第67話
「フロランタンで思い出した。色々あって忘れていたけれど、この本ってリーゼルさんが書いたんですよね?」
以前フロランタンを訪れた時、鐘の音に導かれるように出現した漆黒の本。
差し出すと、リーゼルさんが小さく笑った。
「懐かしいですね。確かにこの本は私が書いたものです」
本を受け取り、その本を撫でる手つきは優しい。
「何が書いてあるんですか?僕達、それが知りたくてフロランタンから神聖国家へ訪れたんです」
「そうですか。実はこれは研究ノートだったんです。エネルギー問題をなんとか解決出来ないか調べてはこのノートに書き記していました」
リリィが顔を伏せる。
「そんな大事なノートをなんでフロランタンの図書館に?」
ガナッシュ様の城までてくてく歩きながら雑談している。
「この中の方法ではどうにもならなかったので。それに処分するには、あまりに思い出深かったので寄贈という形でガナッシュに託しました。また勇者が現れた時に手渡してほしいと」
勇者にこれまでのエネルギー問題を託して、どうしたかったんだろう。
「いやでも、悪筆でなにも読めませんでしたけど?」
「だからですよ。意味深でしょう?ガナッシュに尋ねられたら神聖国家に訪れるよう頼んでおきました。そうしたら自動的に勇者が私の元に訪れるでしょう?」
まんまとリーゼルさんホイホイに引っかかった訳か。
そこで暗い顔をしているリリィが気になって話しかけた。
「リリィ、どうした?」
リリィはどうしようか言い悩んで、覚悟を決めた顔で俺をしゃがませこっそりと話しかけてきた。
「お兄様は本当は私様とは血が繋がっていないのだわ。弱い人間だったお兄様のお母様のお父様が魔族で人間に殺されて素材にされて、不憫になったお父様が赤ん坊だったお兄様を養子にしたのだわ」
リリィが少し寂しげに言った。
そうだよな。魔族に同族はいないってかなり前に言っていたもんな。
俺がしんみりしているとリリィが目を潤ませて言った。
「この話、お兄様にはしないでほしいのだわ。とても気にしていらっしゃるから」
「分かったよ、リリィ」
頭を撫でて落ち着かせる。
心配のためか息が荒い。
そんなリリィの頭を黙って撫でていたらリーゼルさんに怒られた。
「あなたにリリィを撫でる権利はない。おいで、リリィ」
「お兄様!」
ひしっとリーゼルさんに抱きつくリリィ。
……この兄妹は、このままでいいか。あまりのアンバランスさに触れると壊れそうな関係。
「そういえば、ガナッシュさまが何か頼み事あったみたいだしな。ついでに叶えていこう」
「そうですね。あまり無茶なことじゃないと助かるんですが……」
「そうだねー」
なんて言っていたらもうガナッシュ様の城まで来た。
謁見の間でしばらく待つと、ガナッシュ様が現れた。
俺とノイシュくんは頭を下げて礼をした。
「お久し振りです、ガナッシュ様」
「お久し振りですね。懐かしい顔もいるようですし」
「久し振りだな、ガナッシュ」
リーゼルさんが挨拶をすると、ガナッシュ様が微笑む。
「あの引き篭もりさんがこうしてこの地を訪れるのは何百年、何千年振りかしら?」
「煩い」
リーゼルさんは不機嫌そうだ。
でも、旧知の仲って感じがしてくる。
「ガナッシュ様、俺達に何かしてほしいことがあったんじゃないですか?」
「そうそう。でも、もう叶えられてしまったものね」
リーゼル様は楽しそうにくすくす笑う。
俺とノイシュくんは顔を見合わせた。
一体なんだったんだろう。
「この恥ずかしがり屋の照れ屋さんをよく私の前に連れてきましたね。ありがとうございます」
ガナッシュ様の願いはリーゼルさんと対面することだったらしい。
「誰が恥ずかしがりの照れ屋だですか、まったく」
リーゼルさんが嫌そうに答える。
「リーゼルさんが書いた本のことも分かりました!生憎と僕達が知りたいことは書かれていないようですが……」
「いやいや、ノイシュくん。魔族のエネルギー問題で非採用にされているけれど、そういうところにこそ何かヒントがあるんじゃないでしょうか?」
「そうね。すべての魔族のために考えてみてください。よろしくお願いいたします」
慈愛に満ちたガナッシュ様の微笑みに、俺は真っ直ぐ瞳を見て答えた。
「はい!」




