第63話
「シャロンさん!おはようございます!」
この数日、積極的にシャロンさんにお近付きになろうとしている俺を冷ややかな目で見る目が八つ。
リリィとノイシュくんとリーゼルさんと女神見習い。
放っておいてくれ。
俺は婚期真っ最中の男だぞ。
シャロンさんはにこりと微笑んでくれた。
「おはようございます」
と返されて俺はリーゼルさんのところに直行した。
「あの、この教団って恋愛禁止とか結婚禁止とかそういうのはないですよね」
リーゼルさんはうんざりした顔で追い払うような仕草をした。
「特にそんな取り決めなんてしていません。鬱陶しいから勝手に振られてきてください」
「振られるって決めつけないでもらえません!?悲しいから!なあ、ノイシュくん!リリィ」
二人からは全力で顔を逸らされた。
なんでや。
「いやいや、シャロンちゃんはいい子よ?いい子だからこんな適当なおっさんにあげたくないだけよ?」
「女神見習いひどい」
適当じゃないやい!ちゃんと生きてきて…きたかなぁ?
俺が腕を組み自問自答していると、ノイシュくんから提案があった。
「青春しているところ申し訳ないのですが、今後どうするかを話し合いませんか?」
そしてこそっと近づいて。
「リーゼルさんも最初の頃より打ち解けていると思いますし」
「そのことなんだけどさ、一回キクノクスへ戻ってバルロットさんに相談してみたらどうだろう」
「バルロット様に、ですか?」
「確実に俺達より知識も経験も豊富だ。現状を打破する一手くらい知っているかもしれない」
ノイシュくんは少し考えて頷いた。
「そうですね、キクノクスならここより田舎とはいえ食材も豊富ですし何かしらのエネルギーの代替え品が見つかるかもしれません。勇者シリーズが見付かったのもキクノクスですし、何かあるかも」
「そうだろう。あ、でもシャロンさんに会えなくなるのは寂しいな…」
ノイシュくんは呆れた顔をして溜息を吐いた。
「色ボケしていないで、ちゃんとこれからの人間と魔族のこと考えてくださいよ」
「分かってるって」
俺達がやいのやいのしている間にリーゼルさんとリリィは兄妹水入らずで話し合っていた。
女神見習いは朝酒と言ってキッチンへ行った。
「お兄様、本当になんともならないのだわ?」
「そうだね。この数千年、気付いてから様々なことを試したけれどどれも解決策には至らなかった。人間からの負のエネルギーを摂取するしかもう私達が生き残る道はないんだよ」
「でも、たった数千年なのだわ?一万年後には人間も魔族も精霊もみんなで笑って暮らしているのかもしれないのだわ」
「リリィ…。優しい子ですね。そうですね、そんな未来があればいいのですが」
どこか遠い目をしてリーゼルさんはリリィの髪を撫でた。
リーゼルさんの内情もまだ知りきれていないのに俺達は話を纏めると改めて声にした。
「よし!キクノクスに戻ってバルロットさんに全力で頼ろう!」
ちょっと情けないかもしれないが、それしか解決策が見付からないなら仕方がない。
「あ、でもキクノクスまで戻るのにまた時間が掛かるよな」
「そうですよねぇ」
盲点だったな〜と頭を掻いていると、リーゼルさんが空中に鈴を出した。
「これを持ちなさい。鳴らせば私と通じますし、必要とあらばあなた方をこちらへ呼び寄せます」
「そんなこともできるんですね!さすがはラスボス!」
俺の言葉にリーゼルさんが首を傾げた。
「らすぼす?」
「あっ、こっちの話です。とにかくありがとうございます!」
「あなた方は私がキクノクスへ送っていきます」
「い、至れり尽せり〜!リーゼルさん、意外と優しいですよね!」
俺が褒めたら鈴を奪い取られて部屋から追い出された。
ツンデレが激しい系ラスボスって困るよな。
なんとか説得して鈴を貰ってキクノクスへ送ってもらった。
いやもうまじで一瞬だった。
テレポートってこんな感じか?
場所もちょうどよくバルロットさんの執務室だった。
まあ、着地場所はよろしくなくて来客用の机の上に俺とノイシュくんを乗せていた。
俺達は慌てて降りて台所から台拭きを持ってきて拭いた。
「お久し振りです!バルロットさん!」
執務用の椅子に座り突然現れた俺達を見て瞬いていた瞳は驚愕にどんどん大きくなる。
「サハラさん!ノイシュ!どうしたんですか!?急に!」
「いや、積もる話もあるんですけどとりあえずお昼ご飯食べません?」
その時ちょうど正午を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
「なるほど。事情は分かりました。お二人とも、お疲れ様でした」
「いやあ、なんかほとんど食い倒れの旅でしたけど」
「それはサハラさんだけでしょう!夜中に宿を抜け出して飲み歩いていたのも知っているんですからね!」
ジト目で睨まれるので俺は顔を逆方向に向けて逃れようとするばかりだ。
「とにかく、魔族が摂取するエネルギーをどうするかですね」
「そうなんです。バルロット様なら何かお知恵があるかと思い戻ってきました。何か知っていることはありませんか?」
ノイシュくんが最後の望みとばかりにバルロットさんに詰め寄る。
バルロットさんは立ち上がると執務机の上に置いてあった本を数冊持ってきた。
「実はあれから色々調べたのです」
「おお!さすがは頭脳担当バルロットさん!」
バルロットさんは一冊の本からページを捲り目的のページを見付けると指を指して宣言した。
「伝説の勇者シリーズは勇者の心のままに変貌するとかしないとか。ここは、新たな気持ちで手にするのです!」
バルロットさんが厳かに言った。
「つまりは?」
「鎧をエプロンに、剣を包丁に変えるのです!」
バルロットさんって時々無茶振りがすごいよな。
俺ですら何いっているか分かんねーもん。
ていうかこういうキャラだっけ?
若干引き気味で少し頷いた。
持っていた荷物から勇者シリーズを出して久々に着てみた。
うーん。こっからエプロンと包丁になるんだろうか?
「とにかく!なんとかなれー!」
剣を上に掲げて調理人のイメージで叫ぶと、身体中が光に包まれ、俺は割烹着に身を包み包丁を持つおっさんになっていた。




