕としては、負けてほしいなぁ。スカーレットちゃんを早く愛人にして、なーんでも言うこと聞かせるんだぁ。でも、ジュリアちゃんも良いよねぇ。あ、でもコウヅキ家の令嬢なら、手の出しようがないか。向こうの擁立者が羨ましいなぁ」



 一人妄想し、気味の悪い音を立てて笑うガストンに、クレインは振り返った。



「……スカーレットは勝ちます。彼女の高潔な魂は、決して貴方のものにならない」



 静かな怒りを燃やすクレインだったが、それすらもガストンにとっては自分を喜ばす種でしかないようだった。




 スコットたちの背中越しに、エドガーは姉の勇姿を目に焼き付けようとしていた。誇りを賭けた戦いに挑む彼女を見れば、自分はアリストスとしての階段を一つ上がるだろう、と。



「アイアン……。いえ、姉さま。どうか勝利を……!!」



 その眼前で、スコットはジュリアの背を見守っていた。言葉はない。ただ、自らのロゼスを信じて、始まりの瞬間を待つだけだ。そんな視線を背負うジュリアは呟く。



「この世界で……私が誰よりも試合経験を積んでいる。彼女は私を捕まえることはできない。ただ、私の打撃が当たるだけ。これはそういう試合。絶対に勝てる!」



 自らを鼓舞するジュリアの正面では、スカーレットが天を仰ぐように視線を上げてから、そっと目を閉じていた。



「何も怖くない。私の後ろには……たくさんのグロリアスファンがいるんだから。一歩も退かない。退いたりはしない。だって私はグロリアスターだもの。そうでしょ、お父さん!」



 スカーレットの目が開かれ、ジュリアを見据えたタイミングで、中央に立つ裁定者がコノスフィアの四方に立つ審査員たちに目配せする。そして、右手を高々と振り上げてから、叫ぶのだった。



「ファースト・プロヴィデンス……エンゲージ!!」

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