第66話
「それじゃあ、キクノクスへ行きますよ」
「はい!」
「ちょっと待ってください。俺、割烹着で帰るんですか?」
その言葉に全員の目が俺に集中した。
「そうでした……。なんとなく違和感がありすぎて逆に慣れてしまいましたが、割烹着姿は普通におかしいです」
ノイシュくんの言葉にリリィが頷く。
「慣れって怖いのだわ……」
失礼すぎんか?
俺だって好きでこんな格好をしてるんじゃないんだが?
そうは思ったけれど、勇者シリーズと魔王シリーズは主人の思い描いた姿に変わるという。
ならこれは俺の願望……?
奥さんに着てほしいと思って割烹着を思い描いたから?
いやだってあの時はさぁ、ちょっと年上の未亡人がこんな格好してお帰りなさい、あなたとか言われたら俺はプロポーズを速攻するね。
シャロンさんを諦めたつもりはないけど!
まだ見ぬ未亡人か、シャロンさんか、悩ましいな……。
「リツ、何を考えているのだわ?」
「どうせろくでもないことですよ。見ちゃダメですよ、リリィ様」
「そうだぞ、リリィ。お前はそのままでいてくれ」
二人に諭されて、リリィは頷いた。
全部聞こえてるんだけどなー。
俺に味方はいないのか……。
「さ、キクノクスへさっさと行きましょう」
お見送りに来てくれた信者の中にはシャロンさんもいてくれた。
こっそり手を振ると、シャロンさんも手を振り返してくれた。嬉しい!
えへへとでれっとした態度をしていると、ジト目でノイシュくんたちに見られた。
いいじゃん。婚期なんだよ……。
「とっとと行きますよ」
そう言ってリーゼルさんが左手を上げると、眩しい光に包まれて、目を開けたらそこはキクノクスの中央公園だった。
懐かしいな、この公園……ミカさん元気かな……。
俺が勝手に女性と勘違いして浮かれていたミカさんを思い出してちょっと泣きたくなっていると、リーゼルさんが声を掛けてきた。
「いつまで地に這いつくばっているんですか。さっさとキクノクスのバルロットとやらに筋を通して魔王シリーズを探しますよ」
冷たくリーゼルさんが言う。
ううん。そうだよな、今は過去の婚活に傷口を開いている場合じゃない!
「よし!バルロットさんのところに行こう!」
バルロットさんの執務室に訪れると、バルロットさんはまた目を丸くした。
「随分と早かったですね」
「実は色々と事情がありまして……」
「初めまして、こんにちは。私の名は神聖教団の教祖リーゼル。キクノクスの領主であるあなたに協力を仰ぎたい」
「神聖教団の教祖様!?そのような方が、この辺鄙な土地に何か御用でしょうか」
「この土地で学者をしている男を探している。魔王として召喚し、魔王シリーズを明け渡した男だ」
「魔王シリーズ!?魔王として召喚した男がこの街に!?」
バルロットさんは連続する驚愕に目を見開いている。
俺達も驚いたもんな。
「バルロットさん、お願いします。リーゼルさんがいれば、その相手が分かるらしいんです。国中の学者を集めてくださいませんか?」
「僕からもお願いいたします、バルロット様!事態は一刻を争うんです!サハラさんが魔王になるためにも、お願いします!」
俺たち二人の懇願とリーゼルさんの威圧でバルロットさんは頷いた。
「わかりました。国中の学者を集めましょう」
そうして、国内放送で中央広場に集められた学者を一人一人リーゼルさんが確認した。
けれど、目的の人物は居なかった。
「本当にこれで全員ですか?」
リーゼルさんが問うと、集められた学者の一人が名乗り出た。
「申し訳ありません。一名、フロランタンへ留学しております。もしかしてそいつがあなた方の探している人物かもしれません」
俺達は顔を見合わせた。
「フロランタン……」
「ここまで来たら行くしかないですね」
「いいでしょう。フロランタンだろうがどこだろうが、我々のためです」
そう言ってまた左手をかざすと、俺達は一瞬でフロランタンの図書館前にいた。
「さて、ガナッシュに筋を通してその留学生を教えてもらいましょうか」
リーゼルさんは久々の外界を巡っているからかどこか浮ついた気持ちになっているようだ。
俺よりかなり年上だろうけれど、リリィと同じように可愛く感じる。
「なんですか、その目は」
じっと見ているとすぐにバレた。
「いや、可愛いなって」
リーゼルさんはまた溜息を吐いた。
なんだか知り合ってから呆れられてばかりだ。
でも、こう言う姿を見ると感じられる。
魔族も人間も大差なんてないんだなって。
「分かるのだわ!お兄様って可愛いのだわ!」
「リリィ!」
そんな和やかな兄弟喧嘩を見続けるためにも、フロランタンで学者に会わなきゃいけない。
見つけられるといいな、頑張ろう。




