第68話
「魔族のエネルギー問題をどうにかしよう!」
宿を探す途中、飯処で食べながら言うとノイシュくんが冷静に返してきた。
ちなみにリーゼルさんとリリィは早々にお高い宿でチェックインした。
ノイシュくんだって第五王子なんだぞ!
「いえ、その前に、数千年前に何が起きたのか、勇者と魔王とは何なのか、リーゼル様は何を背負っているのか」
そして顔を上げた。
「なぜ300年後に勇者としてサハラさんが召喚されたのか」
俺のことを言われてドキリとした。
そうだよな。謎は何一つ答えが出ていない。
「そのお話なら答えられるかもしれません」
「カシワギさん!」
「いつからこちらに!?というより、リリィ様達と高級ホテルに宿泊されるのでは!?」
「以前にもお伝えしたように、この世界の地球や他の惑星から流れ込んだものの中には時空の捩れで未来や過去から来たものもあります」
私もその一人ですけどね、とカシワギさんが微笑む。
「仮説ですが、三百年前にサハラさんが呼ばれるはずだったのではないでしょうか。魔王となるものと対になるものとして」
「対になるもの?」
「はい。負のエネルギーは単体で召喚するより、対になるもの二名で呼ばれた方がエネルギーが増すと聞いたことがあります。なので、サハラさんは魔王を呼ぶための材料として使われた可能性があります」
カシワギさんの話に愕然とする。
「材料、材料かー」
リーゼル様の信仰から生まれた女神見習い様も、ガナッシュ様も存じ上げていたと思います」
なんだよ、みんな知っていて黙っていたのかよ。
「白い魔女と黒い魔女のお話と一緒ですよ。あのお話にも一説には白い魔女の恋人を殺したのは勇者だと書かれています。ですが、それは真実です。勇者が嫉妬で人間を殺したなんて恥知らずなこと、普通は書けませんものね」
にこりと微笑み、悲しげに笑う。
「実はですね、私はたんに召喚に巻き込まれただけのOLだったのですが、同郷としてその勇者であり王であった方に秘書官として仕えておりました」
「えっ!?」
「ですから、書物に回る歴史を改変しました。王が望んだので。そのことを後悔しているかと聞かれたら分かりません。その時は醜聞を隠すのに必死でした。そして疲れていたところをリリィ様に拾われたのです」
なるほど、
俺が頷くと、カシワギさんが微笑んだ。
「白い魔女様がサハラさんを気にいるのも分かります。白い魔女様が愛したお方に似ていますから」
嬉しいのか、嬉しくないのか、微妙だな。
「それに、白い魔女と黒い魔女、精霊王、魔王、勇者が揃ったことはあまりないんですよ。これは世界の希望であり、絶望かもしれません」
「世界の希望であり、絶望?」
ノイシュくんが首を傾げる。
「はい。正直なところ、人間と魔族との平和停戦を申し出たのも人間とはいえ、一般人のカッシュ様でした。なので、重大な役は必ずしも勇者が背負わなくていいはずです。ですが、サハラさんは力を与えられて世界最強クラスになりこの地に存在している。それはきっと、この世界が、呼び出したリーゼル様の望んだこと。私には考え及ばぬことかもしれませんが、リーゼル様はきっとあなたに期待している。この世界が変わるきっかけを」
真面目な顔をしてあるカシワギさんと、ぽかんとしている俺とノイシュくん。
ちょっと待ってくれ。
想像していたより話が壮大すぎる。
どうしたもんかと考えていると、カシワギさんがいつのまにか注文していたつまみとビールで一杯やっている。
「とにかく、リーゼル様は多分語らないでしょう。ガナッシュ様もです。ですが、他の神なら教えてくださるかもしれません。大神殿や信仰の深い場所に神が降臨される事がありますよ。
なので、ここから近いところですと、そうですね。サカラハ国がいいと思います」
えっ!?あんな噂で聞くだけでも治安が悪い国でも信仰ってあるのか!?
ノイシュくんの顔を見ると、複雑そうな顔をしていた。
「この世界の八割は神聖教団を信仰しています。特にサカラハ国は邪神を信仰しているとも噂で聞きます。そのような神に頼っても大丈夫なのでしょうか?」
神聖国家の女神っていったらあのお姉さんだしなぁ。リーゼルさんの味方っぽいし。やっぱりサカラハ国へ行くしかないのか?
「サハラさん達が疑問に思うのも分かります。ですが、道はもう数少ないのです。道中は精霊王のセイ様や他の方々もついていってくださると思います。ご武運をお祈りしております」
礼をされて、こりゃ行かなきゃいけない雰囲気になってきたぞ。
俺とノイシュくんが顔を見合わせどうするか話し合っている横で、カシワギさんは満足そうにビールを飲んだ。




