最初の変化
俺が前世の俺と今の俺を比較し、絶望している隙すら与られず、この体の肉体情報やら、記憶情報やら、この世界の常識、考え方について、脳内に直接この体の情報が書き込まれていくのを感じる。
人格やら、思考回路なんかは前世の俺とこの世界の彼女の物がごちゃまぜになっているのがわかる。だが、おそらく七割方は前世の俺と同等な考え方が出来る。でなければ、先程までの行動が理にかなっていないと言える。俺の意思で起きて、俺の意思で鏡見を見た。起きた段階から少ししか違和感を覚えなかったのは、おそらく残りの3割増方の、彼女の考えが影響しているのだろう。
あ。
「頭が悪いと言っても、めっちゃ悪い訳でも、世間知らずと言う訳でもないらしいな」
ここまで物事を冷静に考えることができるのは前世の俺ではできなかったことだ。
「即座に考えることはできずとも、時間を掛ければ良いってことか」
ここまでの思考に来るのに長い時間を用してしまった。
一つの超難問問題を時間をかけて、クラスで俺だけが最初に解けた感覚に近しい。要するに嬉しいってことだ。
「久しぶりだな、こういうのは」
そんなことを考えているうちに、再び眠気が襲ってきた。
先程まで、恥ずかしながらも動揺していたため、この世界、今いる部屋ですらまともに観察することもできていなかった。今俺がいるのは異世界の歴史の中でもどのあたりなのか、本当に魔法が使えるのか、そもそもこの家の家庭環境はどうなっているのかとか。
「ま、そんなことはどうでも良いか。考えても仕方ない」
再び布団に入ろうとした次の瞬間。
「トーカお嬢様、先程から何を一人で話していらしたのでですか?」
途端に眠気から覚める。
扉を開けた先に一人の女性がたっている。
お嬢様?
敬語?
次の瞬間、この体の情報が脳裏によぎる。
「あぁ、おはようマーチ」
咄嗟に言葉が出た。
恐らく記憶の伝達は、何か外的刺激を受けてから作用するものらしい。そういえばこの世界に来て一番最初に作用したもの、この体の情報だったな。
「おはようございます、お嬢様。朝食の準備が出来ております。今朝はお父様とご一緒に、召し上がるのではありませんでしたか?」
「あぁ、直ぐに行くよ。ちょっと待ってて」
畏まりました、とドアを閉める彼女を見つつまた一つの記憶が駆け巡る。
彼女は、マーチ·フェントという名前らしい。この家で俺の世話係を請負っている。要するに、メイドさんだと思う。以前はお父様の側近であったが、俺、というより私が生まれてから、お父様の指示の元、今までの信用から今の役職に落ち着いたという。
そして俺の名前、この世界で通ずる名前は、トーカ=ソーラス、と言うらしい。
「中々可愛らしい名前じゃないか」
思わず言葉が漏れた。
「?。何か御用で」
マーチの声が壁隔てて聞こえた。正直めちゃめちゃびっくりした。
この部屋、意外と防音性ないな。
「何でもない」
少しの間があったあとに女性の声が聞こえる。
「わかりました。では私は先に下で待っておりますので。」
あぁ。ここは二階以上のところなのか。
····。
気になった俺は駆け足で窓に向かう。窓の鍵を開け、両手でバンと開き、顔だけ乗り出す。
「ここは4階か」
外の景色を見るに、地球で表現するなら地中海性気候のような、ヨーロッパ漂う雰囲気だ。木々はそこまで大きいものは無く、基本整備されているという印象だった。
部屋も良く見てみると、結構豪華な装飾品も飾ってあるし、絵画だって、シャンデリアだってある。
······。
そういえばマーチは俺がブツブツ独り言を行っていたのを聞いていたのだろうか。
あ。
恥ずかしくなってきた。こういう性格なのか俺。




