第65話
卵焼きをみんなで食べて、リーゼルさんもリリィがいるからか柔らかい笑顔だ。
初期のツンデレどこいった。
いや、俺たちにはツン全振りだったわ。
「なんですか、そんな顔で見てきて」
「いいえ、別に」
「気色悪いので見ないでください」
「流石にそこまで言われる筋合いはなくない!?」
俺は激しくショックを受けた。
確かにさ、俺は奥さんに来て欲しい衣装ナンバーワンの割烹着を着ている。
勇者シリーズは今、割烹着で定着している。
……魔王シリーズはどうなんだろう。
三百年前の魔王が持ち逃げしたって話だけど、勇者シリーズと魔王シリーズが揃えばもっと強く、もっとなにか出来るんじゃないか?
「なあ、リーゼルさん。魔王シリーズって持ち逃げされて今どこにあるんですか?」
「……なんでですか?」
「いや、勇者シリーズと魔王シリーズが揃えばもっと魔族のみんなに貢献できる力が手に入ると思って」
リーゼルさんは溜息を吐いた。
「千年前にもいましたよ。そんなこと言い出した馬鹿」
「えっ、まじですか!?」
「暴走したので僕が殺しました」
リーゼルさんは遠い目をしていた。
時々懐かしむ目で俺を見ていたのは、本当に俺とその人が似ていたからだろう。
リリィがこっそりと俺に言いに来た。
「その人間とお兄様、恋仲だったの」
「……まじ?」
てっきり男だと思っていた。
いや、それ以前にリーゼルさんが自分の恋人を殺した?なんで?暴走したから?
「その、暴走って止められなかったのかよ」
「止められなかったわ。お兄様しか。でも、それ故に最悪の結果になったのだわ。……魔族の魔力の枯渇もその頃からだわ」
「それは……」
とても大切なことじゃないか?
リーゼルさんは、自分の恋人が亡くなった後も思い続けているんじゃないんだろうか。
それに、千年前の勇者兼魔王が死んで魔族の魔力枯渇が始まったのも気になる。
「その人のお墓とかってあるか?」
「もちろんだわ!お兄様のお気に入りの丘の上に建てたのだわ。この神殿の裏にあるのだわ。ついてきて」
最後はすがるような声でリリィが言った。
俺は、卵焼きを食べているリーゼルさんが魔族で人より聴力がいいことなんて知らずにリリィとこそこそ話してそっと扉から出た。
その後ろ姿をリーゼルさんが見ていて呟いた。
「まったく、千年経っても人間って馬鹿ですね」
悲しそうなその声を聞く人はいなかった。
お墓は今でも生花で溢れていた。
綺麗に手入れされていて、リーゼルさんが今でもこの人を愛しているんだと感じられる。
「なあ、リリィ。この人が亡くなってから魔族の魔力枯渇が始まったって、なにか原因があるのかな」
「分からないわ。あの時は、酷い戦いで、見ている私様も胸が痛んだのだわ」
「そっか……」
でも、気になる。
そのためには、俺も魔王シリーズを手に入れるしかない。
「よし!やるか!」
そうと決まったらリーゼルさんに話を聞こう!
急いで部屋に戻り、作りすぎていた卵焼きは一つもなくなり、卵焼きパーティーは終わったのだと知った。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「リーゼルさん!魔王シリーズが今どこにあるか知りませんか?」
「何故ですか?リリィから聞いていたんでしょう」
「それって、俺のこと殺したくないってことですよね」
気不味そうなリリィと事情を噛み砕いて一生懸命に話についていこうとしているノイシュくん。
「千年前はそうなったかもしれませんが、今なら違う結末になるかもしれませんよ?俺を信じてください!お願いします!」
お辞儀をする俺を見て、長い沈黙が降りる。
やがて長い溜息を吐いてリーゼルさんは首を振る。
「魔王シリーズは今、駆け落ちした魔王が三百年前に逃げた街にありますよ」
「その村は!?」
「キクノクスです」
俺とノイシュくんはあまりの驚きに顎が外れるかと思った。
まじか!?……まじかぁ。
「キクノクスにそんなものが……」
「魔王シリーズも勇者シリーズみたいに主人の思うままに姿を変えられますからね。気づかなくても無理はありません」
「なるほど?」
「では、キクノクスへ戻りましょう!」
ノイシュくんがやる気を出している。
「でもさ、今まで勇者シリーズ着ていてもなんの反応もなかったよ?こういうのって、こう、共鳴したりしないの?」
俺が疑問に思っていると、リーゼルさんは言った。
「特にそういう機能はつけていませんでしたね」
「つけていなかったか〜〜〜!」
思わずしゃがみ込む。
「ですが」
「はい?」
「創造主たる私なら感知もできるかもしれません」
俺は目を輝かせた。
「もしかして、一緒にキクノクスまで行ってくれます?」
「私も、千年前の悪夢を繰り返したくはありません。キクノクスに魔王シリーズがあり、それが何かしらの変化を与えるなら、私も力を貸しましょう」
「リーゼルさん!」
「心強いです!ありがとうございます!」
リーゼルさんはまた溜息を吐いた。
「今度は殺させないでくださいね」
「もちろんです!俺が勇者として、魔王として、三百年前の魔王の代わりに千年前の勇者の意志を継ぎたいと思います!」
リーゼルさんは何度目かの溜息を吐いた。
「期待しないで待っていますよ。救世主様」
新たな肩書きが増えて、俺はやる気を出して力強く答えた。
「はい!」
この結末がどんなものだとしても、俺がリリィとリーゼルさん、魔族のみんなを守ってみせる!




