100. 《続》ユリアン戦②
誰もが唖然としていた。
オーウェン対ユリアンの一戦。
ユリアンが勝つと、ほとんどの観客が予想していた。
ユリアンに対し、オーウェンがどこまで食らいつけるか……それがこの試合の見どころだと考えていた。
実際、ユリアンが優勢で試合が進み、試合開始から数分後にはオーウェンがユリアンの前に倒れていた。
ここまでは皆の予想通り。
それほどまでにユリアンの強さは、今大会で頭一つ抜けていた。
オーウェンはよく頑張った。
2度も倒されて、それでも立ち上がる姿に観客は感動し、このままユリアンが勝ってもオーウェンを褒め称えるつもりでいた。
しかし、ユリアンが決勝戦に進出する……そんな彼らの予想を覆したのが炎の化身―――イフリート。
オーウェンが精霊魔法で召喚した精霊だ。
精霊魔法とは、意思を持ち自立して動くモノを生み出す魔法のことである。
魔法に精霊が住み着いたかのように見えることから精霊魔法と呼ばれている。
ちなみに、この世界でも精霊とは架空の存在とされている。
精霊魔法は高度な技術を必要とする魔法である。
そんな精霊魔法をオーウェンが使ったことに観客は驚いていた。
しかし、それ以上に彼らが驚いたのは、オーウェンが召喚した精霊が予想を遥かに超える強さを誇っていたことだ。
ユリアン対オーウェン―――否、ユリアン対イフリートの戦いは、もはや学生のレベルを遥かに超えていた。
まして、これが中等部同士の戦いなど、誰が信じられるだろう。
会場の至るところが壊れ、所々にクレーターのような穴が開いている。
観客らは彼らの戦いをかたずを飲んで見守っていた。
「があぁぁぁ――――――――っ!!!」
イフリートは怒りを発散させるかのように、空に向かって咆哮を上げた。
「……なんてものを召喚してくれたんだ……」
ユリアンは苦々しく呟く。
ユリアンの服のあちこちが焼け焦げており、ユリアン自身もイフリートから食らった火炎によって火傷を負っていた。
幸い、致命傷となるほどのダメージは受けていない。
彼が苦戦している理由には、イフリートとの相性の悪さがある。
陰魔法は人間相手には効果があるが、炎の化身には効きにくい。
なぜなら、陰魔法は人の魔力に直接働きかけるものだからだ。
さらに影を使った拘束もイフリートの怪力によってすぐに解かれてしまう。
そのため、ユリアンは雷魔法でイフリートと戦うしかなかった。
しかし、イフリートの持つ熱量は凄まじく、威力の低い魔法ではイフリートに届く前に消滅してしまう。
「……化け物だね」
ユリアンがそう言って焦った表情を見せる。
それはイフリートに向かって吐いた言葉ではない。
今にも倒れそうなオーウェンに向かって呟いた言葉である。
ユリアンは、これほど強力な精霊を召喚させられる学生を見たことがない。
オーウェンの才能に対し、驚嘆を隠しきれない。
「侮ってもいなければ、過小評価もしていなかったのだけど……」
本体であるオーウェンを倒せばこの戦いを終わる、とユリアンは考える。
だが―――、
「あああぁぁぁぁぁ――――――――!」
イフリートの猛追がオーウェンに対して攻撃する暇を与えてくれない。
イフリートが口から火炎を吐き出す。
それに対し、ユリアンは黒壁を作り出す。
しかし、火炎の威力に耐えきれなかった黒壁がぼろぼろと崩れた。
そして、イフリートが猛烈なスピードでユリアンに迫りくる。
「漆黒の雷」
ユリアンは陰と雷の複合魔法を放つ。
2つの異なる性質を組み合わせた複合魔法は、互いの性質が上手く絡み合い、高出力の魔法となる。
「があぁぁ――――ッ!」
イフリートが火炎を吐き出した。
黒い雷と灼熱の炎がぶつかり合う。
その衝撃は今までのやり合いとは比較にならないほどの爆音と爆風を撒き散らした。
ユリアンはすぐに次の魔法を放つ態勢に入る。
「漆黒の監獄よ」
どす黒い球がユリアンの前に出現した。
そこに込められた魔力量はユリアンの全魔力量のおよそ4分の1。
まさしくユリアンの必殺技だ。
「精霊を飲み込みたまえ!」
迫りくるイフリートに向かって真っ黒な球を発射した。
球はイフリートの目前に来ると、突然膨張を始めた。
「―――がああぁぁ!」
イフリートも本能的に焦りを感じたのか、黒い球から距離を取ろうとした。
しかし、イフリートが動くよりも先に黒い球はイフリートを飲み込んだ。
急に膨張したそれはイフリートを飲み込んだ瞬間、膨張を止める。
そして、黒い球はころころと転がり、ユリアンの目の先で止まった。
イフリートがいなくなったことで、会場はしぃーんと静寂に包まれた。
「まさか……この技を使うことになるとはね」
ユリアンは小さくなった黒い球を見ながら呟いた。
対象を黒い球の中に閉じ込めるという、シンプルな魔法だ。
だが、物理的なものでイフリートを閉じ込めても、イフリートの怪力によってすぐに破られるだろう。
だから、異空間に閉じ込めたのだ。
イフリートがどれだけ暴れようが、黒い球から抜け出せないようにするために。
それこそ……異空間とこちらの空間とで強い繋がりでもない限り、イフリートが自力で出てくることはない――――。
と、そう思った瞬間、ユリアンは「しまった!」と声を上げた。
その直後―――パキンッ―――。
黒球が割れた。
その中からイフリートが姿を現した。
なぜ……こんなことにも気が付かなかったのだ。
オーウェンが召喚した精霊だ。
それならオーウェンという強いつながりが、こちらにはあるじゃないか。
そんな簡単なことですら、ユリアンは失念していた。
「ああぁぁぁぁぁ――――!」
黒い球から出現したイフリートがユリアンに向かって拳を振った。




