99. 《続》ユリアン戦
「あああああああああああああああああああああ!」
俺は倒れていた体を起こし、空に向かって吠えた。
どういうことだ?
なぜ、俺は俺の体を使っているんだ?
俺の意識はまだ残っており、俺の体の中にいた……ということだろうか?
と、俺が考えている間に、俺が地面を蹴り、そしてユリアンとの間合いを詰めた。
「―――影よ」
ユリアンが影を使って、俺の腕を拘束。
しかし、俺は、
「ぐわああああああああああああああ―――!」
痛みを感じないのか、むりやりに影を引き剥がそうとした。
だが、その程度で拘束が取れるほど、ユリアンの陰魔法は軟じゃない。
身体中を影で拘束された俺。
「紫電の槍」
ユリアンが槍を出現させた。
そして、影に絡み取られた俺に向かって、
「穿て」
槍を放った。
―――グサッ
紫電の槍が俺の肩を貫く。
その瞬間、俺の視界が暗転し、白い空間に放り出された。
あの記憶の扉があった場所と似ている。
ただ一つ決定的に違うことは周りには扉は一切ないことだ。
その代わりに目の前にはオーウェンの顔をした黒い靄があった。
―――ああああああああああ!
黒い靄が俺に襲いかかってくる。
体に巻き付く靄。
口や目、鼻から黒い靄が俺の体の中に入り込んできた。
そして、
――――ああ、ああ、ああああああああああ
俺の慟哭が俺の内側から聞こえてきた。
それは怒りと憎悪。
俺ではない俺の人生は誰にも愛されなかった空虚なものだった。
満たされない思いを抱き続けた俺の感情。
そんな俺の体を佐々木裕太という別の人格が奪った。
俺に残ったのは行き場のない怒り。
ただただ波のように激しく荒れ狂う。
そう思うと……オーウェンは可愛そうな少年だ。
だけど―――同情なんかしない。
俺はお前に許しを求めないし、恨むなら好きなだけ恨めばいい。
傲慢なのはわかっている。
この体はもともとお前のものだもんな。
だけど、それでもお前にこの体を渡すわけにはいかない。
この体は俺のものだ!
俺は体の中で暴れまわる俺の意識をむりやりに押さえつける。
―――があああああああああああああああああああああああああ!
抵抗する俺。
俺と俺の意識がぶつかり合った。
■ ■ ■
「……が……はっ……」
目を開けると四大祭の会場。
目前にはユリアン。
俺は自分の体を奪い返した。
久しぶりに動かす俺の体だ。
懐かしいとか嬉しいという感情よりも、肩に走る強烈な痛みの方に意識がいく。
槍が刺さった痕が残っている。
記憶の中で何日も過ごしたのに、こっちの世界では一瞬の出来事だった。
状況が目まぐるしく変化し、脳がオーバーヒートしそうになるが、思考を切り替える。
今重要なのは目の前のユリアンをどう倒すか、だ。
状況は圧倒的に不利。
体はボロボロの俺に対し、無傷のユリアン。
さらに、今この瞬間も内側から俺が体の制御を奪い取ろうとしている。
先程、俺を縛り付けていた影はなくなっていた。
俺は自由になった自分の体を起こし、立ち上がる。
「なかなかに……しぶといね」
目を覚ました俺に対し、ユリアンが失笑する。
「まだまだ……これからですよ」
俺は強がって笑って見せた。
「このままでは君を殺してしまいそうだ。……と、脅したところで観念はしてくれないだろうね」
「たかが、槍が刺さっただけで……諦めませんよ」
死の体験をした。
それと比べればこの程度、余裕……やっぱめっちゃ痛い。
まじで泣きそう。
肩かから血がダラダラと流れている。
これ、放置したら出血多量で死ぬよね?
「ははは。強がりもそこまで来れば大したものだね。それなら、どこまで強がれるかを試してみようか」
そういったユリアンの雰囲気が変わる。
おしゃべりの時間は終わりのようだ。
ユリアンが陰魔法で生成した影を伸ばしてきた。
それに対し、俺は内側で吠える俺に話しかける。
―――なあ、俺。暴れたくて仕方ないんだよな? なら、お前に最適な器を用意してやるよ。
「今こそ、内側に宿し激情を解放するとき! 顕現せよ、イフリート!」
眼前で直径2メートルを超える黒い球が現れた。
直後、黒い球は内側からメラメラと激しく燃え盛る。
球はユリアンの作り出した影を燃やし尽くし、
―――どごおおおおおおん!
爆発した。
近くにいた俺はとっさに手で顔を覆う。
そして目を開けたとき、そこには炎の化身ーーーイフリートがいた。
「があぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」
イフリートが会場全体に響き渡るほとの声量で吠えた。




