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蘇る魂

 ヒスクリフ学園の体育館。その前には巨大なマナ・スクリーンが設置され、スーツ姿の男が映し出されていた。



「グロワールのプロヴィデンスファンの皆さん、こんにちは。デュオフィラ選抜戦、公式実況者のスズカです。ついに、このときがやってきました。本日のメイン・プロヴィデンス。デュオフィラ選抜戦、第一トーナメントの最後のプロヴィデンスとなります」



 体育館に入りきらなかった観覧者たちは、このマナ・スクリーンの前に集まり、プロヴィデンスの開始を今か今かと待ちわびている。そんな彼らの気持ちを煽るように、実況者のスズカがこれから始まる一戦について説明を続けた。



「赤コーナーは開催地である、グレイヴンヒース領ヒスクリフ学園の代表、ジュリア・コウヅキ。対する青コーナーはアルドール領トライアンフ学園の代表、アイアン・スカーレットとなります。このアイアン・スカーレットはですね、十年前にグロリアス界を大いに盛り上げた、英雄アイアン・ロックスの娘さんということです。解説のリバー・バムさん。こちらのプロヴィデンスについて、どのように感じていますか?」



 話を振られたもう一人の男、リバー・バムはかつてデュオフィラとして活躍していたが、現在は引退して、フィットネスの指導員をやっている。そんな彼がこれから始まるプロヴィデンスについて語った。



「いやー、きましたね。アイアン・ロックスと言えば、我々の世代からしてみると、本当に英雄的なグロリアスターでしたからね。その娘である、アイアン・スカーレットがプロヴィデンスで見られる日が来ると思いませんでした。伝説のグロリアス団体、AFGの魂がどのように受け継がれているのか。さらに、グロリアス最強を証明するという、お父さんの意志をどのように体現するのか、期待したいですね」



「対する、ジュリア・コウヅキに関してはいかがです?」



「びっくりしたのですが、あのコウヅキ家のご令嬢なんですね。なぜ、アリストスの令嬢がデュオフィラ選抜戦に挑戦するのか、正直理解できませんね。こういうこと、あまり言うべきではないのですが、本当に実力があるのか、そこが心配です。ヒスクリフ学園はいい代表を用意できなかったんじゃないかなぁ」



「しかしですね、噂によると凄まじい打撃センスをお持ちだそうです。それを踏まえた上で、このプロヴィデンスはどのような展開になるとお考えでしょうか?」



「そうですねー、良くも悪くもアイアン・スカーレットが展開を作ると思いますね」


「ほう、それはどういうことですか?」



「アイアン・スカーレットの姿を公開練習で見たのですが、やはりお父さん譲りのフィジカルが他のロゼスに比べて群を抜いているように感じました。なので、このフィジカルがプロヴィデンスにアジャスト(適合)できているのか。そこが大きなポイントでしょうね」



「では、アイアン・スカーレットがフィジカルを活かした展開になると?」



「だと思います。あのパワーで抑え込まれた一溜りもないでしょう。アイアンに投げられて良いポジションを取られてしまったら、誰も逃げられないでしょうから、あとは裁定者に止められるまで一方的に殴られるような結末になると思います」



「となると、ジュリア・コウヅキはいかに捕まらないよう戦えるのか、ということですね」



「はい。アイアン・スカーレットがグロリアスと変わらない動きだったら、プロヴィデンスを勝ち抜いてきたロゼスなら、上手く逃げつつ自分の攻撃を当てられるのではずです。ただ、ジュリア・コウヅキは、アリストスのご令嬢と言うことなので、彼女もどれだけ経験を積んでいるのか、少し怪しいんじゃないかな、と僕は思っていますね」



「なるほど。終了の瞬間まで何が起こるのか分からない。そんな第一トーナメントの最終プロヴィデンスになるかもしれませんね。それでは、開始のゴングは間もなくとなります。決戦までいましばらくお待ちください!」



 マナ・スクリーンが暗転する。一方、会場である体育館の中も照明が落とされて、歓声が沸き上がった。誰もが興奮している。これから始まる激闘に期待を膨らませ、抑えきれない感情を歓声として発散しているのだ。


 そんな中、中央に設置された八角形の空間、コノスフィアにスポットライトが当てられる。そこに立つのは、スーツ姿の裁定者だった。口元に小さな魔方陣、拡声魔法を作ると、彼は会場全体に響き渡る声で宣言する。



「それでは、本日のメイン・プロヴィデンスを行います!」



 先程を上回る歓声に応えるごとく、裁定者は一輪のロゼスを呼び寄せる。



「メインゲートより、青コーナー……アイアン・スカーレットの入場です!」



 暗転。再びスポットライトが輝きを放つが、それは会場の入り口に向けられていた。強い光に照らされ、多くの人の視線がその扉が開かれたが、そこには誰もいない。


 一瞬の沈黙のあと、会場は異常事態ではないかと、動揺の空気が流れるが、どこからかメロディが聞こえてくる。通常であれば、ロゼスが所属する学園の学園歌が流れるはずだが……客席の誰かが叫んだ。



「これは……AFGのテーマだ!」



 体育館に爆音で流れるその音楽は、AFGの会場で必ず流れるテーマ曲だった。かつて、すべてのグロリアスファンを熱狂させたテーマソングに、会場が燃え上がる。そして、空気が割れそうな勢いで、誰もがその名を叫んだ。



「アイアン! アイアン! アイアン!!」



 グロリアスを愛するすべての人間の気持ちを背負い、ついにアイアン・スカーレットが姿を現すのだった。

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