第64話
いやもうまじで割烹着と包丁でどうしろっていうんだよ。
項垂れる俺に、バルロットさんは満足気だ。
なんでだよ。
「これで準備は整いましたね。さあ!人間のエネルギーに変わるものを作ってみましょう!」
「えっ、そんな簡単に!?」
でも、リーゼルさんの問題が解決したらシャロンさんは喜んでくれるだろうか。
「……よし!俺、やります!」
とはいえ、なにが魔族にとってのエネルギーになるかわからない。
リリィがいればなぁ。
リリィを残したのはブラコンが欲を出したんだろう。ブレないなぁ、リーゼルさん。
「大丈夫ですか?サハラさん」
「うーん。分からん」
でも、俺は。
「それでも俺は、リリィが信じた世界を見てみたいんですよ」
その時、鈴の音が聞こえて俺達はリーゼルさんの前に現れさせられた。
リーゼルさんはどこか怒った様子だ。
「あなたは何を考えているんですか?」
「覗いてたんですか?」
リーゼルさんは小さく頷き、溜息を吐いた。
「みんな、理想論ばかりだ」
リーゼルさんが疲れたように笑う。
みんなとは誰のことだろう?
リリィ?いや、違うっぽいな。
リーゼルさんの遠い目からは何も読み取れない。
「まあ、あれです。卵焼きでもどうですか?」
せっかく割烹着に着替えたしね。
「甘いやつでしょうね」
リーゼルさんのその言葉に笑ってしまった。
「なんですか?リリィのためですよ。リリィは卵焼きは甘い派です」
今度は俺が笑った。
やっぱり助けたいな、この二人。
「分かりました!めちゃくちゃ甘い卵焼きを作りますね」
「僕も手伝います!」
ノイシュくんが慌てて後を追いかけてくる。
厨房に行くと、シャロンさんがいた。
「シャロンさん!」
「サハラ様」
そうだ、魔族の問題を片付けるってことは教祖としてリーゼルさんを敬うシャロンさんの心の支えを救うことになる!
「シャロンさん!俺、頑張ります!」
「ええっと、頑張ってください?」
この時の俺は忘れていた。割烹着に包丁を持った見た目のおったさんがシリアス雰囲気出してもコントになることを。
そうと決まったらとりあえず甘い卵焼きだ。
ノイシュくんに味見をしてもらいつつ、甘さを調節する。
甘い卵焼きってリクエストだけど、甘い卵焼きってどの程度の甘さなんだろう?
……人間の食糧が魔族にも通じればいいのにな。
甘い卵焼きを望むってことは嗜好はあるんだろうな。
どうしたもんか。
考えながら卵を巻く。
何度かの卵焼きを作っていく。
なんか、こう、うまいこといかないもんだろうか。
そう思いながら何通りもの卵焼きを作っていった。
「卵焼き出来ました〜。右から甘さ控えめ、左が激甘です」
リーゼルさんの執務室へ行って卵焼きを並べると、いつの間にかリリィもいて、嬉しそうな顔で激甘の卵焼きを食べている。
「美味しいですか?リリィ」
「もちろんなのだわ!リツの料理は美味しいのだわ!」
そう言われて悪い気はしない。
思わずノイシュくんと、満面の笑顔のリリィとそれを見守るリーゼルさんを見て微笑む。
やっぱり、この二人が世界の悪になることは避けたい。
俺は俺にできる力で。
勇者シリーズが割烹着になったこと、三百年後に俺が勇者として呼ばれた意味。
色々問題はあるけれど、なんとかみんなが笑顔になる世界を守りたい。




